法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第7回会議 議事録(転載)

転載者補足

以下は、法務省の許諾を得て、法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の議事録をHTML形式に変換して全文転載するものである。法務省は(平成18年までのものについては)審議会議事録を「.exe」「.lzh」形式で公開しているため、通常のWeb検索でこれらの議事録がヒットしない状態にある。このままでは、国民がハイテク犯罪に対処するための刑事法について正しい理解を得る機会を損失し続けてしまうと考え、ここにHTML形式で転載するものである。転載元および他の回の議事録は以下の通りである。

転載元: http://www.moj.go.jp/SHINGI/030723-2.html

議事録一覧:

転載

法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第7回会議 議事録

第1 日時 平成15年7月23日(水) 自 午後1時32分 至 午後4時40分
第2 場所 法務省第1会議室
第3 議題 ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備について
第4 議事 (次のとおり)

議事

●予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の第7回会議を開催いたします。

●本日は,御多忙中のところ御出席くださいまして誠にありがとうございます。

初めに,当部会に関係官として御出席をいただいておりました経済産業省商務情報政策局情報セキュリティ政策室長の大野秀敏関係官が異動になられまして,後任に印南朋浩関係官が着任されました。今後,関係官として,当部会に御出席をお願いすることとなりますので,御了承を願います。

前回も申し上げましたけれども,特に進行につきましての御意見等がございませんでしたら,今回は前回に引き続きまして,これまでの議論を踏まえまして要綱(骨子)の第五から第八までについて,まとめに向けた議論を行いたいと考えております。

なお,弁護士の委員の方から,席上に日本弁護士連合会の意見書が配布されておりますが,第五から第八の部分につきましては,部会の委員・幹事として御意見がございましたら,本日の審議で御発言いただきまして,第一から第四の部分につきましては,補足的に御説明などがあれば,最後にお願いをしたいと存じます。

本日の議論の進め方,このような形でよろしいでしょうか。

それでは,そのような形で議論を進めたいと思います。

まず,本日は,事務当局の方でこれまでの議論を踏まえまして要綱(骨子)の第五から第八までの部分につきまして,修正案を作成しているということでございますので,その案につきまして事務当局から御説明をお願いいたしたいと存じます。

●事務当局の方で,これまでの御議論を踏まえまして要綱(骨子)の第五から第八までの部分について修正案を作成いたしましたので,御説明させていただきます。

これにつきましては,本日,席上に「要綱(骨子)修正案」と「新旧対照表」をお配りしていますので,御参照いただきたいと思いますが,要綱(骨子)第七の一につきまして,従来の案に「ただし,差押え又は記録命令付き差押えをする必要がないと認めるに至ったときは,当該保全要請を取り消さなければならないものとすること。」を加えることにいたしました。

保全要請の制度は,通信履歴の電磁的記録が一般的に短期間で消去される場合が多いことなどから,捜査機関が差押え又は記録命令付き差押えによって取得するまで,プロバイダ等に対してこれを消去しないよう求めることができるというものであり,従来の案におきましても,捜査機関は差押えや記録命令付き差押えの必要性がないと認めるに至った場合には,被要請者の負担に配慮し,その旨を通知する取扱いをすべきこととなると考えておりましたが,この点につきまして,要綱(骨子)案上,明確に規定することとしたものでございます。

●ただいまの修正案に対しまして御質問等があろうかと思いますけれども,その点につきましては,これから行います要綱の各項目ごとの御議論の中でお願いをいたしたいと思います。

本日は,要綱第五から順に議論を行いたいと思いますが,これまでの議論の中で御指摘になられました論点につきまして,席上にメモが配布されておりますので,これに基づきまして議論を進めてまいりたいと存じます。

それでは,まず,要綱(骨子)第五に関しまして議論をしたいと思いますけれども,配布されております論点についてのメモの該当部分につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。

●それでは,配布させていただいております「論点(メモ)」に基づきまして,これまでの議論で指摘された要綱(骨子)第五に関する論点について御説明をいたします。

一つは,要綱(骨子)第五の処分を許すことは,憲法35条の要請を満たしているのかという論点でございます。

これにつきましては,既に委員・幹事の方からも考え方がお示しされておりますが,改めまして事務当局で整理しているところを簡単に御説明をさせていただきます。

まず,憲法35条1項の押収物の特定・明示の要請につきましては,その趣旨は,「正当な理由」の有無を裁判官に確認させ,それを令状の上に明示させて,その範囲でのみ捜索・押収を行うことを捜査機関に許すことによって,捜査機関の恣意的な捜索・押収が行われないようにするというものですが,その特定・明示は,何らかの要因によって適切に行われればよく,押収物が所在する場所によって特定される必要はないと考えられます。このことは,例えば自動車の差押えが許可される場合を考えれば明らかであると思います。

要綱(骨子)では,裁判官の差押許可状に,「差し押さえるべき物」である電子計算機のほか,「当該電子計算機と電気通信回線で接続している記録媒体であって,当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用していると認めるに足りる状況にあるもの」の範囲を明示しなければならないとしており,これによって要綱(骨子)第五の処分を行うことができるリモートの記録媒体は特定・明示されることになるわけですから,押収物の特定・明示の憲法の要請は満たされていることは明らかであると考えております。

次に,憲法35条2項の各別の令状の要請ですが,これは憲法35条1項の捜索場所又は押収物の明示の趣旨を令状形式の面でも徹底しようとしたものであるとされ,実質的には,場所や対象が別個であったり,同一の場所や対象でも機会が異なれば,「正当な理由」の存否の判断も違ってくるのが通常であるので,それぞれについてその都度「正当な理由」の存否を裁判官が確認した上で,捜索・押収の処分を許可することにしようとするものであると考えられます。

したがいまして,場所や対象が異なっても,そのすべてについて「正当な理由」が存在する共通の蓋然性が認められ,同一の機会に一括して処分が行える関係にある以上,一つの令状でこれを許すことは憲法35条2項に反するものではないと考えられます。

このような各別の令状の要請の趣旨にかんがみますと,要綱(骨子)第五の処分により,そこに記録されている電磁的記録を複写することが許される,差し押さえるべき電子計算機に「電気通信回線で接続している記録媒体であって,当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用していると認めるに足りる状況にあるもの」は,物理的には差し押さえるべき電子計算機と異なるものでありますが,その性質上,証拠となるべき内容が存在する蓋然性は共通に認められることから,電子計算機の差押えが許されるときに要綱(骨子)第五の処分を許すことは,憲法35条2項には違反することにはならないと考えられます。

このように,要綱(骨子)第五の処分を認めることは,憲法35条の押収物の明示の要請も各別の令状の要請も満たすものであると考えられるところでございます。

これに関して,要綱(骨子)第五の処分が許されるのであれば,有体物に対する捜索差押えについても限定がない解釈に広がるのではないかとの御議論がございましたが,例えば,別の場所にある複数の倉庫については,裁判官は,それぞれについて「正当な理由」の有無を確認すべきであって,両者を一体的に判断することは許されないので,一つの令状で複数の倉庫を対象とする捜索差押えを許可できるということにはならないと考えております。

次に,差し押さえるべき電子計算機とLANで接続されている記録媒体からの複写についての考え方といたしまして,差し押さえるべき電子計算機にLANで接続されている記録媒体については,差し押さえるべき電子計算機と一体的に使用されている記録媒体とは言えないのであるから,これからの複写は許されるべきではないとの御意見がございました。

しかしながら,差し押えるべき電子計算機とLANで接続され,当該電子計算機からアクセスして電磁的記録を記録することが可能な記録媒体は,当該電子計算機以外の電子計算機からアクセス可能であっても,当該電子計算機のローカルな記録媒体と,証拠となるべき内容の電磁的記録が存在する蓋然性は同等であるというべきですから,これに差し押さえるべき電子計算機の差押えの範囲を拡大することには十分な合理性があると考えております。

御意見は,LANで接続されている記録媒体は,差し押さえるべき電子計算機の使用者以外の者の電磁的記録も記録されているということに理由があると思われますが,そのような場合であっても,差し押さえるべき電子計算機の使用者以外の者は,差し押さえるべき電子計算機の使用者によるアクセスを了承しているのでありますから,その限度で利益の制約を受ける理由があると考えられますし,また,当該記録媒体に無関係な電磁的記録も記録されているというのは,当該記録媒体自体を差し押さえる場合においても同様の利益状況でありますから,司法審査を経ている以上,LANの場合にも本処分を行うこととすることは許されると考えられます。

●それでは,まず,この第五につきまして御議論を賜りたいと思います。どなたでも結構ですから,自由に御発言を賜りたいと思います。

●お手元に,日本弁護士連合会の7月18日付の意見書が来ていると思いますが,この意見書に基づいて,私の意見を述べさせていただきます。

この意見は,日弁連内部で,コンピュータ問題等に詳しい弁護士,更には各省庁の方々も入っていただいての研究会を続けてまいりまして,また経団連を始めとする業界の方々からも意見を聞きました。それから,インターネットを利用して市民運動をやっている方々からもいろいろな意見を伺ったと。そういう中で,まとめてきた意見でございます。

第五は,23ページ以下になります。

まず,【意見】としましては,要綱(骨子)の第五につきましては,日本弁護士連合会の意見はこのような規定を新設することに強く反対するというものであります。

なお,仮にこのような規定を新設するとしても,少なくとも下記のような修正が施されるべきであるということで,

裁判所は,差し押さえるべき物が電子計算機であるときは,当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって,専ら当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために現に使用されていると認めるに足りる状況にあるものから,その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上,当該電子計算機又は他の記録媒体を差し押さえることができるものとすること。

というふうに修正すべきであると考えます。

【理由】の点ですが,1項は省略しますが,2項ですけれども,憲法35条との関係,今,○○幹事の方から既に反論いただいたわけですけれども,我々の考え方を述べますと,本要綱(骨子)については憲法35条1項は捜索する場所,そして押収する物,これを特定して令状に明示することを求めているわけでございます。

要綱(骨子)第五は,リモートアクセスによって接続されている別のコンピュータの設置されている場所を特定し,差押許可状に明示しなくても,もとのコンピュータについて特定さえされていれば,もとのコンピュータに対する差押許可状だけで別のコンピュータに対する差押えを可能にするという意味において,憲法35条に違反するのではないかという疑問がございます。

この点について,今の御説明でも,憲法35条を合衆国憲法修正4条とほぼ同様に理解して,「正当な理由」があるかどうかを審査すればいいのであるという御説明がありましたが,両者の制定過程を比較すれば,両者は全く同一の構造を持つ規定ではないというふうに考える学説も有力だと理解しております。

また,憲法35条が捜索押収令状において場所,物を特定し明示することを要求している趣旨というのは,強制処分の対象ないし範囲を事前に確定した上で,それを被処分者に対して明示し,それ以外には強制処分が及ばないということを手続的に保障するという点にあるわけですから,令状における場所,物の表示は,捜索・押収に当たる捜査官にとってのみならず,被処分者にとっても捜索・押収の現場においてその表示自体で対象ないし範囲を容易かつ一義的に識別することが可能な程度に,個別的,具体的で自己完結的なものでなければならず,捜査官による裁量的な事後的補完を必要とする不十分さ,あいまいさ,多義性を持つものであってはならないというふうに理解されていると思います。

そうであるならば,要綱(骨子)第五はリモートアクセスによって接続された別のコンピュータの設置された場所を特定し,明示しない令状をもって,別のコンピュータに保存された電子データを差し押さえることができるとするものであって,リモートアクセスによって接続された別のコンピュータの場所を特定しないでも,コンピュータに蔵置された電子データを差し押さえることができるとすることは,上述した憲法35条に違反し,許されないというふうに考えます。

先ほどの○○幹事の御説明の中にもありましたけれども,同じような考え方を有体物についてもとっていくとしますと,これは憲法35条の保障を弛緩させ,やがては有体物に対する差押えについても従来より緩やかな要件で,合理性さえあればよいというような要件で,令状に明示された捜索すべき場所とは異なる場所にある物に対する差押えをも許容する事態を招いていくのではないかということを考え,日本弁護士連合会としては要綱の第五については強く反対せざるを得ないというのが原則的な主張でございます。

なお,仮にこの要綱(骨子)第五のような規定を新設する場合においても,要綱の文言というのは大変限定が不十分であって,我々としては「専ら」という言葉と「現に」という二つの用語を付してきちんと限定すべきであるというふうに考えております。

要綱の第五が前提としておりますサイバー犯罪条約の19条の注釈書というものを見ていきますと,「インターネットのような通信システムを通じて間接的にコンピュータと接続された関連するデータ記憶装置内に蔵置されている場合」というのを想定しているということで,事務当局のこれまでの説明によりますと,留守番電話,メールボックス,リモートストレージ,そしてLAN,この四つが挙げられていたわけです。前の三つについてはかなり一体性が高いというふうに我々も考えますけれども,LANの場合,これはパーソナル・コンピュータとLANで接続されているグループウェアサーバの記録媒体の記憶領域であって,被疑者のIDによってアクセスできるものということなんですが,このLANの場合が最も問題であると考えます。要綱(骨子)第五に掲げている「保管するために使用されていると認めるに足りる状況にある」という要件だけでは,単にアクセス権限があって保管するために使用することができる状況にあるだけでも差押えが認められることになります。これを認めていきますと,アドミニストレーターとしての権限,管理権限,ルート権限がある者,例えばシステムの管理者や代表取締役といった人に対して令状が出されたような場合,LANで接続されている全国各地に設置された一つの会社のすべてのコンピュータに蔵置された電子データというのが差押え対象に拡大されていくということを許容することになりかねません。これは,およそ憲法35条が許容していない,極めて広範で無制約な差押えを認めることにつながってしまうと考えます。

したがって,「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況」というのは,「専ら」という言葉,そして現実に保管するために使用しているという状況,これは「現に」という言葉,この二つの用語を付して限定すべきであると考えます。

●これは,○○委員の御意見として承っておけばいいわけですね。

●日弁連がまとめていますが,私の意見として今は話させていただきました。

●日弁連の意見ではなくて,○○委員の御意見なんですね。

●それで結構です。

●ただいまの修正意見は,要綱案の第五の一について,「専ら当該電子計算機」ということと,「現に使用されていると認める」と,この「専ら」と「現に」という言葉を入れるべきではないかという御提案でございます。これについてはいかがでしょうか。

●○○委員の御発言は,それに限らず,全面的に反対という御意見が前提になっていると思うのですが,○○委員の方から御質問がありました点から始めさせていただきますと,○○委員の御発言は,日弁連でまとめられた御意見を紹介するというものであっても,○○幹事のさきほどの説明を踏まえたものにはなっていない,つまり,その前にまとめられたものを紹介しただけではないかという感じがします。

中身的にもかなり問題があると思いますので,少しお話しさせていただきたいと思います。

まず,憲法35条は,アメリカのように「正当な理由」があれば,捜索場所と目的物の特定は不要という考え方に立っているという前提ですが,どこからそういうことが出てくるのか,私には全く理解できません。アメリカでも,捜索場所と差押目的物の特定というのは憲法上非常に重要な要素であって,それが欠ければ明らかに憲法違反なのです。その点において,我が国の憲法も全く同じ考え方に立っているということは,制定過程等を見ても明らかなことであるわけです。

先ほどの○○幹事のご説明も,正当な理由だけあれば足りると言っておられるのではなく,目的物の特定もされているという御説明であったというふうに理解しておりまして,そこのところにつき,○○委員には思い違いがあるのではないかと思います。

しかも,ここでは,差し押さえるべき電子計算機と接続しているものについての差押えを認めるということであり,捜索についての話ではなく,押収についての話なのですね。憲法の要請の捜索すべき場所というのは,明らかにその言葉からいっても捜索について捜索が行われるべき場所的範囲を示せというものであって,差押えの場合は押収に属するわけですので,押収目的物が特定されているということが必要で,かつそれで足りるわけです。したがって,捜索すべき場所が書いていないというのは,その前提が誤っているといわなければなりません。

その上,仮に,捜索すべき場所の特定がなければいけないとしましても,○○委員のご意見は,憲法にいう「場所」の概念を誤解しているのではないかと思います。つまり,捜索というのは,住居等の物理的な意味での場所以外にも物とかあるいは人の身体についての捜索というものもあるわけですが,その場合,どこで捜索が行われるかというのは,住居等の場合は物理的な意味での場所ですけれども,人の場合は人の身体であり,物の場合は物であり,それが憲法で言っている「捜索が行われるべき場所」であるわけです。

人の身体の場合を考えてみればはっきり分かることですが,例えば○○委員の身体を捜索するという場合に,霞ヶ関何番地かの法務省の20階のこの場所にいる○○委員と書かなければならないかというと,そういうことではないと思うのです。○○委員という人が特定されていて,その身体について捜索が行われればいいわけです。物の場合だって同じことなのですね,特定さえできれば。そういうことですので,その点についておっしゃったことは当たっていないというふうに言わざるを得ません。

もう一つは,捜査官に判断の余地を残すのは憲法の趣旨に反するということがあったと思うのですが,例えば物の場合も,捜索差押許可状を出すときには,具体的にどういうものが捜索場所にあって,どういうものを差し押さえるべきかというのは,令状発付の段階では,場合によっては厳密に特定できる場合があるかもしれませんけれども,ほとんどの場合は多分に予測の要素が入っているわけで,その段階ではそういう書き方しかできないのですね。そういうことを封じるということになれば,これはもう不可能を強いるわけで,実際的にみる限り物や書類の場合にも,最終的には捜索の現場で関連性の判断を行わざるを得ないし,行っているわけです。そして,そのことは,これまでも憲法上許されるという解釈でずっと来ているわけで,それと質的に異なるのか,ということだろうと思うのです。

あと一つは,こういうふうな差押えを認めれば物に対しても広がっていくということなのですが,さきほど○○幹事が御説明になったとおりで,別の倉庫について捜索を行うということになれば,それぞれの倉庫について目的物が存在する蓋然性というのは異なるので,「正当な理由」の判断というものも別々に行わなければならない。このリモートの場合は,そういう正当な理由,つまり目的のものが存在する蓋然性が共通しているということに加えて,同一の機会に行う処分だということがあるわけですが,倉庫の場合には,同一の機会に行うということはあり得ない。そういう意味でも,広がっていくということは考えられないのですけれども,そこを強調されるのは,杞憂なのか,あるいは取って付けた批判ではないかという感じがいたします。

●3点にわたって○○委員が反論されたわけですが,それについてはいかがでしょうか。

●○○委員に伺いたいのですが,我々が提案している修正案の方ですけれども,アメリカ憲法でも日本の憲法でも特定は非常に重要であって,なるべく恣意的な判断を避けた方がいい,蓋然性が共通であるということが一つの要件であるというふうに言われるのであれば,「専ら現に使用されている」というふうに制約した方が○○委員の議論にもかなうように思いますが,この意見には賛成なんですか,反対なんでしょうか。

●総論的な反対論が理論的に余りにもいかがかと思ったものですからそこに集中してお話しましたが,各論的な提案について申しますと,まず,「専ら」というのは,範囲を限定するということにはなるかもしれないですけれども,特定の問題とは関係がないと私は思います。

手元にある差し押さえるべき記録媒体ないしコンピュータでも,ほかの人と共用しているという場合があるわけですが,その場合にも,その中に関連性のある記録が入っており,それが分離不可能であれば,その記録媒体ないしコンピュータ全体を差し押さえざるを得ないわけです。それとどこが違うのか,ということだと思うのです。

しかも,「専ら」というものを付しますと,手元のコンピュータの使用者が,専属的・排他的にそこを使っている場合に限られることになると思うのですが,そういう場合に限る必要というのが果たしてあるのか,また妥当なのかですね。今は,御存じのように,いろいろな人が大きなコンピュータを何らかの意味で共用していて,それぞれが自分が使っている部分を持っている。それは,他人にも使える場合もあれば,自分が専属的に使えるという場合もあるわけですね。いずれの場合にも,そこに押さえるべきデータが入っているならば,それを差し押さえる必要性があるわけですし,手元の媒体などについての差押えの場合と,相手方の権利等に対する侵害の程度が違ってくるわけではないのではないか。

もちろん,関連性がある部分に限って差押えができる,当の記録の部分だけを分離できるということであるならば,手元にある媒体等の場合にも,そうするはずだろうと思うのです。

次に,「現に」という点は,提案理由として述べられたような趣旨は原案で十分満たされているのではないかと思います。むしろ,「現に」という文言を付加しますと,差押えに行ったそのときに,コンピュータが動いていて,現につながっているところというふうに,かえって,限定して読まれる可能性があり,そこまで限定するのは果たして適切なのかと思うものですから,原案が妥当であろうと考えます。

●ほかに御意見いかがでしょうか。

●1点,今の○○委員の御発言にも関連するのですが,質問をさせていただきたいのですが。

この「専ら」という方ですけれども,この「専ら」というのは恐らく保管するために使用されているということが「専ら」だという意味なんだろうと思うのですが,要するに,「専ら」をつけることによって何を外そうとされているのかというところがいま一つよく分かりません。

当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を専ら保管するために使用されているということだとすると,先ほどのお話にあったようなLANで共用しているようなものを外そうという趣旨かなという気もするのですが,例えばプロバイダのメールサーバというのは,クライアントといいますか,利用者としては,そのサーバの一定部分,一定範囲のメールボックスをそういう意味で保管するために使用はしているのですが,サーバから見るといろいろな人のメールボックスがあるわけで,それを「専ら」と限定してしまうと,メールサーバも外れてしまうことにならないのかという疑問があります。

●そうはならないと思います。ここは,「電子計算機」となっているのじゃなくて,「記録媒体」というふうにはっきりなっていますから。

この25ページに事務当局の方で御説明いただいた㈰から㈬までが載っていると思うのですが,携帯電話の留守番電話や電子メール,それからメールサーバのメールボックスの記憶領域,リモートストレージサービスのサーバの記憶媒体の記憶領域というのは,これは一体性がある,「専ら」だというふうに我々は考えているわけです。

それらとLANとは質的に違っていると。LANの場合も,例えば私が使っているコンピュータから私だけがアクセスしてパスワードをかけてあって別のサーバに保管しているものがあれば,それは構わないのですよ,それは構わないと思います。だけど,たくさんの人がファイルを共有していて,うちの事務所もそうなっているのですけれども,別の弁護士が作っている文書も全部読めるわけです。もちろん,そういうことを制約していく方法があることも知っていますけれども,ほとんどのオフィスで非常に便利だからということでファイル共有はかなり広範に行われていると思います。そういう場合に,別の人が作って別の人が専ら使っているもの,しかし,時たまB弁護士が作っている文書を私が訂正して別の文書を作りたいと思ったときに,探せば見つかるというような形で使っているような部分,これも正しくアクセスできるわけですね,現に私自身アクセスできるわけです。そういうような部分にまで捜索差押えが及ぶということは,これは明らかに共通の蓋然性があると,先ほどから何度も言われていた証拠がある共通の蓋然性があるというふうにも言えないし,余りにも令状における特定が後退してしまっているというふうに考えざるを得ない。そういう部分を除外してほしいという意味です。

この部会の議論の中で,ずっと議論してきて,当初はLANでアクセスできればすべて入れるのだという御説明だったのが,途中からA課,B課という会社の何々課が専ら使っているとか,そういう議論が出てきましたね。そういう議論が出てくるというのも,ただ単にアクセスできるというだけでは広過ぎるという御認識があるのじゃないかと思うのです。だけど,課という単位であれば構わないというのも私にはよく分からない。その中の個人のコンピュータについて令状が出ているのであれば,その個人が専ら使っているものまでを一つの令状でいくべきで,それ以外ところまでいきたいということであれば,ほかの倉庫と全く同じだと私は思いますので,ほかの倉庫と同じように考えていただいて,別の令状をとってもらいたいという趣旨でございます。

●いかがでしょうか,ただいまの議論。

●私も,令状主義の総論的な部分に熱い情熱はありますけれども,それは語るのはよしておいて,今の「専ら」ということと「現に」ということ,それから今の○○委員の御説明を聞いていて感じたことなのですが,まず最初,文章を読んで「専ら」というのが「処理」にかかるのか「保管する」というのにかかるのか,どっちか分からなかったのですが,今のお話ですと「保管する」と,こっちにかかる,こういうことのようです。

ところで,今の設例ですけれども,Aという方が使っているパソコンからどこかにつながっていて,セキュリティかけているので,そのAという人だけが使えるところだったら,そこには到達してもいいのだけれども,A,B,C複数の人が使っているようなところ,そういう領域については及ぶべきでないと,こういう御意見,御趣旨のように伺ったのですが,その場合の理由づけとして,そこまで及ぶと,例えば被疑事実に関する証拠が普通はないのだという,こういう前提のようですが,私はむしろ逆ではないかというふうに思うわけです。そういう領域にも,Aという人が使って処理するファイルを置いている以上は,仮に共有ということでやっていたにしても,ある被疑事実について証拠となるものが存在する蓋然性というのは,当然その中の一部としてあり得るのは,むしろ逆なのではないかと。そういうところは,ないのではなく,そういうところに置いてあるのが普通だというふうに思うわけです。そうでないとすると,ある一人の人がいわばかぎをかけたどこかに入れておいたものは開けられるのだけれども,そうでなくて,5人,10人が使っている保管庫は開けてはいけない,こういう議論のように聞こえるわけですけれども,それはいささか奇妙な議論だなと,こういう気がしたわけです。

それから,「現に」というところですけれども,「使用されている」という以上は,それはそのような情報処理の用に供しているということだと思いますので,「現に使用されている」と言うと,現に演算処理しているかのような印象を受けてしまいますので,やはりこういう限定をかける意味合いというのは,私はよく分からなかった,こういうところでございます。

●この書きぶりがいいかどうかは別にしますと,気持ちとしては,甲という記録媒体をAが専ら使用しているという意味は,甲という記録媒体はAが独占的に使用しているという意味ではないのですよね。

大勢の人がそれを使っていてもいい,その記録媒体を保管するために使っていてもいい。大勢の人が使っていてもいいのだけれども,Aはその記録媒体を専ら使用していると。たまに使うのじゃないのだと。たまにと言うと変ですかね。

例えば,記録媒体を独占的に使用しているというような意味での「専ら」ではなくて,Aとしては自分のデータをその記録媒体に主に使用している……。ちょっと分かりにくくなって……。

●今の○○委員の御説明でまいりますと,幾つものところに分けてその都度保管しておると,「専ら」使用されている記憶媒体は存在しないということなんでしょうか。そういう理解でよろしいのでしょうか。

特定の媒体だけを使うのが一般的みたいに思われると,個人が小さい机の上で使っているような場合はこのフロッピーだけでとかこのハードだけでということはありますでしょうけれども,ここで想定されているようなことを考えますと,逆におかしな事態になるように思われますが。

●先ほどの○○委員の御意見なんですけれども,共有されているような部分にも証拠を隠す可能性はあるじゃないかというお話で,そういうことはもちろんあり得ると思いますけれども,そういうことが事前に分かっているのであれば,そういう部分についても令状をとればいいだけの話であって,基本的にその人が使っているコンピュータということで令状が出ているのに,そこからどこまでほかの令状をとらないでいってもいいかということを議論しているわけですから,そこに証拠があるかないかということを今議論しているわけではないというふうに思いますけれども。

●今の私の設例は,そこに確定的にあることが事前に分かっていると,こういう前提ではなくて,そこにそういうものが存在する蓋然性というのは通常認められることもあるだろうと。大本のパソコンと,それからそこからたどっていけるところのものがきちんと事前の審査の段階ではっきりしていれば,その大本のものとそこからつながっているところのいろいろなデータの蔵置先,それと被疑事実の関連性というのが事前に審査できるだろうと,こういう意味です。

その蔵置先のところにある特定のコンピュータが既に分かっているのであれば,それは当然それにかかっていくべきだと思いますけれども,常にそういうふうに分かっているとは限らない。使用者が使っている大本のパソコンと,そこからつながっている蔵置先の一定のある領域のところにデータが存在する蓋然性があると,そういう判断もできるだろうし,そういうことができた場合には,大本からたどっていけるところも範囲に含ませるべきだろう,こういう意味です。

●整理いたしますと,総論的な憲法第35条1項,2項との関係の議論は一応これを前面に出さなくても修正案の議論はできそうである。その中で「専ら」と「現に」の文言について,何らかの解決ができれば,要綱(骨子)第五は一応まとめられるというような印象を持ちましたのですが。

そこで,ただいまの「専ら」についての議論も,大体御理解いただけたような気がいたしますが,いかがでしょうか。更にもう少し「専ら」について議論しようということであればいたしますが,すでに両者の対立はよく分かったような気がいたします。

ほかの皆さんはいかがでしょうか。

●「専ら」をつけるか「現に」をつけるかというのは,裁判官が令状請求を受けたときの審査すべき項目に差が出るかどうかというところにもかかってくると思うので,ちょっと……。

両者の差は,現に裁判官が令状コントロールを行う際に判断すべき項目に,あるいは判断するに当たっての原則的な考え方に影響を及ぼすかどうかという点に違いが出てくると思っているのです。基本的に共有フォルダとか,そういうもので一緒に使っているものについても,証拠存在の蓋然性と必要性があれば,それは捜索あるいは押収できる,物,中身を押収できる,これはどちらも違いがないと思うのですね。そうしたときに,○○委員意見が言いたいことは,要するに特定性を判断させるときに令状審査をしますと,そのときに捜査機関がA場所に存在するAコンピュータ,そこから接続されているといった場合に,管理権限によって全然捜索できる領域というのは違ってきますよね,物理的な場所は同じであっても。そうすると,捜査機関に対して裁判官は,例えばじゃアドミニ権限という令状請求は望ましくないと,なるべく管理権限をAが管理するという形で持ってこいと,こういうふうに裁判官は言うべきなのか,その辺は余り考えなくていいというのか。その辺は一般論として証拠存在の蓋然性があれば,アドミニ権限,あるいは当該ディレクトリー,あるいはファイルの管理権限は問わないと,その辺が違いが出てくるのじゃないかと思うのですね。

捜査機関が令状請求するときに,場所については問わないということにすると,どのファイルを開けられるか,だれがどういう名前で管理しているファイルとか,あるいはサーバとか,そういう形で特定しなければ令状は通らないということになるのでしょうか。そうではないというふうに理解しているのですけれども。そうだとすると,アドミニストレーター権限で令状が請求できることになる。そうすると,相当に広い範囲で開けられることになるのじゃないかという危ぐを持つのじゃないか,そういうことなのです。

●日弁連のこの意見書に,管理権限を単位として判断されるべきではないというふうに書かれていますけれど,要綱の方は,「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況」ということであって,さっき「現に」という点について私も申し上げましたし,何人かの方も言われたと思うのですが,これはむしろ現実に保管するために使用しているという状況がなければならないということなのではないでしょうか。むろん,管理権限というものが全く問題にならないわけではない,管理権限も一つの要素だとは思いますけれども,現実にそれがそういう目的のために使用されているということを示す状況が存在しなければ令状は出ない。ですから,そこのところで,ご趣旨のようなことはカヴァーされているのではないでしょうか。

「専ら」の部分は,○○幹事が言われたご趣旨がどういうことなのか私にはよく分かりませんけれども,裁判官が判断するときに,「専ら」と書いてあるかないかによって,特定性だとか蓋然性の判断の慎重さが違うということにはならない。対象の範囲を何らかの意味で限定するという,そちらの方の意味合いしかないのではないかと思うのですね。

ついでに申し上げると,○○委員はLANの場合だけを問題にされましたけれども,手元のコンピュータを何人かが共用しているという場合だって多々あるわけですね。そういう場合だって,そこに証拠となるデータが存在する蓋然性があれば,そのコンピュータ自体を差し押さえることができるわけですし,差し押さえるために捜索をすることもできるわけで,その点においては差異はないというふうに思います。

●いかがですか,ほかに違った観点からの御意見がありますと有り難いのですが。

●むしろ質問したいのですけれども。

こういう「専ら」というような限定がついていた方が,令状を審査して出される立場の裁判官としては,令状を出しやすいのじゃないかなと思って私らは作っているのですけれども,その辺はいかがでしょうか。

●いかがでしょうか,「専ら」があった方がいいのではないかということですが。

●今の点,現在のやり方であっても,あるいは今の○○委員の御発言の内容のものであっても,それで裁判官において令状が出しやすくなるということは,審査の内容が変わるということは恐らくないのだろうと思います。

●「専ら」とか「現に」という限定の意味が,提案されている割にははっきりしないといいますか……。この限定の趣旨,つまり,これにより何を限定しようとしているのかが分からないので,審査の内容がどうこうという前に,提案の趣旨の理解に苦しんでいるのです。

これで何を限定しようとしているのかが分からないものですから,これがついたら令状審査がどうなるかについては,お答えのしようがないのですが。

●私どもとしては,憲法の35条の趣旨も踏まえると,できるだけ捜索押収が及ぶ範囲は対象となっているコンピュータと同一のもの,一体性を持って認識できるものにすべきであると。

したがって,例えばコンピュータを使っている人が常に自分の文書はあるリモートストレージに保管しているとか,ないしはLANで結ばれているサーバでも,あるサーバの一定の区画に常にそこに保管していると,そうすればその区画はそのコンピュータの一部とみなしてもいいぐらい一体性が高いだろうと。そういう部分について,1通の令状で捜索差押えがされることは決して令状主義,憲法35条の場所と物を限定した趣旨にも反しないのではないかと。合憲限定解釈になるわけですけれども。

しかし,一般的に私どもが使っているコンピュータからアクセスして入っていくことはできるけれども,アクセス権限はあるけれども,通常は使っていない,しかし,たまにはそこにも自分が作った文書を,例えば私の同僚のコンピュータから一つファイルを呼び出してきて,それを修正したらそこにまたしまうわけですね。しかしそういうところにまで私のコンピュータに対する令状でもって捜索差押えが及ぶということは,これは憲法が保障している令状主義からして非常に問題があるのではないか,そういう場合を避けたいということで「専ら」という言葉をつけて,「現に」という言葉をつけているのですけれども,そんなに難しいでしょうか。

先ほど来から言われている㈰から㈫については認めると,㈬についても専らコンピュータ保管者だけがデータを保存している,そういうサーバの区画は認めると。しかし,単なる共有フォルダはやめてくださいという意味なんですけれども。

●今の御説明を伺って,やはり最初の私の疑問にまた返っていってしまうのですが,「記録媒体であって」の後の言葉というのは,記録媒体を限定している言葉ですので,今,○○委員が言われた記録領域を何か仕分けしたいという限定をするとすれば,ここに「専ら」を入れれば足りるという問題ではないのではないかというふうに思います。

●ほかにいかがでしょうか。

●今の御説明を伺っても,「専ら」の意味が私にはどうもぴったり分かりません。

やや変な聞き方ですけれども,先ほど○○委員が御説明になられた「専ら」の意義と,その前に○○委員が御説明になられた「専ら」の意義,あるいは今の○○委員の発言の前半で述べられた「専ら」の意義と,後半で述べられた「専ら」の意義というのは同じなのでしょうか。前半で述べられたのは,この人がいつもここを使っている,そういう意味の「専ら」だというふうに,先ほどの○○委員に引きつけられた御説明をされたように思いますが,最後のところでは,やはりみんなで使っているか,自分だけが使っているかという言い方をされたように私には理解されたのですけれども,一体そこが整合しているのかどうかというのがいま一つよく分からないものですから,ご説明をお願いいたします。

●基本的には記憶領域をとったときに,そこを使っている人が単独かどうかというふうに考えているのだと思います。確かに,今,○○幹事の方で,「記録媒体であって」というふうに言われましたけれども,その中で電磁的記録を記録媒体に複写するというふうになっているわけですから,その特定の記録媒体の中から関連する電磁的記録だけを複写してくるということは,これは当然予測しているわけで,当たり前のことですけれども,例えば我々の持っている携帯のメールのメールボックスなんかをそこのサーバに行って,そのサーバをとってくるわけはないので,その部分だけを記録媒体に複写するということを考えられているのでしょうから,LANの場合であっても,私が専ら使っているサーバの中の特定の部分を複写するということはあっていいと,しかしたくさんの人が使っていて,私がアクセスする権限があるだけで,別の人が専ら使っている部分,そういうような部分が捜索差押えの対象になることは避けてほしいという意味ですけれども。それに尽きるのですが。

●どうも,現場に行って,手元のコンピュータでつながっていそうなところは全部つなげてみて,開けてみるといったイメージで語られているように思うのですが,これは,あらかじめ令状裁判官が判断するわけですね。そのときに,目的とする電磁的記録が蔵置されている蓋然性があると認められるところでないと,令状は出ないわけで,令状発付の段階で予測もされず,捜索差押えの現場に行ってみたら,そこにあるコンピュータと何かつながっているのじゃないかというところまで広げて差押えを行うというようなことではないと思うのです。令状を出す段階で,そういうふうに使っていると認められる状況がある場合でなければ令状は出ないわけで,そういう意味では,先ほど例に挙げられたような,専ら他人が使っているのだけれど,そこにたまたまアクセスできるという程度で,そういう状況があるといえるかどうかですね。

しかし,共用している部分については,正に当の人も使っているわけですので,そんなところに捜査機関に渡ってはまずいデータを置いているかどうか,そういうことが現実にどのくらいあるかはまた別問題ですけれども,一見すると分からないような形でデータを置いている,それと手元のものやいろいろなところにあるものを組み合わせていろいろなことに使っているということはあり得るので,そういう場合は共用であるか専用であるかにかかわらず差し押さえる理由と必要があると思うのです。結局,証拠としての意味を持っているデータがそこにある蓋然性があるというふうに認められるかどうか,ということなのではないかというように思います。

●一番最初に,倉庫の場合には蓋然性が別々なので令状は各別になるというふうにおっしゃったのですね。ですから,やはり一体的に使用されている場合は蓋然性が共通だというふうに言われたら,私はそれはそのとおりだと思うのです。しかし,やはり共有フォルダの中に証拠が隠されている蓋然性と,自らが,その人が専ら使っているもの,その人が被疑者だとすれば,そこにある蓋然性とは違うわけですから,別の司法審査を経るべきではないかというのが私の意見ですけれども。

●御心配の事柄というのは分からなくもないのですが,仮に新しく立法でコンピュータの管理権限の差押えとか,そういうようなものを作ったとして,あるいはアクセス権限の差押えという,そういうようなものを作れば,おっしゃるような非常に具合の悪い事態というのは当然起こってくるので,そういう立法は好ましくないのは明らかなんですけれども,ここで提案されているような差押えの形態というのは,それとは違っていて,特定のコンピュータと,そのコンピュータとつながっていて当該電磁的記録が蔵置されているという蓋然性が事前に審査できる範囲のものだと思いますので,私はこの原案のとおりでいいのではないかと思いますけれども。

●それでは,主として「専ら」に集中したわけでございますけれども,修正意見の「現に」も含めまして,大体意見は出尽くしたような感じがいたしますので,これは次回の整理のときにまとめたいと思っております。いろいろな御議論,大変ありがとうございました。

それでは,第六の方に進ませていただきたいと思います。

論点の説明をお願いいたします。

●要綱(骨子)第六につきましては,書面で協力要請を行わなければならないものとすべきではないかという御意見がございました。

これにつきましては,協力要請の内容は,捜索現場の状況ですとか,実施途中の状況により様々でありまして,流動的ですので,書面によらなければ協力要請を行うことができないとするのは適当ではない上,被要請者といたしましても,その内容を明確にする必要があるときは,現場で捜査機関に尋ねることができるわけですから,その点でも協力要請を書面で行わなければならないとか,協力要請したことを証明する書面を交付しなければならないと法的に義務付ける必要性はないものと考えております。

●日弁連のおまとめになったところを拝見いたしますと,26ページで「特に異論はない」ということでございますが,何か御意見ございましたら……。

●要綱五と関連して,どちらかというと要綱五の方でお聞きすべきかもしれませんが,ちょっと1点質問させていただきたいと思います。

捜査機関が要綱五の処分を行っていく場合に,差押状の執行を受けた人の協力だけでなくて,ストレージサービスを提供しますサービス提供事業者の方々の協力が必要となる場面として,例えばパスワードを解除してもらうとか,リモートストレージされている電磁的記録を複写するに当たっての技術的な事項の教示を受けることといったことが必要になってくるのではないかというふうに考えておりますが,ただこのようなことにつきましては,通信の秘密や個人情報の保護に関する義務といったものと衝突しないかと御心配の向きも起き得るのかなと少々気にしております。

要綱第五の処分の場合の,今言ったような方々については,例えばこの要綱六で出てきますような協力という形の規定もありませんけれども,他方,私どもとしては,要綱五の処分を行う司法審査を経た令状が出ております以上,このような処分の際に捜査機関に対して今申し上げたような協力を行っていただくことが,通信の秘密や個人情報の保護の関係で,その事業者の方々がいわば危険負担にさらされるようなことはないというふうに理解できるのではないかと考えておりますけれども,そのあたりはいかがお考えかという点について質問したいと思います。

●要綱(骨子)第五の処分は,今,御指摘がございましたように,令状が出て,その範囲で許されていることでございますので,そういう形での義務の衝突といいますか,それによって相手方が民事上の責任等を負うことにはならないと,そういうふうに考えております。

●よろしいでしょうか。

ほかにいかがでしょうか。

●今の点は,例えば,捜索場所の住居にかぎがかかっている場合に,かぎ屋さんに頼んでかぎを開けてもらうのと異ならない。令状が出ていないのに,かぎ屋さんが勝手に開けて入ったら,それは違法ですが,令状の執行を補助する場合はそうではない。それよりは強い守秘義務等がかかっている場合ですけれども,基本的には捜査機関から依頼を受けて,その協力者としてやったことで,全体としてはやはり捜査機関の行為であるというふうにとらえれば,そこのところは義務との衝突は生じないということになるのではないでしょうか。

●私は,書面によるということが検討されるべきだというふうに思っている者なんです。その理由は,協力による民事免責の問題があるからです。

前回,質問したときの○○委員からのも,そのような強制執行,強制処分のもとでの協力であるから,令状が出ているのであるから民事責任は負う余地はないと。○○幹事からも,今,そのようなことはないということがはっきり言明されたので,実体的にはそのような理解で私もこれから疑問なくいけるということであるわけです。

ただし,実体的にはそれはそうなのですね,訴訟になって,裁判官に判断を委ねた場合はそれでいいのですが,実際には協力をする段階で契約上の守秘義務を負っている者については,自らの行為がそれによって行われたということを対外的に立証して紛争から回避していく,あるいは何か言われたときに,それで紛争が回避できるようにしなければならない。あるいは訴訟提起されたときに,その立証方法として,これこれの捜索手段の際に捜査機関の要請によって協力したということが容易に立証できるようにしてあげる必要があるのじゃないか,そういう手続面での負担を考えると,やはり事後的であっても,協力要請があってそれに協力したという記録が残るシステムが望ましいというか,あるべきだというふうに考えているので,是非その辺は御検討いただきたいと思います。

●別に提案ということじゃないのですね,修正するとか。

●できれば,協力要請を書面によってというのは残していただきたいとは思っておりますが。

●ほかにいかがでしょうか。

それでは,特になければ,この辺で休憩をとらさせていただきます。

(休憩)

●それでは,会議を再開いたします。

休憩前に要綱(骨子)の第五及び第六,主として第五でございましたが,御議論いただきましたので,要綱(骨子)第七につきまして議論を行いたいと思います。

まず,配布されております論点のメモにつきまして,事務当局から説明をお願いいたします。

●要綱(骨子)第七につきましては,まず,保全要請が対象となる通信履歴の電磁的記録の差押え等の強制処分を前提とした制度であることを法文上明示することの要否について御議論がありましたが,今回,先ほど提示させていただいた修正案によりまして,保全要請の制度が差押え等の強制処分を前提とした制度であることはより明確になるものと考えております。

次に,保全要請の期間を90日としていることについては,長過ぎるのではないかという観点から,その期間を60日間とした上で,特別の事情がある場合に90日間まで延長できるとしたらどうかとか,その期間を短期のものとし,延長が必要な場合に司法審査を経ることとしたらどうかなどとする御意見がございました。

要綱第七の保全要請の期間の上限を90日間としたのは,サイバー犯罪に関する条約の規定に従ったものでありますが,実務的にもその程度の期間とする必要があると考えられます。すなわち,現在も,捜査機関はプロバイダ等が保管しているログ等の電磁的記録に係る記録媒体の差押えを行うに際して,事前にプロバイダ等に連絡し,必要な電磁的記録の抽出を依頼するとともに,差押え実施の日程調整を行うことがありますが,大手プロバイダの場合,プロバイダの都合により連絡から差押えの実施まで2か月程度かかることもあると承知しており,保全要請から差押えまでに相当な期間を要することとなると予想されるケースもあると考えられることから,保全要請の期間の上限は90日程度とする必要があるものと考えております。

他方,90日間は保全期間の上限でありまして,個々の保全要請の実施に当たっては,具体的事案に応じて,犯罪捜査に必要な適切な期間が定められるものと考えておりますし,また,捜査機関は,保全対象の電磁的記録に係る差押えが可能となれば,保全の期間内であっても速やかに差押えを実施することになると考えております。

なお,保全要請は,被要請者に保全の義務を負わせるものではありますが,要請拒否に対する罰則などもないものでございまして,憲法35条が予定しているような法益を侵害するものではないので,司法審査を必要であるとする必要はないものと考えております。

保全要請の必要がないと認めるに至ったときにおける取消規定の要否につきましては,先ほども御説明いたしましたとおり,要綱(骨子)第七を修正してこれを設けることとしたものでございます。

最後に,保全要請に違反した場合に罰則を設けることの適否についてでございますが,保全要請は,被要請者に保全を法的に義務づけるものではありますが,保全要請は捜査機関の判断によって行うものであること,現行法上,類似の性質を有する捜査関係事項照会,それから裁判執行に関する照会のいずれにつきましても,刑罰等による制裁が設けられていないことに照らしまして,制裁規定を設けないこととしたものでございます。

●それでは,御発言をお願いいたします。

●意見を述べる前に,1点だけ,前回議論したときに聞き漏らした点があるので質問をさせていただきたいのですが。

この要綱(骨子)の「その業務上記録し,又は記録すべき電気通信」という部分についてですが,これは要請を行った時点までに既に記録されていた通信に限定するという趣旨で理解してよろしいのでしょうか。それとも,その要請後,90日間ずっと保存しておけというのですが,その間にまた来たものというものも含むのでしょうか。ちょっとその点だけ確認したいのですが。

●要綱(骨子)では,この保全要請の対象を,被要請者が「業務上記録し,又は記録すべき」通信履歴の電磁的記録としておりますが,この「記録し」の方は,要請の時点までに記録されているもので,「記録すべき」の方は,これから業務上記録することとなる通信履歴の電磁的記録という趣旨で,両方含めるものとして考えているものでございます。

●よろしいでしょうか。

●はい,分かりました。

それでは,意見を述べさせていただきます。

お手元に配りました意見の,まず骨子の部分を御説明します。

この保全要請に関しては,保全要請の新設に強く反対をするという意見です。その理由は後で述べますが,仮に保全要請の規定を新設する場合においても,以下の点を修正しない限り反対であるということで,1から5まで具体的な条件を述べております。

まず保全の必要性,通信履歴が滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる合理的な理由がある場合。これは条約にある文言なんですが,これを要件にすべきである。

それから,保全の対象が過去の通信履歴であることを明示すべきである。今の御説明では,保全の対象は将来の通信も含むというふうに伺いましたが,条約上は保全の対象は過去のものであることがはっきり明文で規定されております。

それから,保存期間につき,90日以内とするのは長過ぎるので,30日以内とすべきである。

4番目,保全要請は書面にてなされるべきである。

5番目,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律に倣って,政府は保全要請の件数並びに差押許可状請求まで至った件数,保全要請に係る罪名,保全要請に係る通信手段の種類,保全要請が行われた事件に関して逮捕した人員数を国会に報告した上で公表しなければならないという規定を設けていただきたいと思います。

理由の説明ですが,27ページ以下になります。【意見】となっている部分は省略しまして,【理由】の部分から御説明をします。

この要綱(骨子)第七というのは,サイバー犯罪条約の16条1項の国内法化というのが立案者の御説明だったと思います。ただ,この条項について事務当局の御説明では,保全命令制度を設けることを16条1項は締約国に義務づけているわけではなくて,迅速な保全という結果の確保を求めているのだから,現行の捜査・差押え・検証の規定で原則としては担保されているというふうに表明されていたと思います。

そもそも,我が国においては,憲法21条2項が通信の秘密を保障しており,通信の秘密の保障の中には,通信のすべての構成要素が含まれている。通信の内容だけではなく,通信の存在それ自体に関する事柄,差出人,受取人の氏名・住所,差出し個数,通信日時,電話等の発信場所などについても秘密が保障されなければならないという見解が通説とされております。これに対して,サイバー犯罪条約においては,通信記録と通信内容等を明確に区別し,通信記録については犯罪を問うことなく,リアルタイム収集を認めるなど,明らかに保障の程度を区別しております。こういう考え方は,我が国の通信の秘密の保障に関する在り方とは大きく異なっており,これをそのまま法制化するということは,我が国の法制度には合致しないものというふうに考えます。

要綱(骨子)第七の一項は,差押えの前提として通信履歴の保全要請を新設しようとしているわけですが,通信履歴であっても通信の秘密の保障が及ぶこと,保全された通信履歴は,後に行われる差押えによって捜査機関の手中に入ることが予定されているということからすれば,保全と差押え手続を一体としてとらえることができるのであり,やはり保全それ自体においても通信の秘密が侵害されるおそれはあるというふうに解すべきであり,憲法21条2項に抵触する可能性が高い制度であると考えます。

そうであるならば,我が国においては捜索・差押え・検証等の制度が迅速に行われている,原則としては必要ないという制度であるということであれば,問題のある保全要請といった制度を新設する必要性はないのではないかという,これが原則的な意見となります。

以下では,念のため保全要請のような制度を新設する場合であっても,憲法において通信の秘密が保障されていることに反しないように,憲法に合致するような形で考えた場合,どのような規定が考えられるかという点を検討してみたいと思います。

サイバー犯罪条約の16条1項と要綱(骨子)案の第七を比較してみました。この比較をしてみますと,幾つかの点で違いがあるということが分かります。

第1に,要綱(骨子)には「通信記録その他の特定のコンピュータデータが滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる理由がある場合」という,補充性の要件が規定されていない。

第2に,サイバー犯罪条約では,「保全の対象につき,ある者が保有し又は管理している特定の蔵置されたコンピュータデータ」とされているのに対し,要綱(骨子)では,「その業務上記録し,又は記録すべき電気通信の送信元,送信先,通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なもの」とされております。

サイバー犯罪条約では,「コンピュータデータ」とされているのに対して,「通信履歴」というふうにより限定されているということは評価できると思います。

ただ逆に,サイバー犯罪条約においては「保有し,又は管理している」という形で,既に存在しているものということがはっきり規定されていることに比較して,要綱(骨子)では,「記録し,又は記録すべき」というふうに規定されておりまして,将来の通信記録にも保全が及ぶという,今し方御説明を受けましたけれども,そういう解釈であるという御説明がありました。しかしながら,この将来発生する通信記録についてまで保全を認めるということは,サイバー犯罪条約16条1項の趣旨を完全に逸脱しているというふうに言わざるを得ません。サイバー犯罪条約では,過去のコンピュータデータ及び通信記録については16条及び17条で保全することを認めるとともに,将来の通信記録及び通信内容については20条及び21条でリアルタイムに収集,傍受することを認めているのでありまして,16条1項はあくまで過去のコンピュータデータについてしか保全を認めていないのであります。

ちなみに,サイバー犯罪条約が参考にしたと考えられておりますアメリカの同種の制度に関する司法省のガイドライン,これの18U.S.Cの2703条の(f)項のもとでの証拠保全の部分を見てみますと,「法執行官は,より正式の法的な過程の発行まで既存の記録を保持する−−「既存の」とはっきり規定されております。−−というプロバイダへの拘束力がある要求をすることができる。しかしながら,そのような要求には,どんな将来の効果もない」と二重に規定されています。対象は既存の記録である,そして要求には将来の効果はないということが規定されているわけです。保全が将来に効果を及ぼすものではなく,既存の記録に対するものであることが明記されているのであります。

次の段落は,今,将来に及ぶという御説明を受けましたので,これは必要ないと思います。

要綱(骨子)第七の保全要請については,事後的な通信傍受にわたるような濫用的な運用はされないよう,歯どめを設ける必要があるというふうに考えます。

まず,要綱(骨子)第七の保全要請は,捜査官による任意処分の形式をとっているために,裁判官による司法的抑制を受けずに濫用される危険性があります。そこで,この保全要請の制度が濫用されないための担保が設けられるべきで,要綱(骨子)第七にはこのような視点が欠落していると言わざるを得ません。

まず第1に,アメリカ連邦法第18編2703条(f)が「裁判所による令状発付手続又はその他の手続が進行している間」という制約をつけていることが参考とされるべきであります。

この点は,法制審議会の第2回の会議の際に参考人として出席されたニフティ株式会社の方が,実務,そしてプロバイダ側の負担の現状を踏まえて,捜査機関側が保全要請と同時,又はその直後に令状の発付を請求していただくということにしてはどうかという提案をされていることとも符合しています。したがって,保全要請は捜索差押許可状の発付手続の申請中又は準備中であるということを要件とすべきでありまして,その差押許可状の発付を審査する際に,先行する保全要請の要件を満たしていたか否かについても裁判官が審査するようにすべきであり,先行する保全要請がその要件を満たしていない場合には,後に行われる差押許可状請求は却下されるようにすべきであると考えます。

第2に,サイバー犯罪条約が要求している「通信記録その他の特定のコンピュータ・データが滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる理由がある場合」という補充性の要件を参考にし,「通信履歴が滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる合理的な理由がある場合」という要件を,この要綱の中に付け加えるべきであると考えます。

第3に,保全要請は口頭ではなく,文書−−ファクシミリか電子メールも含むということですが−−によることを明記すべきであります。

ちなみに,前記アメリカの司法省ガイドラインには,紙の記録が残り,コミュニケーションのミスを防ぐので,ファックスか電子メールが望ましいということが述べられています。我が国においては,とりわけ捜査官による濫用のおそれが強いので,文書によることとすべきであります。

第4に,保全要請は任意処分としてなされ,司法的抑制を受けないことから,事後的にであっても国会に報告すべきものとすべきであります。この点については,通信傍受法の29条本文が国会への報告とともに,公表の制度を規定していることが参考にされるべきであります。保全要請の場合,保全要請の件数として差押許可状の発付に至った件数,保全要請に係る罪名,保全要請に係る通信手段の種類,保全要請が行われた事件に関して逮捕した人員数を国会に報告して公表すべきであると考えます。

また,要綱(骨子)第七は,90日間を超えない期間を定めて保全要請ができるという旨を規定しております。

この90日は,先ほど御説明がありましたように,サイバー犯罪条約16条2項を受けて,最大の期間を採用しているということなのですが,プロバイダ等の実情から見れば,多大な負担をかけるおそれがあり,長過ぎるという声があることは考慮されるべきであると考えます。

先ほど,○○幹事の方で2か月かかった例もあるというようなお話があったのですが,この話を伺った後,実際にこういう実務で保全のようなことを依頼されたプロバイダの関係者とお会いしたときに聞いてみたのですが,もちろん絶対ないということはないのですが,通常はそんなにかかっていない,およそ数日というところで対応しているというお話でありまして,非常にまれな例を引き合いに出されて,2か月かかったということを言われているのではないか,通常のプロバイダの対応としては,もっとずっと迅速に対応しているというふうに私は聞いております。

この刑事法部会の第2回会議の際にも,ニフティの会社から出られていた参考人が,「90日というのはちょっと長いような気もします。実務的にはもっと短いような気がしますので,これも捜査機関側が令状請求してから実際に発付を受けるまでの期間にふさわしい,もう少し現実的な期間にしたらどうかなというふうに考えます。」というふうにはっきり発言されております。

通信傍受法においても,傍受期間は最大30日というふうに定められており,これとの均衡も考えれば,保全期間は最大30日程度とするのが妥当であるというふうに考えます。

最後に,漏洩禁止の条項ですが,要綱の第七の二項,「必要があるときは,みだりにこれらの要請に関する事項を漏らさないように求めることができるものとする」との規定を新設しようとされています。

要綱第七の二項は,サイバー犯罪条約16条3項の規定を受けて設けられたものであるというふうに考えられますが,要綱(骨子)ではサイバー犯罪条約が求めている保全要請の場合だけでなく,従来から広く行われてきた捜査関係事項照会等の場合にも漏洩禁止を求めるというふうに拡大されております。サイバー犯罪条約の要請の範囲を超えているのではないかというふうに考えられるわけです。

現実に,こういう捜査関係事項照会について事項が漏洩されたことによって捜査に支障が出たというような事例も聞いておりませんし,立法事実がないのではないか,現実に保全要請の場合にだけ漏洩禁止を規定するのは均衡を失するというふうにも言えますし,漏洩禁止が憲法21条が保障する表現の自由に抵触するおそれもあるということで,こういう規定は新設すべきではない,サイバー犯罪条約15条により締約国が刑事手続上の権限及び手続の制定に際しては,締約国の上位規範である憲法等の要請に従うべきことが規定されているという点からも,16条3項に従う漏洩禁止の規定は新設する必要はないというふうに考えます。

今日配布されました修正案,ただし書をつけて「差押え又は記録命令付き差押えをする必要がないと認めるに至ったときは,当該保全要請を取り消さなければならないものとする」となった点は,これは特段異論はございません。

●いかがでしょうか,ただいまの御意見。

●意見といいますより御質問ですが,最後の方からいきまして漏洩禁止。一番典型的に想定されますのは捜査事項照会で,こういう照会を受けたけれども回答に応じていいでしょうかと顧客などに聞くというふうな例は,昔から問題にされているところなんですが,表現の自由ということで一体どういう場合を想定されているのかがちょっとよく分からないのですね。ここでおっしゃっているのはどういう漏洩の仕方が表現の自由との観点で問題になるのかというのを教えていただきたい。

もう一つの御質問は,保全要請というのは,あくまでも任意と申しますか,業務上これまでも記録されてこられ,今後も記録することとされておられる,その要請を受ける方御自身の記録について,ほっておきますと普通は容量等の関係もございまして消えていってしまうものについて,これを一定期間,残しておいていただくことを要請するものだと思われますが,どうも伺っていまして,傍受のように,強制処分として,しかも捜査機関がもともとは記録の予定されていないようなものを記録化していく,しかも通信の中身そのものについての仕組みと対比されている。保全要請というのは,強制処分としての意味合いの面におきましても,将来的には令状に基づいて捜査機関側にわたることがあり得るというだけであって,もともと要請を受けた者が適法に業務上記録してこられ,今後も記録していかれるものを残しておいていただくだけという面におきましても,いろいろな意味で差があるように思われるのですが,御意見の中で出てくる御議論がどうも傍受の議論にかなり引きつけられたような御議論のように見えるのですが,その違いについてはどのようにお考えになったわけでしょうか。

2点,お願いします。

●まず,漏洩禁止の関係ですけれども,例えばプロバイダが頻繁に捜査機関から保全要請を受けて,大変負担が多くて迷惑をしている,コスト的にも大変なんだと,例えばこういうケースがあったなんていうことを業界紙に書いたとすると,それがこの条項に違反するということが十分あり得るのではないかなと。具体的なケース性をどこまで書くか,そこを配慮すればそうならないような言い方はできるでしょうけれども,ある程度踏み込んで書かなければ議論にも説得力がない,読む人が読めば特定できるような情報が出ているじゃないかということになれば,それが漏洩禁止に触れるというようなことがあり得るのではないかと。結局,保全要請に関して捜査当局とプロバイダ間で行われていることが基本的にだれにも口外できないような事柄になっていくのではないかなという点を危ぐするわけです。

それから,今日初めて伺って,「記録すべき」という部分は将来のものであるということが分かったのですけれども,これは明らかに,先ほども言いましたけれどもサイバー犯罪条約が予定していた保全命令の制度とも全く違っている。保全命令の制度自身は既存のものをとりあえず保存しておけということを命令するだけでした。そして,その時点以降,保全命令が出た以降については,これは傍受の問題になるというふうにはっきり仕分けがされていたはずです。我々の考え方の根本にあるのは,通信の記録,だれからだれにあてて通信が行われているかということも通信の秘密に含まれるというふうに考えておりますので,そして将来行われる記録すべき通信まで保全が及ぶということになれば,これは通信傍受法の傍受の要件がないにもかかわらず傍受を行っているのと全く同じ状態になるというふうに考えます。

●基本的に誤解があるのではないかと思います。サイバー犯罪条約で保全と言っているのは,最終的に捜査機関がデータを保全する,そういう意味でできていて,したがって,将来について保全するというのも,捜査機関が将来の通信とかデータとか,そういうものを保全していくという構成になっているので,そっちの方は傍受であると,そういうことになっていると思うのです。ところが,今回提案されているのは,捜査機関が既にあるデータ等を保全するのは,既存の捜索・差押えや検証でできるのだけれど,プロバイダが記録し,あるいは記録すべきものについて,とりあえず置いておいてくださいというものだと思うのです。したがって,確かに保全を要請する時点から見れば先のものであっても,その要請によって新たに記録すべき状態が生ずるのではなく,あくまでプロバイダが本来記録しているはずのものを置いておいてくださいということを言っているだけのことだと思うのです。要請の時点から見ればまだないものであることはそのとおりなのですけれども,その要請によって新たに記録するという状態が形成される,作り出されるわけではなく,プロバイダは,正当な業務のためにその記録をとっておくことが許されているわけですし,現にそういう態勢をとっている場合に,それを一定期間残して置いておいてくださいということなので,事柄の性質が違うのと思うのです。それがなぜ傍受になるのか,私には全く分かりません。

それに,「事後的な傍受」などということが書かれていますが,事後的な傍受というのは,そもそも概念矛盾で,記録されていくものを記録された後になって確かめるというのは,現在でも,傍受法の手続によるのではなく検証等の手続でやれるわけですね。可能であるわけです。だから,その辺の整理がどうも,この文書全体を通じて全くなされていないのではないかというふうに思うのです。

もう一つ,司法的抑制の関係でいえば,通信の秘密というのは,通信をしている人とか,それを媒介している人の間では及ばない。通信というのは,相手方にある情報を伝えることによって成立するわけで,媒介する人にも媒介してもらうために必要な限りでは一定の情報を託するわけですから。そういった通信当事者や媒介者の間ではなく,対第三者との関係で初めて,通信の秘密が問題になるわけで,通信事業者が正当な業務の範囲で通信記録をとること自体は通信の秘密には抵触しないのです。それを外に不必要に漏らしていくということで,初めて通信の秘密の侵害ということが問題になってくるのですが,今回の案はそれを漏らすとか開示することを求めるものではなく,本来業務のために正当に記録しているものを他の正当な目的のために一定期間残して置いておいてもらうだけにとどまるものであるわけです。そして,更にそれを外部に開示させることは改めて裁判官の令状を得て強制処分として行うという構成になっているので,そもそも司法的抑制が必要な状況とは違うと思うのです。

アメリカのことを,あるところでは非常に強く援用され,しかし,あるところでは区別しようとされておられるので,いささか便宜的すぎると思うのですが,そのアメリカでも,同様の保存要請については司法的抑制にはかからしめていないのです。大きな構造のとらえ方がどうもずれているというか,おかしいのではないかという感じがします。

細かい点については,またその議論になったときに意見を申し上げたいと思います。

●ただいまの点について,ほかの皆さん,御意見いかがでしょうか。

●伺っていて,やはり,将来のものがそこで蓄積されていくから傍受だというのは,恐らく正しくないのだろうというふうに思います。将来に向かってであっても,そこで蓄積されていく情報は,通信履歴であって,会話の中身とかあるいはコミュニケーションの中身だということではないという点で,まず大きな違いがありますけれども,それに加えて,蓄積されたものが直ちに捜査機関に開示されるということではなくて,とっておいた後に改めて司法的な令状が発せられて,そこで正当な理由が認められたものだけが押収されていくという手続になっていくわけです。傍受の場合は,将来に向かって,これから行われるであろう通信等が,そこから直ちに捜索され押収されるということになるわけですから,これは全く構造としては違うだろうというふうに思います。その点で,傍受とパラレルに並べてなされる議論というのは,やはりちょっと違うのかなという感じがいたします。

●ほかにいかがでしょうか。

●私は,サイバー犯罪条約の16条から20条までの規定を何度読んでも,今の○○委員の御議論は理解できません。サイバー犯罪条約では,どう考えても既に存在しているデータについて「保全」という言葉を使っている,そして,これから行われる通信に関しては,保全ではなくて20条の「通信記録のリアルタイム収集」という言葉を使っているわけで,そうすると,今回の保全要請という制度は,16条だけではなくて,16条から20条まで全部を根拠にして作られている制度だということになるのでしょうか。

●繰り返したくないのですけれども,こちらが話していることをもうちょっとよく聞いていただきたいと思います。

今,○○幹事も言われましたけれども,将来に向かって出てくるものを保存してもらうということかどうかという区別ではなく,保存する権限のない人に新たに保存を義務付ける,あるいはその権限を捜査機関自身が取得して,それにより将来に向かって実行してもらうというのが傍受であって,しかし今回の保全要請は,記録すること自体は当該事業者が正当に行うものなのです。また,条約の16条だけでいけば,要請の時点で既に記録しているものを残しておいてもらうだけしかできないということですけれども,1週間後にまた,その間の1週間に記録したものを残してくださいという要請をし,その先でまた残してくださいと要請していってもいいわけですね。それを一括して,事業者に対して,ここの時点からこの時点まで,そちらで正当に記録するものについては残しておいてくださいと要請するだけの話なので,条約の20条等の方を一緒にしてこういうものを作ろうとしているわけではないと思います。

そこは,理解できないのではなくて,理解しようとしないから理解できないのではないかと思いますね。

●やはり○○委員は,この16条の制度を完全に誤解されていると思いますけれども。16条の制度というのは,あくまで現に存在しているものを,差押えの手続を待っていたのでは蔵置された物が滅失又は改ざんしてしまう,だから取りあえず保全してくれというふうに言っているわけです。しかし,○○委員が言われている保全要請の制度というのは,これから90日間,ある人のコンピュータに入ってくるメールのすべての通信履歴を取りあえずとっておいてくれと,全部90日終わってからそれを令状でとるということで,それはもう通信のコンテンツの部分は含まれていないとしても,通信傍受そのものだと思います。

●1点だけということでございますけれども,何をもって通信傍受とおっしゃるのかというところで,そこの基本的な理解が,これまで普通なされてきたところと違うのだろうなというふうに思われます。

それと,保全というところで問題になっておりますのは,繰り返しになりますけれども,あくまで事業者においてこれまでも業務上記録してきて,今後も通常記録していくべき通信履歴のみが対象になっているということでございまして,その上で,こういう要請をいたしましたときに,一番手間暇かかるのは最初要請に応ずるための準備と申しますか,一番最初に要請を受けた段階でもし作業が必要となればそういうことになるのかもしれませんけれども,あとはいったんセットされればそのまま継続できることだと思われます。結局,○○委員の方からもお話がございましたけれども,繰り返し要請を行うのか,それとも,もともとこういった限られた通信履歴,しかも,業務上,これまでも記録し,今後も記録していくこととされるものに限った,そういう対象物につきまして,一度の要請で済ます,ただし上限を設けておくということにするかという,そのあたりの考え方,それについての考え方いかんのようにも思われます。

●何が通信傍受に当たり,また何が当たらないかというのは,余り概念的に区分してもしようがないので,現行法のもとでそういう処分ができるかどうかということだけを考えれば十分だと思います。それ以外に,何らかの新しい処分が必要だというのであれば,その処分の性質をきちんと見定めて,そういう処分が現行法令の枠内におさまるかどうかというのを考えれば足りるのではないかと思います。

それで,この新しく要綱(骨子)で出てきた処分を考えてみますと,この処分の対象者は通信の当事者ではもちろんなくて,ある一定の通信を媒介する者であり,その者が,その媒介する業務の必要上,その業務という正当な目的のために当然蔵置しておく,蓄積しておく必要のある,その記録について,その業務目的でない目的に事後使われる可能性もあり得るので,当面消去するのはやめておいてくださいと,こういう内容の処分だというふうに考えてみると,通信の当事者に対する直接の法益の制約というのは,その段階では差し当たりまだ生じていないというふうに考えられるのではないかと思いますので,この点について,先ほど来の議論のような将来的にわたる事象だから傍受だと,こういうような話にはつながらないのではないかというふうに思います。

●いかがでしょうか,先ほど一つは第七の二の漏洩の禁止についての論点が一つ。それから,ただいまの「記録すべき」通信履歴について,これは傍受に当たるのではないかという論点,二つでございますが,一応日弁連及び○○委員の御意見は明快になったと思います。同時に,○○委員,それから○○委員,あるいは○○幹事等の御意見も明確になってきたような感じがいたします。

●一言だけ。通信傍受かどうかじゃなくて,処分の性質から見ていくべきだというふうに○○委員はおっしゃったのですけれども,現実の問題からいっても,本来からいえば短いものでは1日とか数日で消えていくものを90日間にわたって保存しておけというふうに言うわけで,これは立派に通信の秘密を侵害している,だれとだれとの間でどういう通信があったかということを将来にわたって保全しているというふうに言えると思います。

先だってからの御説明では,保全要請というのは差押えを前提にしているのだと,しかし差押えに時間がかかる場合があるからというお話だったと思うのですね。しかし,今の御説明だと,その説明は随分変わってきてしまっていて,一定の期間,むしろ捜査機関としてみれば今すぐ差押えして数日後にとってしまうのじゃなくて,しばらく通信がだれとだれとの間で行われているか,全部とってから,それを差し押さえたいというようなこともできる。差押えの要件が整うかどうか,それがまだ完了していないにもかかわらず,取りあえず要請だけしておいて,そして90日後にやれば一網打尽に90日分の,少なくともだれとどういう通信をしたかという,コンテンツは分かりませんけれども,外形的な通信の事実だけは分かるという制度が手に入るわけで,しかもこの対象犯罪とかそういうものは一切限定されていないわけですから,通信傍受は非常に対象犯罪等や令状の発付の基準等が厳しく決められていたわけで,脱法的に人と人との通信を後で根こそぎ持ってくるための制度として使われる危険性が高い制度であるということ。この「記録すべき」というものの中に将来のものを含むということは私は思ってもみなくて,日弁連の中で議論をしているときにも,それは幾ら何でも行き過ぎじゃないか,サイバー犯罪条約では過去のものということは保全の大前提になっていて,そのことは法務省も当然そのようにお考えになっていると思いますよというような意見が強かったのですけれども,今日伺ってみたら,それは将来のものも含まれるということを聞いたので,非常に驚いておりますし,そういう制度を作ってはならないという確信を深めているということを最後に申し上げておきたいと思います。

●○○委員に質問したいのですが,プロバイダが独自の判断で,過去30日間の通信の記録状況から,これはもしかしたら保全要請が来るかもしれないなというので,自己の判断で過去30日分,それから気がついた時点からまた60日分の通信の記録をとった場合に,これが通信の秘密を害し,あるいは傍受したと言えるのでしょうか。

●それは,捜査機関の要請も何もないのに,自主的にですか。

捜査機関の要請がないのに,通常のルーチンであればどんどんコンピュータの中で消えていくデータを保存するようなことは,通常プロバイダはやっていないと思いますし,具体的に通信の中身を見て,そういうことをやっているとしたら,それ自身が重大なプライバシー侵害だと思いますけれども。

●中身を見てということではなくて,通信記録だけ,保全の対象となるプロバイダが本来的に業務上一定期間記録するものだけに限って,自主的に保存する,将来ものも保存する,そういう場合です。

●そういうこと自身がほとんどあり得ないと私は思いますけれども,そういうことをやるプロバイダが仮に捜査機関からの要請もないのにそういうものをずっと蓄えているということがあれば,そのこと自身は現状ではそれを処罰したりする法律も何もないでしょうけれども,好ましいこととは思いませんけれども。本来,消えていくべき情報なわけですから。

○○委員が言われているのは,例えば郵便局が手紙を配って,だれがだれに手紙を出したかということを全部記録をつけているというのと同じことになるのですよ。

●結局プロバイダは,料金請求なんかの関係で一定の期間はログを残しておくわけですね。だから,もともとの保全要請というのは,通常業務としてとっておくデータを単に60日で消してしまうものであれば90日間とっておいてくださいよというだけで,データそのものを見せてくれと言っているわけでも何でもないわけですね。ただ業務上とっているデータを消さないでおいてくださいというだけで,実際に見るのは令状が出てからという話なんで,あくまでも先ほど○○委員も言われましたけれども,要は業者の中でハンドリングされているだけの話ですよね。だから,仮に業者が自主的にやったときにも,その将来についてやる分は傍受になるし,過去の分については通信の秘密を侵すのだということになると,何かそういうふうに言わないと,捜査機関が保全要請した分が通信の秘密を侵すとか将来のは傍受に当たるとか言えなくなってくると思うのですね。単なる要請だけなんですから。新しい行為を付加するわけでも何でもないと思うのですけれどもね。その辺がどうもよく分からないのですけれども。

●今の通信履歴などを業者側などが残しておかなければならない理由としましては,課金もございますけれども,普通言われているところは,それ以外にもシステムが不都合を生じたと,その原因があるとき攻撃を受けたとかいろいろなこともございますので,そういったことを保全するといいますか,修復したりするときの原因究明なんかの関係でも履歴を良心的なところは残しておかれるものであると,それ以外にも種々,業務上正当に残されているものと理解しておりますけれども,もし違えば教えていただきたいのですが。

残していないのが一般であるというふうには到底思えないということでございますが。

●通信の中身ではなく,例えばどの番号からどの番号に電話がかかっており,それは何時間続いたということを認知すること自体は,通信傍受法によらなくても,検証の手続でできる。ただ,通信の中身を傍受することを許す令状が出ている場合には,これとは別に令状をとらなくても,そういった外形的なデータを併せてとることができるというのが,通信傍受法の規定なのです。そこの構造の違いというものを,一つ指摘しておきたいと思います。

もう少し具体的な話に戻しますと,最初の○○委員の方の御提案で,「滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる合理的な理由がある場合」という要件を付加しろということがございましたが,条約の方は,対象が通信記録,通信履歴に限られていず,「その他のコンピュータ・データ」というものも対象にしているので,それについてはこういう限定を付す,こういう性質のものに限るということを明示することに意味があると思うのですが,通信履歴に限ってみると,先ほどのように,一定期間が来れば削除していくというような措置が一般的にとられている場合が主に念頭に置かれているわけですので,そういう場合にも,更に付加して「滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる合理的な理由」という文言を付すことが必要なのかどうか。必要という御趣旨だとすると,

一定期間がくれば削除されていくという措置がとられているということ以外に,その「合理的な理由」というのは具体的にどういうことなのか,その点を説明していただきたいと思います。

●まず,通信履歴が通常保管されているかどうかなんですけれども,これは確かに,今まであったきちんと料金を,何分間つないだために幾らお金を払うというような形のプロバイダは保管していたと思いますけれども,最近急激に伸びてきているようなつなぎ放題みたいなプロバイダ,もちろんそれは保存しなくなっているというふうに聞いていて,今後は保存しないプロバイダの方が増えていくのではないかなというのが私の理解です。現実にこういう保全要請の制度ができれば,その傾向は加速する可能性も十分あるのではないかなというふうにもそんたくいたします。

それから,通信の中身について,電話の場合には検証手続で行われているというお話だったのですが,例えば電子メール等の場合,電話に類推するのか手紙に類推するのかという点がなかなか悩ましい部分だと思いますけれども,だれがだれに手紙を送っているかということは,これは明らかに通信の秘密の内容であるというふうにみんな考えていると思うのですね。それに類推して考えれば,だれがだれにメールを送っていたかということ,そしてそれが加入しているプロバイダによっては即時に消滅しているデータであると,たまたま課金のために保存されている場合に,それを将来にわたっても保存させていくということは,本来保管されている目的外の用途でそういうデータを強制的に保存させていると。これは任意処分だといっていますけれども,現実にプロバイダ側は強制されているというふうに感ずるでしょうから,そういう手続になって,現実には通信傍受法では認められていた犯罪範囲が非常に限定されているわけですけれども,それを非常に広範な形にして,メールについて90日間にわたって,少なくともコンテンツ以外の部分については後で見られるという制度ができるのだというふうに考えます。

それから,最後に○○委員からお話になった点ですけれども,ちょっと正確に理解できていない部分があるのですけれども,もう一度,16条の……。

●16条では,通信履歴だけではなくて,「その他のコンピュータ・データ」についても保全要請ができる,保全措置がとれるということになっていて,そこにいう「その他のコンピュータ・データ」というのはかなり広いわけですね。

●そのとおりです。

●しかし,今回の要綱は通信履歴に限っているのですが,その通信履歴については,今,○○委員がおっしゃったように一定の期間が過ぎれば消滅していく,消されていくという措置がとられているのが普通で,そういう場合には「滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる合理的な理由がある場合」に当然に当たることになるように思うのですけれども,そうではなく,そういう措置がとられているということだけでは駄目で,プラスアルファとして更に何らかの事情が必要なのかどうか。必要だとすれば,それは具体的にどういう事情なのかということをお聞きしたのです。

●通信記録について短い時間しか記録していないという状況が,令状の発付を待っていたのではその記録が消えてしまうということになるのではないでしょうか。ですから,本来この16条が予定していた保全制度というのは,例えば令状請求するために証拠がまだそろっていない,そのためには数日かかる,しかしそのプロバイダは1日ぐらいでデータを消してしまっているという場合に,とりあえずファックス1枚送っておいて,これは令状が出るまでとっておいてくださいというふうに言うための制度だと。そういう場合に,正しく特定のコンピュータ・データが「滅失又は改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる理由がある」というふうに言えると思いますけれども。

コンテンツの場合は確かにちょっと違います。コンテンツの場合は,必ずデータ自身は読んだら消してしまうというような人も多いと思うのですけれども,そういう場合には読まれる前にということになるのじゃないでしょうか。

●そうすると,こういう付加的な要件を課す意味はどこにあるのですか。

●ですから,そのプロバイダがどの程度の期間データを保存しているか,そして令状請求のスピードが間に合うかどうかということを司法審査してもらうことになるのじゃないでしょうか。

基本的に,本来保全要請という制度自身,私の理解では,令状請求を待っていたのではデータが消えてしまう,ですから令状請求する前に取りあえずこのデータは保存しておいてくれというふうに言う。そしてすぐに令状請求に取りかかって,令状が出たら保全に行くと,そういう制度であれば認める余地があるというふうに考えているわけです。その場合に,この保全の要請ができる要件というのは,正しく令状請求で令状発付されるスピードと,データが消えていくスピード,これを比較して令状の発付を待っていたのではデータが消えてしまう場合という意味でこの条件をつけ加える必要がある。サイバー犯罪条約の16条では,通信記録とその他の特定のコンピュータ・データというのを全然区別しておりません。両方について,この条件は完全に文章としてはかかっているというふうに思いますけれども。

●○○委員が言われるのは,要するに通信履歴が一定期間後に消されていくというのは,正に滅失改ざんに対して特に弱いという場合に当たる場合ではないかということなんでしょうから,通信履歴を対象とする限り,かつそれが一定期間後に消されるというプロバイダを相手にする場合には,この要件を付加する意味がないということになるということなんだと思います。

逆に言いますと,この要件を付加しなくても,保全要請というのは捜査上保全をしておかないと将来的に差押え等ができなくなるという,正に捜査の必要性というものを前提にして行うわけであり,一定期間経過後に通信履歴が消されてしまうような状況にこれを要請するということを念頭に置いているわけです。非常に長期間あるいは永久にログを保存するという事業者に対してこの要請をする必要はないですし,逆に○○委員が言われたようにそもそもログを保存しない事業者であれば,「業務上記録し,又は記録すべき」記録にも当たらないということになりますので,一定期間経過後に通信履歴が消されてしまうというような状況を想定あるいは念頭に置く以上は,この要件を付加する理由はないということなのだと思います。

●よろしいでしょうか。

●全然別の観点からお伺いしたいと思うのですけれども。今回,付加された部分についてなのですけれども。

「差押え又は記録命令付き差押えをする必要がないと認めるに至ったときは」ということの判断の時期なんですけれども,これは90日の後に必要がないと認めるに至ったときというのではなくて,依頼をした,つまり要請をしたときから,なるべくその要請した時期に近い時期において,つまり始まった時期から数えて,いつもこれを気にかけて,将来その差押えの必要がないということが分かったときと,こういう理解をしてよろしいと思うのですけれども,まずそこを教えていただきたいというのが一つです。

それからもう一つは,保全要請を取り消さなければならないということで,これが濫用される危険について,非常に危ぐが示されているわけですけれども,取消しの規定が設けられたというのは,この要請の適正な,あるいは濫用を防止する上において非常に役に立つというか,いい規定だというふうに思うのですね。ですから大事にしたいのですけれども,この「取り消さなければならない」ということなんですが,これを取り消さないということを理由に争う場合の手段として,どういうことが考えられるだろうかと。制度的にこの保全要請は任意の取扱いをお願いするわけですので,処分性があるのかどうか疑義があるのです。ないというふうに考えるのですね。私の方はないのじゃないかと。そうすると,準抗告の対象にも行政処分の対象にもならないのではないかと。そういう意味では,この取消しについて例えば準抗告の対象の中に特に入れるとか,そうしたものをつけた方が取消制度の制度全体としては形が整うのじゃないかと思うのですけれども,その辺はいかがなんでしょうか。

●1点目でございますが,例えば60日という期間を定めて保全要請をしたときには,60日を経過すると,もう取り消すものがないといいますか,取り消す対象の保全要請がなくなっている,効果は消滅しているので,この取消しというのはあくまでも保全要請をしている期間内の取消しであります。

それから,どういう処分の争い方ができるのかということでございますが,国賠等はあり得るのかもしれませんが,基本的に刑事訴訟の処分は行政事件訴訟法で争える処分ではないと思っております。

●それならそれで,そういうものとして設計するというのならいいのですけれども,せっかく「取り消さなければならない」という規定が設けられるべきだという議論というのは,○○関係官からの御指摘を踏まえたものだというふうに思いますし,それから取り消さなければならないという条文の規定を設けながら,それを担保する制度がないというのは,形としてはちょっと不備なような気もしますので,できれば取り消さないという処分について争う方法を考えていただきたい。

理論的には,処分性がないのでこれは争えないと思うのですよ。国賠についても,これはちょっと難しいと思うのですね。ですから,そこを制度の担保として考えていただきたい。

それから,前半のお答えについては,私がお伺いしたかったのはこういうことです。期間を定めて要請するわけですけれども,差押えの必要があるかないかは,要請した直後から将来差押えをする必要があるかどうかを常に考えながらいくと,だから,例えば3日目にもう差押えの必要がないということが決まれば,その段階で取り消さなければならないと,90日の期間を経ることなく,ですね。そういう理解をしてよろしいかということなんですが。

ちょっと待てよと,60日もらっているから60日目まではその判断をしないでおこうということで,60日に近づいた段階でいくと,そういうことじゃないと思うのですよ。

●関連した質問と意見ということになりますけれども。

60日なら60日の期間で保全要請を出して,10日目なら10日目に実際に差押えをしたという場合には,もうこれは目的を達しているわけですね。したがって,60日の保全要請は出ているけれども,もう保全していただかなくて結構だということになるだろうと思うのですが,その場合に,ただし書の取消しがあるのかということですけれども,お聞きしたいのですが,恐らくその目的を達していますから,改めて取り消すこともないだろうとは思うのですが,ただこのただし書の付加によって,差押えと保全命令との一体性はかなり強くなると思うのですね。さりながら,先ほど○○委員が御説明になりましたように,「差押許可状の発付を請求し,又はその準備中において」というような,非常に両者の一体性を鮮明にするということになると,果たして準備中かどうかよく分からないわけですし,そういう限定を加えることも実際的な意味からしますとやや疑問かなと思います。したがって,そこまでは要求しないにしても,しかしただし書の付加によって,一応保全要請というのは差押えのためだということがある程度鮮明にはなると思うのですね。

そうだとしますと,この保全要請というのはやはり後から出されるであろう令状のいわば前触れですね。それを取り消すわけですから,そういう点ではやはり口頭で全部やり取りするということでいいだろうかというのはちょっと疑問を感じまして,この点について書面によるという提案がありますけれども,書面による場合どういうふうになるのか,あるいはファックスでもいいのかもしれませんけれども,やはり何らかのそういった後に取り消すということも考えますと,何らかの形に残すというようなことを考えてもいいのじゃないだろうかと思いますが,その辺はいかがでしょうか。

●この保全要請は,差押え等のためのものでございますので,差押え等がなされればそれで終わりといいますか,保全要請の効果はそこで終わるという制度だと考えております。

それから,保全要請,あるいはその取消しを書面でというお話でございますが,実務的には,捜査機関側にとってもはっきりさせておかないと,ちゃんとしたものを保全していただけないということにもなろうかと思いますし,基本的には書面等で行う運用になると考えております。これは捜査関係事項照会におきましても現在そのような運用でなされているのと同様ですが,書面によるということを法文に要求するまでの必要は,捜査関係事項照会と同様にないのだろうというふうに考えております。

それから,先ほどの○○幹事のお話ですが,ちょっと趣旨がよく分からないところもございますが,60日要請していても3日目に差押え等の必要がないと認めるに至ったときは,取り消さなければならないということになっている以上,3日目に取り消すのは当然という理解でございます。

●このただし書をつけたというのは大いに前進したというふうに思うのですが,先ほどから議論されている差押えと保全要請の一体性という問題なんですが,先ほど御意見がありましたように,60日の期間を定めて保全要請をしていたところ,10日目で差押えしたと。そのときに,その差押えと保全要請が本当に一体のものなのというのはあるのですか。

変な言い方ですが,ある保全要請とある差押えが必ずしもイコールで一体だというふうになっているのかという問題があると思うので,保全要請をしていたときに差押えをしたからといって,前の保全要請が自動的に解除されるのか,自動的に解除されると簡単に言えないのではないかという,そういう事態はあり得るのではないかと。

業者の側からすると,差押えしたことと別個にやはり保全要請そのものもちゃんと取り消すという手続が必要になるのではないか。だから,概念的かもしれないのだけれども,保全要請と差押えが一体というふうに,必ずしもそんなにぴったり一体しているわけではないというところがこのただし書の苦心の作だと私は思うのですよ。先ほど,○○委員たちが言ったような,日弁連が言っているような意見でないところの要素というのはね。そういうあたりを考えると,保全要請と差押えとの関連というものは,どうもそういう若干の食い違いが起きるのではないかというふうに思うものだから,その辺の手続的なこともある程度明確にしておかないと問題が発生するのではないかと。

●どうもこの取消しの規定が入りましたことで,ますますあたかも強制処分がなされているかのような議論に近づいておるといいますか,いわゆる保全処分のようなイメージが出るのでございますが,ところがもともとこの保全要請自体は,これに従っていただけなかったときに一体どうなるのかということをお考えいただければ非常に分かりやすい,極めて任意の制度,任意の手法といいますか,要請でございますので,その意味でもともと取消しとか何とかということを書かなくても,本当は問題が先鋭化するようにも思えないのですが,いつまでもほっておくのかということに対しまして,いや,それはそういうことはないわけで,必要がなければ取り消すのは当たり前だということを書いたというだけのことでございます。

●これは,捜査機関を信じるとか,それから捜査機関が努力しているとか,適正にやっているとか,そういう経験の問題ではなくて,法の設計の問題だと思うのですよ。あるいは,刑事訴訟の機能の問題で議論しているわけです。ですから,これが従来の取扱いの確認であるとか,そういうレベルの問題ではないと思います。つまり,これが捜査機関に対して手順を定め,そしてそれについては捜査機関の二義的な解釈がなされないようにというか,しないという証拠としてこういうものを定めるのであって,弁護士としては捜査機関を信頼しないわけではないし,私の経験からしてもそういったことを信じる問題と法の在り方の設計の問題は別だというふうに考えております。

それからもう一つは,強制処分でないと,嫌なら従わなければいいじゃないか,どうせ差押えに行くのだから,嫌なら首を洗って待っていろと。これはやはり議論すべき形ではないと思います。むしろ新たな制度を作って,よりよく犯罪と対峙する,協力してもらえるものはどんどん協力してもらう,こうしたことを定めるために一生懸命やっているのであって,昔のようにこれに従わなければ物をみんな持って来るのだから,嫌ならいいよ,定めてやるのだから有り難く思えと,こうした発想というのはやはりいただけない。

それからもう一つは,強制処分であるかどうかの問題は,ここでは任意処分だということは承知していますけれども,私たちが議論しているのは,実体を申し上げているのです。事務当局も,現にこういう形で協力しているという事実があるからということをおっしゃられているわけで,実務的には,まともな会社はこれを義務としてとらえて対応しようと努力するわけです。それでその際に,例えば民事免責が得られる,民事上の責任が生じないようにとか,ほかの問題が生じないようにしてほしいというふうに考えているわけですよ。だからこの辺を議論する際には,任意のものであるから,嫌なら協力しなくてもよいのであるから,争う方法などなくてもいい,これはやはりせっかく新しい法制を作るのであれば,そのような議論をしてほしくないというふうに考えております。

●ただいまの御意見は御意見として承っておきます。

●先ほど,○○幹事の方から,実際の運用では書面で行われるのではないかというようなことでございましたが,この機会にちょっとお聞きしておきたいのですが,先ほどの第五の接続の問題もそうでしたけれども,刑事訴訟法の条文の問題と,将来作られるかもしれない規則,細則,そういったものとの関連ですけれども,そういったことについてどういうお考えなのかということをお聞きしたいのですが。

例えば,今の業者に対する保全要請についても,何か将来規則が作られるというようなことになるのかならないのかということが一つですし,先ほどの第五にありましたような接続の記録媒体の場合であっても,当然保管のために使用されていると認める状況の疎明が必要なわけですね。そういったものを疎明資料についてはどういうふうに考えるのかという,非常に細かな部分がこれから出てくると思うのですけれども,そういった点について刑訴規則の追加なりあるいは特別なものなりとか,そういったことは今後お考えになるのか,それともこの法律の条文で,あとは運用にぽんと任せるということになるのか,この辺の方針というのをお聞かせいただければと思います。

●書面によることについては,先ほど○○幹事の方から御説明したとおりです。それが実際にどういう規範なり何なりの形で定められるかというのは,今後の問題ではございますが,先ほどもちょっと触れられました197条2項の捜査関係事項照会についていえば,これは,検察庁の関係では,法務大臣訓令の中で,書式を定める形で,捜査関係事項照会を行うときはこういう書式の書面を使うということを決めているわけでございますので,今回の保全要請の場合も同様の取扱いになることは十分に考えられると思います。

●2点ほど。今の書面の点ですけれども,先ほどの○○委員の案ですと,書面にてというのを法律で規定せよと,こういうことだったように聞きましたけれども,刑事訴訟法で書面で何かしろと,こういう要式行為を要求しているのは列挙されていて,おのずとこれとこれとこれは書面によりなさいと,こういうことで幾つかのタイプになっているわけですね。一般的に書面で行われるのが望ましい,あるいは普通だからというので当然に要式行為にされるわけではなくて,恐らく刑事訴訟法が一定の要件があるときに一定の効果を発生させるのに特に書面によることが大事だと考えているような一定のものに限って法律で規定していると思いますので,例えば現行法の197条2項と照らし合わせてみて,果たしてこっちの方だけ書面によれということを法律で決めるのが適切かどうかというのは,私は疑問に思います。

それからもう一つ,ちょっと先ほどの話に戻るかもしれませんが,「差押許可状の発付を請求し,又はその準備中において」と,これを加えるべきだと,こんな御提案だったかというふうに思いますけれども,この点は,先ほど来も出ている要綱第七の一にただし書の追加をしますので,その趣旨はかなりあらわれているというのが一つありますので,この点はあえて規定するまでもないだろうと。

それから,アメリカ法の紹介がありましたけれども,私は読むところ,どうも令状の発付の手続が進行中と,こういう要件は恐らくアメリカ連邦法にもないのであって,一定の令状の発付を待つまでの間,こういうことだろうと思うのですね。令状の発付という結果が出るまでの間と,こういうことなので,現に請求中であるかどうかということでは必ずしもないのではないかと。もちろん,現に請求中ということもあるでしょうけれども,現に請求中でなければいけないと,こういうことにはならないというふうに思います。

●任意にということを強調されていますが,私は,現行の197条2項と同じ程度の法的義務付けは伴っていると理解していまして,そうであるからこそ,プロバイダの人たちも,これに応じた場合に免責されるという効果が得られるのではないかと思うのですね。そこのところをやはり忘れてはいけないと思うのです。

しかし,○○幹事がおっしゃるように,そういうものだから不服申立ての方法が必要だということには当然にはならない。一つは,捜査関係事項照会とのバランスということがありますし,もう一つは,必要がないと認めるときには取り消さなければならないということなのですけれども,必要がなくなったのではないか,取り消せという,そういう争い方を認めるとすると,恐らく,当初から必要がないのではないかという争いを認めるということになってしまうだろう。むろん,そういう組み立ても理屈の上ではあり得るのですけれども,そこまでする必要があるのかどうかこういう弱い義務づけの場合について,そういうことまで必要なのかというところで,疑問があります。

もう1点は,さきほど○○委員が言われた点をもう一度確認したいのですけれども,保全されている記録について差押えがなされたら,それでもう保全の要請の効果は失効するということでいいのですね。そうであるとすれば,わざわざそれを取り消す,保全要請の方を取り消す手続というのは必要ないだろう。その趣旨,効果がなくなるということが分かればそれでいい話だと思うのですね。

そうではなく,○○委員はどうも60日とか90日保全しなさいというと,途中で1回差押えがなされた後も理屈の上では記録すべきものが出てくるわけで,それを待って更に差し押さえるということもあり得るというふうに読んでおられるように見えるのですけれども,もしそうだとすればまたちょっと話が違ってくるかもしれない。そこのところの確認なのですけれども。

●「記録すべき」ものも含めて,例えば60日という期間で保全要請をしていて,30日目に差押えあるいは記録命令付き差押えを執行したときは,その後はもう何も残らない,そういうことになるという理解で考えております。

●第七のただし書の部分が付け加わったので,令状請求中ないし準備中というところまで決める必要はないのじゃないかという御意見が○○委員から言われたのですけれども,これがもし仮に我々が提案しているように,「記録すべき」というものがなくて,将来にわたって蓄積されるものの保全というものがないのであれば,それでもいいように思います。

しかし,将来にわたってのものも記録すべき電気通信に入るのだというのだとすると,私はやはりただし書だけでは足りなくて,「現に令状請求中」という文言が必要であるというふうに思います。

というのは,現に令状請求中であれば,もうすぐ,基本的には数日の間に決着がついて,それ以降は保全されないことになるというのが通常の扱いになると思うのですね。ところが先ほど来から聞いていると,60日間とかいうのが普通に言葉で出てくることからも分かるように,はるか先までまず保全要請でやっておいて,その段階で令状でとるというような取扱いもあり得ると,記録すべきなんだから将来でも構わなくて,60日後というような扱いが常態化するようなことも言われていて,しかし30日後にこの件は立件しなくなったからということで,差押え又は記録命令付き差押えが必要ないと認めるに至ったということで取り消すというので,それではやはり本来サイバー犯罪条約の16条が予定していた保全の制度というものと全く違う運用がされているというふうに思いますので,基本的に令状請求中であるということ,そして過去のものに限定するというところの修正点は,強く主張しておきたいと思います。

●ただし書の追加の修正部分は,これまで御議論いただかなかったものですから,大変有意義だと思います。

予定いたしておりました時間も残り少なくなりましたが,次回にはできるだけ採決と考えておりますので,少し時間を延ばさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。

よろしく御協力をお願いいたします。

●第七の二項,これはこの問題というふうに限らないと思うのですが,捜査に協力をしなければいけないという限度といいますか,範囲といいますか,例えば捜査官が聞き込みに来たよということを聞き込まれた人が,それは被疑者ではない人で,任意捜査の段階で捜査機関側がいろいろ捜査する,そういうときに,それを見たり直接接触したりした人たちがその捜査のことについてしゃべる,これはある意味では捜査状況について自由に話しするということになるわけですね。これは,今はやったからといって問題ないわけですが,この第七の二項のような形で,こういうことをこういう事項を漏らさないように求めることができるというふうにしたのは,これは任意だとは言ってみても,やはり任意でない−−やはり任意でないというのはおかしいのですが,先ほど○○委員が言われたとおりで,完全な任意とは,こういう条文を作るという意味では違うわけで,それなりの義務付けの効力を持っている,だからこういう条文わざわざ作るのだと。条文なしで,秘密にしておいてねというのとはやはり違うということがあるのだと思うのですね。そういうときに,なぜこの保全要請のとき,捜査関係事項照会のときだけを取り出して,ほかの捜査の状況とは違って,これだけに,要請している事項を漏らさないように求めるということができるのかという,ここは少し議論をしておかなければいけないのじゃないか。捜査の必要という意味ではある程度分からなくもないですよね,黙っていてもらった方がいいに決まっているわけで。そういう意味での必要性はあるとは思うのですが,ほかの様々な任意捜査,あるいは強制捜査も含めてあるときに,こういうみだりに事項を漏らさないようにするというようなのは余りないというふうに思っているのですが,これを取り上げるのはなぜかというあたりは,少し議論が必要なのではないかというふうに私は思っているのですが。

●その点,いかがでしょうか。

●197条2項の捜査関係事項照会は,公務所又は公私の団体というのが相手方でありまして,通常,役所であるとか,あるいは金融機関その他いろいろな業務を行っている団体に対して,一定の取引であるとか,あるいはいろいろな個人等のいろいろな情報にかかわることを照会しているわけです。そういう場合に,役所ですと守秘義務がありますので,大きな問題はないのかもしれませんが,民間の金融機関その他の団体ですと,特に顧客の関係の取引その他の情報というものを捜査関係事項照会で照会するということが典型的に行われているわけです。ここで漏洩の問題が実務上も生じているのは,やはりそういう団体が,特に顧客の関係で捜査関係事項照会を受けたときに,その事実を顧客に尋ねるなり,あるいは漏らすなりということが類型的にといいますか,実際上も起きているということであり,これが,捜査関係事項照会についてこういう規定を置く必要がある理由だろうというふうに考えます。

この保全要請の場合も,対象は第七の一に書いてあるとおりで,他人の通信の関係で事業を営んでいるとか,あるいは通信の媒介をしているというようなプロバイダその他の事業者というものを想定しているわけですので,この保全要請があったことについて,顧客に対してその事実を伝えるということが問題として生じ得るということであります。一般の聞き込みで近所の人がそのことをだれかに伝えるということとは違って,事業の関係でかかわりのある人,特に捜査のターゲットになっているような人に対して,その捜査の事実を伝えるということが,実際の捜査上の問題として生じることが類型的に想定されるということが,これらについてこの規定を設ける趣旨だろうというふうに思います。

●いかがでしょうか,十分な根拠があるような気がいたしましたが。

●捜査機関側の方で,今言った事項について漏らさないように求める,そういう必要があるという場合は,今の説明で十分よく分かったわけです。その必要を超えるような,照会を受けた側において第三者にそういうことを伝えるべき何らかの正当な理由,あるいは目的が正当で何かの利益がある,そしてその利益の方が勝っているというような,そういう事態が想定されるのであれば,それは場合によっては考えなければいけない,こういうことになるのかもしれませんけれども,特に捜査の初期の段階で非常に密行性が強い,機動的な捜査を展開すべき場面において,捜査機関の側でそういった必要があるというふうに考えた場合において,先ほどの聞き込みの例のように,こういうことを聞かれたよということを第三者に伝えるということについて,正当な理由なり目的が考えられる事態というのはなかなか想定しにくい。もし,それをうんと凌駕するような事態があれば,それは保秘の要請がむしろできなくなるということになるのだろうと思いますので,保秘の要請をするというような事態であれば,それは当然ながら先ほどの例えば私的な機関から一定の顧客に対してそういうことは漏らすなと,漏らさないでくださいと,こういうような要請ができ得ると。一定の弱い義務付けではあるけれども,義務付けができる方向で考えるというのは,私は賛成です。

●いかがですか,今の点は。

●捜査の必要性というのを否定しているわけではないのですが,捜査の密行性というのはもうこれはある意味で鉄則みたいなもので,強制捜査に踏み切ったときはその密行性は破っているわけですから,任意捜査の段階では密行に次ぐ密行という,それこそが命なんですが,それがこの捜査関係事項照会と保全要請というのが,その捜査の様々な捜査手段があると思うのですが,その様々な捜査手段の中でこの二つだけが取り出されて,みだりに漏らしてはいけないよというふうに法文で義務付ける,そこが私はよく分からない。

捜査の密行性で,密行してやらなければいけないし,そんなものがほかに知られてはまずいよというのは,一般的によく分かるのです。極端に言えば,犯罪組織にすごく密着している捜査官がいるかもしれないし,いろいろなことがあるわけで−−捜査のためですよ,私の言っている意味は。捜査というのは,いろいろな様々な手段が当然あり得るものだと思うのですが,なぜわざわざこれだけを取り出すのですかというのは,その意味では必ずしも必要性だけでこれを取り出して書くことが,条文化する,法文化する必要がそれほどありますかということを言いたかったのです。

これ以上議論しても,余りこれは実益がないとは思っているのですが。

●90日という日数の長さが御議論の対象になりましたけれども,この90日自体は条約を直接に受けた規定,条約自身が90日という具体的な数値を示していたために骨子に入ってきたことになりますが,私はこの90日というのは,別に保全要請の原則的な期間というのでは全くなくて,条約自身が申しておりますように,最大限度の期間であり,運用としては必要な限度で90日を超えない範囲で適切に期間が定められるべきものであろうと思います。

ただし書の付加も,それは目いっぱい要請しておいて,場合によって取り消すという趣旨では全くなくて,むしろ差押えのような処分をいつ行うかということを念頭に置きながら,必要な期間を定めるべきものであるということをサジェストしているように思います。

最後に,ついでながら先ほどアメリカの立法が引き合いに出されましたけれども,ペンディングという言葉で始まっている部分ですが,私も少し気になりましたので,辞書を引いてみましたところ,ペンディングを前置詞として使う場合には,「ワイル・ウェイティング・フォー」という一つだけの訳語がコリンズという辞典に記載されておりました。その意味では,先ほど○○委員の説明されたことのとおりであるというように思います。

●それでは,大分時間がたちましたので,第七の要綱は以上にさせていただきまして,あと第八でございますが,これもちょっと説明いただきましょうか。

●第八につきましては,刑法の没収の規定との関係で御議論がございましたが,以前申し上げましたように,電磁的記録は有体物の一部没収として行うことができること,文書偽造における偽造部分の没収と同様であると考えております。

これに関しまして,以前,東京高裁の判決に関する御指摘がございましたが,電磁的記録の没収は有体物の一部没収として行うことが可能でありますが,その執行方法が必ずしも現行法では明らかではないと。この点は御指摘の判決でも述べられているところでございまして,偽造部分に関しましては現行の刑訴法498条1項に執行方法の規定があるのに対しまして,電磁的記録の没収についてはこのような規定がございません。このような点を踏まえまして,要綱においては,現行の刑訴法498条と同様の規定を設けるものとしているところでありまして,これによって電磁的記録の没収ができるか否かについての疑義は,いわば解消されることになると考えております。

●日弁連の御意見では,特に異論なしということでございますが,ほかに何か御意見ございませんでしょうか。

特になければ,以上で一通り実質的な議論は終息したように思っておりまして,今日の審議は以上にいたしたいと思います。

何か,事務当局の方からございますか。

●本日,日本弁護士連合会の意見ということで席上に配布されておりますが,事務当局の方ではほかにも意見書等の提出を受けたものがございますので,委員・幹事の皆様にはいつでも閲覧等できるように保管しておりますので,必要があればお申出いただければと思っております。

●どういう団体から,どういう意見がということだけでも紹介していただけないのですか。団体名だけでも。

●現在のところ,米国自由人権協会というところが起草されて,日本のJCA-NET,ネットワーク反監視プロジェクト,盗聴法に反対する市民連絡会等の団体の検討を経て作成された,条約に関する御議論についての意見書だけが来ております。

●ほかの団体からは。

●それだけでございます。

●それでは,次回は8月7日木曜日,午後3時から,法務省の大会議室において審議を行いますが,ここでこの部会としての結論をまとめたいと思っております。

事務当局におかれましては,これまでの議論を踏まえまして,更に要綱(骨子)の修正がある場合には,修正案を御提示いただきたいと思っております。

また,委員の先生方におかれましても,修正案をお持ちの方がいらっしゃいましたら,是非事務当局の方に御提出をお願いしたいと思っております。準備の都合もございますので,できるだけ早くお示しいただきたいと思っております。

そして,次回には十分に御議論の上,部会の意見をまとめたいと考えておりますので,よろしく御協力のほどをお願い申し上げます。

本日は,長時間大変ありがとうございました。