法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第6回会議 議事録(転載)

転載者補足

以下は、法務省の許諾を得て、法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の議事録をHTML形式に変換して全文転載するものである。法務省は(平成18年までのものについては)審議会議事録を「.exe」「.lzh」形式で公開しているため、通常のWeb検索でこれらの議事録がヒットしない状態にある。このままでは、国民がハイテク犯罪に対処するための刑事法について正しい理解を得る機会を損失し続けてしまうと考え、ここにHTML形式で転載するものである。転載元および他の回の議事録は以下の通りである。

転載元: http://www.moj.go.jp/SHINGI/030704-1.html

議事録一覧:

転載

法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第6回会議 議事録

第1 日時 平成15年7月4日(金) 自 午後1時32分 至 午後4時28分
第2 場所 法曹会館「高砂の間」
第3 議題 ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備について
第4 議事 (次のとおり)

議事

●ただいまから法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の第6回会議を開催いたします。

●本日は,御多忙のところ御臨席を賜りまして誠にありがとうございます。

前回も申し上げましたが,特に進行についての御意見等がございませんでしたら,今回と次回の会議で,これまでの議論を踏まえまして要綱(骨子)についてまとめに向けた議論を行いたいと考えております。本日は,要綱(骨子)の第一から第四までの前半部分を中心に議論を進めてまいりたいと存じます。そのような進行でよろしゅうございましょうか。

特に異論もございませんので,そのように議論を進めてまいりたいと存じます。

本日は,まず,事務当局の方で,これまでの議論を踏まえて,要綱(骨子)の第一から第四までの部分について修正案を作成しているということでございますので,最初にその案につきまして事務当局から説明をお願いしたいと思います。

●事務当局の方で,これまでの御議論を踏まえまして要綱(骨子)の第一から第四までの部分につきまして,修正案を作成いたしました。これにつきましては,本日,席上に「要綱(骨子)修正案」と「新旧対照表」をお配りさせていただいておりますが,修正部分について御説明をいたします。

修正は2点ございますが,最初に要綱(骨子)第二の二の修正案について御説明をいたします。

第二の二につきましては,「一の物又は電磁的記録を所持し,又は保管した者」という表現を,「一の物を所持し,又は一の電磁的記録を保管した者」と改めることにいたしました。これは,従来の案では,「物の所持」,「電磁的記録の保管」という行為態様のほかに,「物の保管」,「電磁的記録の所持」という行為態様もあるのかという誤解を生じ得たことから,そうではなくて,行為態様は「物の所持」と「電磁的記録の保管」であるということを明確にするために,このような表現に改めたものでございます。

もう1点は,要綱(骨子)第四についてでありますが,これにつきましては,「記録命令差押え」という表現を「記録命令付き差押え」と改めることにいたしました。これは,従来の案では,「命令」を「差し押さえる」という印象を与えるのではないかという御意見もございましたので,「記録」することを「命令」した上で「差し押さえる」という意味をより明確にするため,このような表現に改めたものでございます。

以上でございます。

●ただいまの修正案に対しまして御質問あるいは御意見等もあろうかと思いますけれども,その点につきましては,これから行います要綱の各項目ごとの御議論の中でお願いしたいと存じます。

それでは審議に入りますが,これまでの議論の中で指摘されました論点につきまして,席上にメモが配布されておりますので,これに基づきまして議論を進めてまいりたいと思います。

まず,要綱(骨子)第一に関しまして議論をしたいと思います。

最初に,配布されております論点についてのメモの該当部分につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。

●それでは,配布の論点メモに基づきまして,要綱(骨子)第一の論点について御説明をいたします。

まず,保護法益のとらえ方についてでございますが,不正指令電磁的記録等の作成等の罪の保護法益につきましては,これまでも説明いたしましたとおり,電子計算機のプログラムに対する信頼という社会的法益を保護法益とする犯罪として考えております。

この点につきましては,個々の者が使用する電子計算機の適正な機能という個人的な法益を保護法益とすべきだという御意見も出ましたが,電子計算機のプログラムは,容易に広範囲の電子計算機に拡散させることが可能であり,かつ,その機能を電子計算機の使用者が把握することは困難であることにかんがみますと,プログラムの実行によってなされる電子計算機の情報処理の円滑な機能を確保するためには,電子計算機のプログラムに対する社会の信頼を保護する必要性は極めて大きいと考えられますとともに,現に不正なプログラムが広範囲の電子計算機でその使用者の意図に反して実行され,広く社会に損害を与えているという実態があるのですから,電子計算機のプログラムに対する信頼という社会的法益を保護する罪として構成するのが相当であると考えております。

要するに,ネットワークが高度に発展していることも踏まえますと,不正なプログラムが与える害悪は,個々の電子計算機の機能の阻害を超えたものがあると考えられるということでございます。

したがいまして,不正指令電磁的記録の作成行為につきましては,個々の電子計算機の機能の現実の阻害というような結果の発生の有無を問わず,プログラムに対する信頼を害する不正指令電磁的記録を存在するに至らしめる行為であることから,特に違法性の高いものとして,これを処罰する必要があると考えております。

正当な目的で不正指令電磁的記録等を作成・供用等した場合の規定の要否につきましては,条約の6条2項のような規定を設けるべきではないか,あるいは「実行の用に供する不正な目的で」とすべきではないかという御意見がございました。

しかしながら,例えば,ソフトウェアの開発会社等がセキュリティのチェックを行うためにウイルスプログラムを人の電子計算機に記録する場合には,その者の同意を得ている以上,「人の電子計算機において実行の用に供した」ということは言えず,同様に,そのような目的でウイルスプログラムを作成したり,保管しても,自己の電子計算機あるいは同意を得ている者の電子計算機でのみ実行させる目的である以上,「人の電子計算機における実行の用に供する目的」に欠けることから,いずれの場合においても,犯罪が成立しないことは明らかであると考えております。したがいまして,御意見にありましたような規定を設ける必要性はないものと考えております。

法定刑の適否につきましては,重過ぎるという御意見と軽過ぎるという御意見がございましたが,不正指令電磁的記録等の作成・提供・供用の罪の法定刑につきましては,これらの行為がプログラムに対する社会の信頼を侵害する不正指令電磁的記録等を新たに存在するに至らしめ,あるいはその被害を社会に拡散する行為であることを考慮し,電磁的記録不正作出・供用の罪や,電子計算機損壊等業務妨害の罪等の法定刑をも参考にいたしまして,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金としており,また,不正指令電磁的記録等の取得・保管の罪の法定刑につきましては,供用・提供の前段階の行為にとどまることなどを考慮いたしまして,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金としております。

要綱(骨子)の第一については,以上でございます。

●それでは,ただいまの3点が議論になったところでございますけれども,それ以外でも結構でございますから,自由に御発言をお願いしたいと存じます。

●今の御説明で,目的のところはこれでよいということを言われたわけですが,やはり,条約の方が犯罪を犯す意図という形で,かなり厳格にその目的を規定していることと,それから条約で正当な行為については処罰しないという形で述べているという,この2点から考えると,その2点をこの第一の一の文言で問題ないのだというお話でしたが,果たしてそうかということに疑問を感じております。

先ほど,お話の中で,社会的法益とした理由として,コンピュータを扱っている個人その者がコンピュータの機能を把握するのが困難であるということもちょっと言われましたけれども,そうしますと,やはりこの言葉の中で,第一の一で,「人の使用する電子計算機についてその意図に沿うべき動作」とか,「その意図に反する動作」と言っているその「意図」というのは,コンピュータを使用している人の意図ということになっているわけですが,そうなると,個人の意図に沿う動作か反する動作かという,それがその意図自身が先ほど言いましたように操作している人自身に把握できないということになっているわけですから,そうなると,それをさせる「不正な指令に係る」というふうに言って,この「不正な」と言ったことによって,その正当な行為がすべて除外されるというふうに読み切れるか,私はちょっと難しいのではないかというふうに思うのです。

この「不正な指令」というのは,その意図に沿うべき動作をさせず,その意図に反する動作をさせるということが不正な指令なんでしょう。違うのだというふうに読めるかということなんですよ,私が言っている意味は。この言葉を読んで,ですよ。

気持ちは分かるのですよ,「不正な」というのは独立した概念だと,人の意図に沿うか沿わないかとは別の概念として「不正な」というのがあるのだというふうに,多分そういうふうにおっしゃっているのだと思うのですが,この書き方でこの「不正な」というのが読めるかと。私は,ちょっと疑問が出てきて,争いになるのではないか。だからそういう不明確なものはもう少し明確な形で書いておかないと,先ほどの正当な業務で作成するというものが除外されるか,ちょっと疑問がありますね。

●その点について,事務当局のお考えはいかがでしょうか。

●まず,前提といいますか,コンピュータの機能を人が把握するのが困難であるからということで御説明をしたのではなくて,プログラムの動作というのは人間が把握するのは困難であるので,それに対する社会の信頼を保護する必要があるということで考えているものでございます。

●それでよろしいでしょうか。

●○○委員が言われたこととも関連するのですが,今回,やはりできる限りこのサイバー犯罪条約に沿った形での立法というのを考えていただけないかなというふうに思います。この条約を一生懸命読んでいきますと,問題となっているウイルスの処罰に関連する6条というのは,2条から5条まで述べてきた様々なコンピュータに関連する犯罪類型をもとにして,これらの予備的な段階,2条から5条に定める犯罪の実行を目的としてそれを容易にするような装置やプログラム,パスワード等の製造段階からの処罰,そういうふうにしか読めないわけですね。どう見ても,このサイバー犯罪条約の6条というのは,2条から5条までの犯罪を前提にしていて,それの予備的段階という形で考えていて,恐らく立法作業に今回当たられるときも,最初はそういう考え方だったのじゃないのでしょうか。ところが,恐らく私の推測ですけれども,現状である法律でサイバー犯罪条約の2条から5条までとぴったり合わない,まだきちんと立法できていない部分もある,そういう部分を全部修正する作業が非常に大変になるというようなところから,この2条から5条の犯罪を犯す目的というところが,意図に沿わないという形に非常にぼやっとした,漠然とした規定に変えられてしまったのではないか,そのこと自体によって,今回の構成要件というもの自身が非常にあいまいになってしまっているというふうに思います。

法務省の刑事局付が書かれている論文等を見ても,どう見てもそういう形でこの第6条の解説は書かれていて,更にパブリックコメント,条約の立案過程でのパブリックコメントで一番多かったのは,ハッキングツール等の装置のデュアルユース問題というので,正しく,これはハッカーが不正アクセス目的で使用しているいわゆるハッキングツールと,ネットワーク管理者がセキュリティに穴がないかどうかをチェックするために使用しているプログラムは全く同一のものであると,そういう問題が指摘されていて,そこをどう区別するのか,だからこそ,犯罪目的で設計,調整された装置を処罰するのだという形になって,更にそこに正当なテスト等の場合は刑事責任は負わないということを確認的に入れていったわけですね。その条約の立案過程で,そこが非常に大きな議論になっていた。実際のプログラムを作る人たち,ネットワーク管理者の人たちがやられている作業を,いかなる意味でも犯罪化するようなものではないということをはっきりするために,非常に注意深いワーディングがされているわけですけれども,それが今回のこの要綱には反映されていないというふうに思わざるを得ません。是非条約に沿った形,今回サイバー犯罪条約をきっかけにしてやることだけははっきりしているわけですから,この条約に沿った形の要綱に直していただきたいと思います。

●第1回目のときにも同じ議論がございましたのですけれども,いかがでしょうか。ただいまの,特に「不正な指令に係る」というだけでは,正当な目的の場合を排除できないのではないかという御議論でございました。

具体的には,どういう場面なんでしょうか。どういう場合がこれだと入ってしまうのでしょうか。

●今,○○委員がおっしゃっておられましたような,セキュリティ・チェックのために,機能的にはウイルスと同じようなものを作って,それを自分の支配内のコンピュータシステムとか,そういうところで使用して実験をする,そういう場合には,指令としては,この要綱の不正指令には当たり得るものではありますが,「人の電子計算機における実行の用に供する目的」,これがないと。同意を得ている人,あるいは自分のシステム内でやる分には,その目的がないので,犯罪は成立しない,こういう理解でございます。

●今の点,細かい点ですけれども,ちょっと確認させていただきます。

要するに,目的が落ちる,目的に当たらないということですが,要綱の「人」というのは他人を指していて,同意がある人はここでいう「人」には当たらない,ですから「人の電子計算機における実行の用に供する目的」に当たらないということになって落ちると,そういうふうに理解してよろしいのでしょうか。

●ここで「人」は他人という意味で考えております。

それで,同じ理解になるのかもしれませんが,あくまでも,この罪というのは,プログラムに対する社会の信頼を害する罪でございますので,同意をしている人について信頼を害するということはない。偽造の場合,偽造だと分かっている人に行使と外形的に同じ行為をするのは行使に当たらないのと同じように,ここでは,同意を得ている人,分かっている人に対して使うというのは,ここでいう「人の電子計算機の実行の用に供する目的」には当たらない,そういうふうに考えております。

●実質的な御説明は理解可能なんですけれども,法文解釈として,明確に不可罰になるという趣旨からしますと,やはり「人」は他人であって,同意をしている者は「人」には当たらないと。したがって,この目的の要件は,同意をしている人に対して使うためにこれこれする場合は当たらないと理解しておいた方が,非常に明確であって,疑義を感ずる余地がないのではないかと私は思います。

●いかがでしょうか。

●今の質問に対する事務当局の正確なお答えを聞きたいですね。

●今の目的の点から申しますと,私どもとしましては,文書偽造罪などの目的規定がございますね,供用目的という。あれと同じような形で理解しておるということでございまして,その場合に,それを相手が同意しておるとか,情を知っておるという場合には供用に当たらないというところで解釈なさるのか,人に行使という,「人」のところで外すのかという,現行法の理解,○○委員のような御理解もあるかもしれませんが,いずれにしても目的のところで外れるという理解をしておるということでございます。

●多分,実質的には理解は異ならないというふうに思うのですけれども,せっかく「人」と書いてあるのですから,その「人」という意義が当然問題になって,そこで外れると。行使の場合には「人」というふうに書いてございませんので,したがって,今の御指摘のような点が行使に当たるかどうかという議論を踏まえて解釈されるということになると思うのですけれども,ここの場合には書いてあるわけですから,それをやはり使った方がよろしいのではないかという趣旨で,実質的には多分事務当局の御説明と何ら異なるものではないと思います。

●具体的にはどういうふうになりますかね。何か修正が必要になりますか。

●いえ,このままでよろしいのではないかということでございます。

●今の点に関してというか,ちょっとずれるのですけれども。

この問題というのは,○○幹事がおっしゃるように,幾らワクチン開発の目的であっても他人のコンピュータに侵入して,そんな開発の仕方が許されるはずはないじゃないかと,ここはもうコンセンサスがとれていると思うのですね。つまり,デュアルユースが問題になる理由は,萎縮的な効果というか,そこが心配される,そういう問題だと思うのです。そうすると,何を処罰するかという問題についてはコンセンサスがとれていて,それを可及的にどういうふうに範囲を明確にする規定形式にするかという,規定形式の問題じゃないかというふうな気がするのです。そういう意味で,私どもは,例えばいろいろ工夫はして限界はありますけれども「不正の目的」という言葉を入れたらどうだという提案はしましたけれども,それは素人の方の提案ですけれども,この記載形式だと,例えば今内容の説明がございましたけれども,結論において,相手方の同意がある場合,あるいはあらかじめ同意を得ている場合は外形上他人のコンピュータに侵入する場合でも,これは最終的には除外されるわけですが,私がここで最初に構成要件で処理するのか違法性で処理するのかと聞いた問題はそこにあって,国際刑法の問題で,例えば外国から司法共助でこの罪に関する令状が来る,日本では令状判断において−−国際の問題は別にして,では令状判断において構成要件上一応他人のコンピュータに侵入しようとする形態が認められると,そうしたときに,そのコンピュータの所有者の同意があるかないかの資料というのですかね,裁判官に判断していただくために持ち込む資料として,この記載形式だと構成要件上,外形上,要するに他人のコンピュータに侵入する形式,目的があると認められる資料を持っていけば令状が出ると,ここが心配されるのじゃないかと思うのです。規定形式として。

例えば,同意を得ているということは,あるいは同意を得ていないということを捜査機関があらかじめ調べて,それで裁判官のところに持ち込まないとこの令状は出ないということになりますか。私はそうじゃないと思うのですね。捜査機関がいろいろ調べた結果,同意は得ていませんと,そこまでの例えば開発機関とか,あるいは今度経産省でやるハッカー甲子園ですか,それに出ようとする子供がいろいろ集団でいる,そこに何かめぼしいハッカーの子供みたいなのがいる,それで調べていくと,あたかも外に入れようとしている。そういう外形はある。そういうときに,侵入される相手の同意がないという資料を裁判所に持ち込まない限りは令状は出ないということはないと思うのですね,この規定形式では。そこが心配されるのじゃないかと思うのですよ。だから,むしろ同意を得たということを,裁判所の要するに令状審査の際の判断資料として持ち込めるような規定形式がないかということなのですよ。つまり除外できる。裁判官は,令状審査を受けたときに,同意を得ているかどうかの資料を求められるような規定形式がないかということなんですよ。

●いかがでしょうか,ただいまの疑問について。

●今の御発言の冒頭に言われた,構成要件なのか違法性なのかという問題について言えば,先ほど来申し上げているように,この「人の電子計算機における実行の用に供する目的」に当たらない以上,当然構成要件に当たらないというふうに理解しているわけであります。

共助の場合の要件判断は,事実関係によるわけで,どういう証拠でそういう共助の要請があるのかによるわけですけれども,その証拠上,そういう同意を得ていないような他人の使用する電子計算機に相手の意図に沿うべき動作をさせないような指令を与える電磁的記録を,このように作成・提供する行為があったのかどうかという判断をするわけですから,その点で特段の問題が生じるというふうには考えておりません。

●今の点,いかがですか,ほかの皆さん。

●確認なんですが,そうすると,この規定形式でも捜査機関が令状請求をする場合には,他人のコンピュータに侵入しようとしている外形がある,それからその他人から同意を得ていないという,そういう疎明資料を持っていかないと令状は出ないという,そういうことを構想されてこの規定形式が作られている,こういう理解でよろしいのですか。

外形上第三者に侵入しようとしているように見える,しかし,第三者の同意があると。この同意というのは,どっちが捜査の段階で,あるいは令状請求の準抗告の段階で立証するのですか。

●先ほど来申し上げておりますように,この罪は,現行の偽造罪なり電磁的記録の供用罪の並びでいろいろと要件,考え方を整理させていただいておりまして,今の御指摘の点と申しますのは,例えば偽造文書を行使する,あるいは不正に作出された電磁的記録を人の電子計算機の用に供するという事実について,どのように考えるのかということと同じことでございまして,特段これまでのこういう偽造罪等をめぐる考え方と変えないということでございます。そこは,同様という理解であります。

●それは,お考えの構造は分かるのですが,果たしてそれがいいのかというのが私どもの問題意識で,例えば文書偽造とパラレルに考える場合には,つまり文書偽造と外形上同じ行為を組織的,集団的に,あるいは事業として行っている,そういう領域が存在しない,あるいは特別にそういうものを保護する必要があるとは認められない,こういうことだと思うのですね。

ところが,コンピュータの世界の場合には,そういう特殊な領域があるということ,だから論点になるのだと思うのです。実体法的に,最終的に裁判官の判断で何が犯罪か,あるいは何を処罰するかということについては全然ここでのコンセンサスは違いはないと思うのですが,特に例えばこういういかにも悪いことをしているかのように見える,そういう行為が,一定の限度においてこの領域の発展に寄与してきたと,現にそういう産業領域が存在する,それも一定限度保護しなければならない。それは,国策として保護するというよりも,それにかかわっている人が安心してそういうことができるようにある程度はしなければいけないという,そういう特殊な考慮がこの規定形式を作る際にどのように考慮されているのかということをお伺いできれば,私どもは有り難いというか,いい法律ができるというふうに思っているものですから,こういう質問をさせていただいております。

●繰り返し申し上げることになりますけれども,要するに人の使用する電子計算機について,その意図に沿わない動作をさせる,あるいは意図に反する動作をさせるということが要件になるわけですので,犯罪の事実を裁判で認定をする場合,当然そういう認定がされなければ有罪になりませんし,令状請求の段階であれば,そういうことを疑わせる事情といいますか,事実といいますか,そういうものが相当な理由として認められないと令状が出ないということだと思います。もちろんどういう事案でどういうふうに認定されるかというのは正に個別具体的な事情になるわけですけれども,その事情のもとでそういった疑いなり嫌疑というものが,その令状発付の際の要件になるというふうに考えております。

●ですから,その御配慮が,規定形式との関係でどのようになされているのかだけを教えていただきたいというか,これから案が国会に出るわけですから,そこではっきりとさせられるようにしていただきたいということなんです。

裁判官にお任せというわけではないと思うのです。令状の場合は,立法によって裁判官の判断をコントロールするわけでありますから,やはり規定形式がすごく大事だというふうに思うのですけれども。

●今の議論は,第一の罪の新設そのもの全体に反対するとかいうことを言っているわけではなくて,先ほど来議論になったような正当なものを排除していこうということで,そういう正確な文言が作れないかという議論をしているのですが,今のお話ですと,その意図に沿うべき動作をさせず,その意図に反する動作をさせる電磁的記録だということが分かれば,それだけでこれは発動されるのではありませんか。後に,それが実行の用に供する目的だったかどうかとか議論があるにしても,先に発動されてしまうのではないかと,そうすると業界筋等は非常に萎縮効果が出てという議論になっているのですよ,組立てが,○○幹事の言われたのは。だから,そういう意味でこの第一の一というものが,そういう正当な業務として行うものにはかかっていかないのだという,条文を見て安心できるような条文にしてもらった方がいいのではないかということを言っているのだと。だから,犯罪目的というのが書いてあれば,例えば条約のように「犯罪の目的に」,あるいは「犯罪の意図で」というふうになっていれば,それはもう業界筋は犯罪ではないという確信を持ってやれるから問題はないだろうと。だから,そういうものとしてこの第一の一が読めますかという議論がさっきから出ているのですね。

●先ほども申しましたように,要するにこの条文で少なくとも正当な目的の場合については構成要件阻却か違法性阻却か,どちらかでは落ちるのだということは皆さん御了解されていると思うのです。ですから,まずそこから始まって,あと手続上の問題ですけれども,それが果たしてそれほど重要な問題なのかどうか。先ほども説明がありましたけれども,実際上,特に「人の使用する」の「人」に同意があるような場合について,それが実際に事件の対象になってくるのかどうか,その辺,私としては十分理解できないのですけれども。

つまり,これまで問題になりましたような不正な目的のある場合に,この条文で入ってしまうのだろうかということです。私は,これで十分排除できるのじゃないかと思っているわけですが,その際に構成要件に該当しないという観点で排除するというのが事務当局のお考えなんですが,仮にそうではなくて,違法性阻却という観点で犯罪が成立しないとしても,そう大きな違いはないのかなというふうに思ったりしたのですが,ほかの皆さんはいかがでしょうか。

●私,先ほど意見を申し上げましたけれども,基本的には構成要件に該当しないという形で正当なものは落ちているのではないかというふうに思います。

●ほかの皆さんはいかがでしょうか。この条文の作り方で十分それは可能であるということですね,○○委員の御意見も。

●これで,正当な目的で,セキュリティをチェックするために一定のプログラムを作成するというようなものが処罰の対象になることはないと。

●この条文で,心配はないということでございますが。

●処罰の対象になるかどうかが議論されているのではなくて,構成要件の保障的機能が発揮される場合があるかどうか,そこがどんな場合かということと,それから処罰されないことについてはもう理解しているので,例えばその捜査が合理的に抑制できるかどうかどうかという,あるいはそのためにどういう工夫をするかということだと思うのです。それについてのお考えを,できればお伺いしたいと思っているのです。

●「実行の用に供する」というところに「不正の目的」と入れるかどうかということにこだわっておられると思うのですけれども,おそれておられるのは,目的のところが飛んでしまって,後ろの部分の動作をさせるような働きをする,そういうものを作ったら,それで令状が出て,捜索等がなされてしまうのではないか,あるいは逮捕状が出てしまうのではないか,そういうことのように思うのですけれども,この原案でも,そういう「人の電子計算機における実行の用に供する目的」があるということも疎明しなければならないわけです。そこを「不正の目的」と書こうと原案のように書こうと,疎明をしないといけないわけで,そこのところで,恐らくおそれられているようなことははねられていくと思います。

「不正の目的」と書いても,おっしゃっているような事態をもし裁判官がチェックできないとすると,それは入ってくるので,そういう話ではないというふうに思うのです。

何を懸念されているのか,ちょっと私どもにはいま一つつかめないところがあるので,もっとはっきり,こういう場合が落ちてくるじゃないかということがあれば言っていただきたいと思います。

●この問題は,現行法上の目的犯,例えば文書偽造罪などとパラレルに考えてよいと思うのです。単に文書を偽造しても,犯罪にはならず,行使の目的がなければなりません。「行使」というのは,それ自体はニュートラルな言葉なんですけれども,他方で,行使罪というのがあり,それは犯罪として要件が定められているのですね。その意味で,目的の内容は,別途定められており,行使罪を実行することを目的の内容として偽造罪という犯罪の内容が確定するという構造になっているのです。今回の原案もそれとパラレルに考えることができるはずであり,「実行の用に供する目的」というのは,それ自体はニュートラルな言葉なんですが,当然に,供用罪に当たる行為を行う目的というように理解されるべきものです。したがって,あえてそこのところに拘泥する理由はないと思うのです。現行法の規定について「行使」という言葉はそれ自体「およそ使う」というだけのことを意味するから,偽造罪の処罰範囲の限定には役立たない,なんて議論は誰もしないではないですか。ただいまの議論は,それと全く同じような議論ではないかと感じます。

以上のことが前提なんですが,他方で,電磁的記録不正作出罪の場合,「人の事務処理を誤らせる目的」というニュートラルでない表現が使われています。ここでも,そういうはっきりした文言が考案できれば疑義も生じないのかもしれないとも感じるのですが,ただ,私は原案で,解釈上,ご指摘のような問題が生じる余地はないと考えております。

●今,○○委員がおっしゃったように,行使の目的というのが文書偽造罪の場合,あると。それが正しく今回のウイルスの製造罪についていえばサイバー犯罪条約の2条から5条の犯罪に相当しているのだと思うのですね。そのことは,正しくサイバー犯罪条約に書いてあって,最初にお配りいただいた注釈書の仮訳文で,10ページの76項の部分ですけれども,はっきりこう書いてあるわけです。

この犯罪は,故意に,かつ,権限なしに行われることが必要である。例えば,コンピュータ・システムに対する攻撃からの防御のように,装置が正当な目的によって製造されて販売される場合における過剰な犯罪化の危険を避けるために,犯罪を制限する更なる要件が付加されている。一般的な故意の要件に加えて,本条約の第2条から第5条までの規定に従って定められる犯罪のいずれかを行うためにその装置を使用するという明確な,直接の意図がなければならない。

ここまで言われているわけですね。

これがどうしてそのまま条文化した形にならないのか。それは個人的法益を社会的法益に変えてしまって,構成要件から犯罪の目的を除外して,ここで言う「意図に沿うべき動作をさせず,又はその意図に反する動作をさせる不正な指令に係る電磁的記録」という,新しい,全くこの条約にはなかった,全然別個の概念を持ってきて,それでウイルスを定義しようとしたところに問題が生じているのじゃないかと思うのですね。

そういうふうにならざるを得なかったのは,恐らく2条から5条までの犯罪が完全に今の日本の現行法の中で犯罪化されていない,そこにこだわると,きちんとした形で,個人的法益の形で作ろうとしても条文化できないからだということで,こういう社会的法益というようなことが思いつかれたのではないかと私どもは推測しますけれども,それは議論が逆立ちしているのであって,もし現行の刑法の中にある不正アクセスとかそういうようなものが,このサイバー犯罪条約との形で完全な適合性が保たれていないというのなら,そこをまず直すべきであって,それを直した上で,それらの犯罪の目的,犯罪を行うために使用する目的,正しく行使の目的でこういうウイルスを作った犯罪というものをその次のステップで考えるべきだったのじゃないか。正しくこの装置の濫用という条文は,その他のコンピュータ犯罪の前提となっている予備的段階も処罰しようということで作られているわけですから,そういう順序を踏むべきだったと思います。

●実体法の観点から意見を述べさせていただきます。

第一これは,文書偽造罪とパラレルに考えて,偽造罪の一環としてとらえるという基本的な社会的法益のとらえ方ということで立案されたものだというふうに理解しております。その場合に,コンピュータ犯罪をどういうふうに位置づけるかという根本の問題があるわけですが,この点については私は必ずしも意見を同じくしませんが,ただプログラムに対する社会の信頼の保護という点については,社会的法益に対する罪として偽造罪の一環として扱い得るという点では賛成でございます。

その場合に,ここで行使の目的に相当するものとして,「実行の用に供する目的」ということが提示されておりますので,これは従来の我が国の刑法典の中で,偽造罪の一環として把握する以上は,やはり同様の理解をして解釈すべきである,このように思います。ですから,条約の中でいろいろ挙げてありますが,これはそれぞれの国が現行法との関連で規定する場合に,その趣旨を織り込むべきだということを言っているだけであって,我が国について言えば,文書偽造罪の中で,あるいはそれに類するものとして取り扱えばいいだけの話ですから,必ずしもその文言に拘束される必要はないだろうと,このように考えます。

先ほど来,構成要件の問題と証拠疎明の問題が出ておりますが,この行使の目的で限定するという場合には,外形上の問題と,それから主観的な目的としての行使の目的で限定が十分に働いておりますので,先ほど来心配されているような事態は,ここでは全部排除されるのではないか,このように考えます。したがいまして,こういう形で条文化した場合に,私は不当な要素が介入する余地はないのではないか,このように考えております。

●何分新しい規定でありますので,従来の規定のうちの偽造に関する刑法の規定に引き寄せて考えるという御趣旨の御発言を何人かの方から伺ったわけですが,それと違って,条約に引きつけて考えるべきだという御意見を繰り返し述べられているわけでございます。条約には,確かに犯罪を行う目的,そのような意図という表現が見えておりますが,これはこの条約の構造として犯罪一般を6条で言っているのではなくて,条約の2条から5条までで特定された犯罪,それを締約国が立法することを求めるというのが2条から5条までの趣旨でございまして,それを受けて,6条で,そのような犯罪についてという形で規定されていると思います。

したがって,この要綱(骨子)第一に戻りますと,ここに犯罪を行う目的で,あるいはそのような意図でというのを加えればはっきりするではないかという御意見もその限りではごもっともではありますけれども,しかし,そこで,条約2条ないし5条にいう犯罪というふうな限定は,日本の国内法では書くことが難しい。さればといって,不正の目的とか犯罪の目的というようなことでありますと,これは逆に非常に広がって,あらゆる犯罪を含むということになりかねないと思われます。そういうことで,第一は,一見したところ条約の規定から少し離れて見えることも事実でありますけれども,やはりこういう書き方が最善であったのかなという印象を持つ次第です。

●大分この部分について議論が出ましたが,考え方としては大体大きく二つに分かれたというような感じでございますので,一応これを前提にいたしまして,次々回のときに整理をさせていただくということにさせていただきたいと思います。

●違う問題なんですが。

「実行の用に供する」と,「実行」という言葉が使ってありますよね。刑法典で「実行」という言葉が出てきているのは初めてですか。

私ども,犯罪行為の実行の方,実行行為の方を考えてしまうものだから,もう少し何か「実行」でなくて,電子計算機を……,何と言うのか,今,急には思いつかないのですが,「実行」という言葉をなるべく使わないようなうまい用語というのは……。なかったのでここに落ち着いてしまったということなんですかね。

●御指摘のように,これは,未遂かどうかということを区別いたしますときの「実行」ではございませんで,いわゆるコンピュータ用語としてごく普通に使われている,あるいはキーボードにも書いてあるような用語としての「実行」なのでありますが,これを端的にどう表すか,プログラムについてどういうふうに書くかというとなかなか用語がなく,ほかに適切な用語があれば教えていただければと思います。

●○○委員は,これにこだわられる理由は何なのですか。

●こだわっていないのだけど,もっと適切な言葉があれば。

●原案の言葉がどうして不適切なのですか。不適切と感ずるのは,これを使うと何か不都合があるというふうに感じておられるからでしょう。

●いや,私どもは……。

●そうでないといわれるなら,言葉の適切性について延々と議論するのはどうかと思いますね。みんなそれぞれ美意識が違いますので,いろいろなところでそういう話になってしまうと思うのですよ。何か実害があるということなら,そういう議論をしても意味があると思いますけれども。

●犯罪行為の実行の方の概念に引きつけられる可能性があるもので。

●余り意味のある議論とは思えませんが。

●もう少し適切な文言がありませんかということです。

●今の点ですが,この「実行」というのが犯罪実行行為の意味にとられるという懸念を示されておりますが,条文上は43条と60条に,「犯罪の実行」というふうに,「犯罪」という言葉が入っておりますので,こういう形で使われたとしても,懸念はないだろうと,このように思います。

●ただいまのような議論を踏まえまして,整理をさせていただきたいと思います。

それでは,別な論点,要綱(骨子)第一につきましていかがでしょうか。

●作成まで処罰するかという議論がありまして,私は今回は作成を外して,提供した者の提供罪の方は処罰して,こういう意見も業界筋にもあるようですけれども,先ほどから実際の業界のいろいろな正統的な業務として行っている人たちからすると心配が幾つかあるというときに,作成そのものというよりも,やはり現段階では提供罪から処罰をしていって,その後その事態の推移を見て作成罪を処罰したらいかがかという議論もあるようですね。そういう議論もこういう業界ではかなり強く主張されているというふうに思いますので,その辺のことも配慮して,今回一気に作成・提供という形で作成から処罰するということをしないで,具体的な行為があった,あるいはその未遂という段階から処罰するというような形でしたらどうかという意見もあるのですが,その辺はいかがですかね。

●これも前回議論のあったところでございますが,いかがですか。

●保護法益の理解が重要だと思うのですが,それを先ほど来お話しされているような趣旨で理解することを前提として申し上げれば,ここでも現行の偽造罪の諸規定とパラレルに考えることが可能です。もし先行する作成を処罰しないとしますと,それは,先行するおおもとの偽造を処罰しないで交付と行使だけを処罰する立法ということになります。それは保護法益の理解を前提に考えてもおかしいと思われます。悪いものを世の中に生み出すところのおおもとの行為はやはり処罰しなければいけないということです。

●この条約が起草されたときの新聞等を調べてきたのですが,2001年の11月30日付の朝日新聞の社説なんですけれども,「サイバー条約丸のみにはできない」という社説が出ているのですけれども,この中に,これまで処罰されなかった行為が条約上犯罪とされているということで,「例えばウイルスの製造犯罪と規定した。他人に送らなくても犯罪となるわけだ。そこまでやる必要があるかどうかは議論のあるところだろう」と,こういう意見がこういう非常に大きな新聞の社説でもはっきり述べられているわけです。

現実に我々,コンピュータの実際の実務に携わられている方から聞いても,一気にそこまで最初からやる必要があるのかという意見を何人もの方から聞きましたし,現実にこの条約でこの部分は留保可能な条項で,条約自身を批准するとしても,製造からやる必要はない,第三者に利用可能になった段階ではもう既に危険が発生することは明らかなわけですから,その段階から処罰するということについては我々反対しませんけれども,製造の点については,先ほど来言っているハッキングツールとセキュリティのツールは全く同じものなわけですから,その作っている段階で,その人が何の目的かということは分からないわけですよね。ハッキングのために作っているのかセキュリティの強化のために作っているのか分からないものを,怪しい人間が作っているからというだけでその人はハッキングのためだったというようなことにされてしまいかねない。だからこそ,むしろ企業に属さないようなプログラマーの人が特にこの点については非常に危ぐ感を持っていますので,ウイルスの製造から犯罪とすることについては反対です。

●ただいまの点につきまして,御意見,ほかにございませんでしょうか。

●禁制品と同じというふうに考えるのでしょうか。あるいは偽造文書。ウイルスというか,こういう人の意図に沿うべき動作をさせなかったり,その意図に反する動作をさせる電磁的記録というもの自体が,そういう偽造文書というふうに考えておられるのかということになるわけで,先ほどからの議論も行使の目的でというような,偽造文書とパラレルに考える場合であっても,偽造文書であれば同意があろうがなかろうが,そういう流通に置くということ自体が社会に不安を与えるわけで,偽造文書と完全にパラレルかというと,今回のものは完全なパラレルではないのではないかということから,先ほどの目的のところも議論になってしまうし,今度の作成のところもそこで異論が出てくるのだと思うのです。だから,そのあたりが,今いろいろこういう議論をしているときに,業界の方からは文書も出ていて,先ほど言ったような作成についても段階的議論から外してほしいという意見もあったりするものですから,そういったことを含めて,少し……。

条約を立法化するのは,多分刑法が一番最初になるのですか。ほかの省庁の管轄の分野より早いのですかね。だからそういったことを含めて考えると,その辺を配慮した立法というやり方もあるのではないかというふうに思うのですが。

●この「実行の用に供する目的で」というのは,先ほど,○○委員から御指摘があったと思いますけれども,一般的なニュートラルなものということではなくて,特定の第一の二に当たるような行為ということになるわけでございますので,○○委員が先ほど心配されたような,何か怪しい人物がそういうことをやれば全部犯罪になる,こういうことではなくて,そこにあるような特定の行為の目的を持ってした場合だけが犯罪になるわけですから,令状請求の段階でも請求権者の方できちんとその点は疎明する必要がありますし,訴追された場合であれば,公判の段階で検察官においてその点をきちんと立証されなければ,それは処罰されない。これは当然だと思いますので,ここにあるような記載の仕方で特定は十分だというふうに考えます。

●これも文書偽造との関連の問題になるわけですが,これはこういうウイルスの作成それ自体が処罰の対象になるわけではなくて,あくまでも今出た「実行の用に供する目的」を持って作成する行為が処罰の対象になるわけですから,先ほどの作成行使それ自体の処罰を排除すべきだというのとは,限定という観点からしますと,この要綱案でも十分に限定はきくと,このように考えます。

●コンピュータセキュリティに関する仕事をしている弁護士としては,本当にセキュリティに関する要請が強いというのは分かります。ただし,問題は,ここで議論しているのは,例えばコンピュータウイルス処罰特別法を議論しているのではなくて,刑法を議論している。そのときに,要するに処罰の必要性は当然あるわけですけれども,やはりお話を聞いていると,リアルな,少なくとも私が見ている日々のセキュリティに対する要請,刑罰をもってプログラムを作成するところまでの要請があるかというと,少なくともこれは取るに足りない私の経験ですけれども,そこまでの要請が社会的に存在するとは,私は見えないし,それから弁護士会でリサーチした結果も余りそこまで見えない。だけど,社会的法益としてそれをやる必要があるとか,それから構成要件の保障的機能についてこれで大丈夫だとか,いろいろ議論されていますけれども,一番大事なのは,私たちが共通認識の中で,例えばこれを処罰するべき,あるいはこれがなかったために処罰すべきであった事象がどれほどほ脱というか逃がされているのか,そうしたデータがない。それから,実証的に,例えば法定刑についても,それはこれだけの識者が集まっているわけですから,当然尊重されるべきですけれども,やはりそれを支える社会的なリサーチの結果も出ていない。

それから,伺いたいのは諸外国の立法例の中で,うちの国は何番目にこれを規定することになるのか,本当に例えばうちの国にこれを処罰すべき必要性があふれている,それで外国でもやっている,いつものようにうちが要するに国際的についていけないからやる,これなら分かるのだけれども,どうもお話を聞いていると,議論の枠組みは分かるのですが,それを支える実態というのは一体どこにあるのだというのが見えない。だから業界の方は,こんな必要があるのかという議論が出てくるのだと思うのですけれども。その辺のリサーチの結果というのは,やはり是非示していただきたいと思うのです。

●○○幹事御承知のように,日本のコンピュータ普及率というのは世界に冠たるものがございますし,しかも今後それが進んでいくということはだれも止められない状況でございまして,そうしますと,我が国と比べ余りコンピュータの普及していないところで立法していないから,何で日本でするのだと言われましても,これはちょっと御勘弁いただきたい議論であろうかとは一方で思うわけでございます。

それと,さっきのセキュリティ関係の開発と紙一重的な話は確かにございますけれども,今回いろいろと要件を,その意味で偽造と同じように絞り込んでいるわけであります。また,偽造との関係で申せば,一定のコピー文書につきましても,今,偽造罪にならないというふうな御意見は非常に少ないのじゃなかろうかと思います。普通は行使の目的で公文書等につきましてコピーいたしますと,これは当たるものというふうにお考えになっていると思われるのですね。極めて精巧なコピー機が今普及しているわけでございまして。そうしますと,先ほどおっしゃっていたような御議論からいたしますと,普通の方が他人の文書をコピーしますと偽造罪として捕まるのじゃないかというのと同じような御議論に聞こえる部分がございまして,ここは,普通のセキュリティのための研究であるとか,そのための同意を得た使用とかいったものは当たらないように構成要件的にも書かれているわけでございまして,これで特に御懸念のようなことは起きないと思われるのでございます。

今後,より一層コンピュータ化が進んでいく我が国ということを考えました場合には,やはりこの手のウイルス罪と申しますか,そういったものを設ける必要性というのは当然にあろうかというふうに考えられるわけでありますけれども。条約で言う製造罪も含めてでございますが。

●質問ですけれども,最初の方の会議で「関係する諸外国法制」という資料をいただいていますね。専門家が読まないとよく分からない部分もあるので私の理解が違っているかもしれないのですが,ウイルスの製造だけで犯罪になるということを明確に決めている国というのはあるのでしょうか。

それともう1点質問したいのですが,このサイバー犯罪条約,確かに条約が起草されてもう2年ぐらいになるのですけれども,私の聞いているところでは,まだ批准した国は3か国しかない。アルバニアとクロアチアとエストニアしか批准していないというのを聞いているのですが,そういう実態で,諸外国ともそんなにこの条約に基づく国内法化みたいなことは進展していないという理解もしているのですけれども,どうなのでしょう。そのあたりの基礎的な事実関係を明らかにしていただきたいと思います。

●御指摘のように,サイバー条約を批准している国はまだ3か国でございますが,当然,それぞれ,各国とも条約の批准に向けて作業は進められているわけで,フランスでは法案が出たりというようなことになっておりますし,ほかの国がやっていないというわけではもちろんない。

欧米の諸国はすべて,それから,そのほかアメリカ等も署名をして,これはグローバルスタンダードになっていると評価されているところでありまして,日本だけが,ほかの国が全然やらないのにやろうとしているということではないわけでございます。

●アメリカもイギリスも,批准する計画は今のところないというふうに政府当局者が話しているというふうに,私,つい先だってロンドン大学でこのサイバー犯罪条約を研究されている○○さんという方から聞いたのですけれども,フランスは知りませんけれども,アメリカとイギリスについては少なくとも具体的な批准に向けた計画は一切ないというふうに聞いていますけれども,どうですか。

●どういうことを聞かれているのかよく分かりませんが,アメリカにしろイギリスにしろ,署名をしているわけでございまして,それぞれ批准に向けた努力をされているのは間違いないと思います。

●具体的に,何かそういうことを知っておられるのですか。

●具体的には把握はしておりません。

●サイバー犯罪条約を主要な先進国がどのように評価しているかということでございますけれども,御存知だと思いますけれども,アメリカやイギリスにおきましてはもともとかなり広い処罰対象をコンピュータ関連の犯罪について持っておりまして,サイバー犯罪条約についても,むしろ,例えばイギリスなどでは自国が今まで処罰してきたものの後追いなのではないかというふうな評価も多々あるところでございます。

そういったことですので,この条約をそのまま批准するということが,我が国の立法を正当化するということは全然意味しないのでありまして,一般的にここで言われているのは,趣旨が既に立法化されている国と,欠けている例えば我が国のような場合において,実情に応じてどのように立法するかというのは,その国々の裁量の範囲だと思います。

また,先ほど述べられましたサイバー犯罪条約を3か国が批准しているというのは,そのとおりでございますけれども,私の知る限りでは,それらの国はこの分野の法制がほとんどないので,これをベースにして一気に,いわゆるスタンダードと言われるものを作ろうという方向でやっておりますけれども,他の国は割と我が国と同じでして,抜けているところを個別に補充すればよいというスタンスですので,そういった全体を見て評価しなければ,立法の在り方については評価できないのではないかと思います。

●ほかにいかがでしょうか。

●さっきもちょっと出たのですが,法定刑の件でお伺いさせていただきます。

プログラムに対する社会の信頼,公共の信頼が保護法益であるということで,これは社会的法益に対する罪として把握した場合に,3年以下というのは,従来の偽造罪関係の罪の中ではかなり低くなるのではないかという感じがいたします。

この点については,既に不正アクセス法等もありますので,そういったものとの関連において実質的な考慮があったかと思います。もしその点について,こういうことを考慮した上で3年にしたのだということがございましたら,お教えいただきたいと思います。

●先ほども御説明をさせていただきましたが,作成・提供・供用の罪につきまして3年が相当ではないかと考えましたのは,刑法のほかの罪とのバランス等も考慮してということでございまして,具体的には電磁的記録の不正作出供用罪などの法定刑との均衡を考えたところでございます。

電磁的記録の不正作出供用罪と比較をいたしますと,この罪につきましては,重要な事項,権利義務に関する事項等の重要な事項を内容とする電磁的記録に限られ,しかも,その罪は,電磁的記録の証明機能に対する信頼を直ちに侵害するような行為でございますので,それと比較した場合,この不正指令電磁的記録の罪につきましては,やや軽いという評価もあり得るのかなというようなことも考慮しまして,3年程度ではないかということを考えているところであります。

それから,不正アクセス罪につきましては,法益のとらえ方がかなり違いますので,1年となっておるところでございます。

●ほかに,これでは法定刑が軽過ぎるのではないかという御意見がございましたら……。

特になければ,要綱第一につきましてかなり議論が行われましたので,この辺で第二の方に話題を移させていただきたいと思います。

それでは,第二につきまして御説明をお願いいたします。

●それでは,再度論点メモを御覧いただきたいと思いますが,これに沿って要綱(骨子)の第二の論点について御説明をいたします。

まず,構成要件として,一の後段の「わいせつな電磁的記録等の頒布」の表現ぶりにつきまして,現在の刑法175条前段の「頒布」は,不特定又は多数の者に対する販売以外の交付行為を言うものと解されておりますところ,わいせつな電磁的記録等の「頒布」は,これと意味が異なることになり,分かりにくいのではないかという御意見がございました。

しかしながら,現在の刑法175条前段の「頒布」がこのように解されておりますのは,客体が有体物に限られていることを前提としたものでございます。もともと「頒布」という日本語は,「広く行き渡るように分かち配ること」を意味するものでごさいまして,無体物について用いることができないものではありませんし,電気通信により広く電磁的記録を行き渡らせる行為について「頒布」という用語を用いるべきではないということにはならないというふうに考えております。

そして,わいせつな有体物の頒布と実質的に同じ結果を生じさせる行為というのは,不特定又は多数の者の記録媒体にわいせつな電磁的記録を存在するに至らしめる行為であると思われますが,要綱(骨子)では,このような行為を現在の刑法の概念を用いまして「電磁的記録の頒布」と表現したものでございまして,わいせつ物の「頒布」もわいせつな電磁的記録の「頒布」も,どちらもわいせつな情報を有体物に化体した状態で不特定又は多数の者に行き渡らせるという点で共通の意味を持つものでございますので,適切な表現と考えております。

なお,この点に関しまして,「わいせつな電磁的記録を不特定又は多数の者に送信し」というような表現を用いることにつきましては,例えば,テレビ放送でわいせつなストリップショーを生中継で放送する行為のように,これまで公然わいせつに当たるとされていたものも含まれてしまうことになりますので,このような観点からも相当ではないと考えております。

次に,わいせつな電磁的記録についても公然陳列罪を設けるべきではないかという御意見がございましたが,例えばWebページでわいせつ画像を不特定多数の者が閲覧できる状態にする行為につきましては,わいせつな電磁的記録が記録されている記録媒体の公然陳列行為に当たるとされているところでありまして,それに加えて更に電磁的記録の公然陳列を処罰する規定を設ける必要はないものと考えております。

二の「物又は電磁的記録を所持し,又は保管した」という表現につきましては,先ほど御説明いたしましたとおり,「物を所持し,又は電磁的記録を保管した」という表現に改めたところでございます。

要綱(骨子)の第二については以上でございます。

●それでは,これら以外の点でも結構でございますので,要綱第二を中心に御議論いただきたいと思います。

なお,先ほど紹介がありましたように,第二の二のところで修正案がございました。「一の物を所持し,又は一の電磁的記録を保管した」と,所持と保管を分けて規定するように修正したわけでございますが,この点も御検討いただきたいと思います。

●二つあります。

1点目は,確認ですが,第二の今回の所持・保管の対象物との対応関係の整理ですけれども,これは電磁的記録については所有権を観念できないという,そこで所持を除いたと。所持と電磁的記録の所持ということのつながりを排除した,そういう趣旨で理解してよろしいのですか。

従前の記載形式を,物を所持,電磁的記録を保管と,こう直した趣旨ですけれども,その根拠についてはっきり伺いたいのですけれども。

●電磁的記録について所有権が成立しないというのはそのとおりだと思っておりますが,所有権が成立しないから所持が成立しないという関係はちょっと論理的にはないのではないかと思いますが,そういう理由ではございませんで,これは,前回この部会でも御指摘がございましたように,前の案でございますと,物の保管,それから電磁的記録の所持というのがあり得るような規定ぶりになっておりましたので,そういうことがあり得るのかという誤解を生じ得るということで,そこを明確にするために対象と行為をそれぞれにくっつけて明確化したという趣旨でございます。

●そこのところをもう少し説明していただけますか。物の所持があり得ないというのは……。なぜあり得ないのですか。

●物の保管,電磁的記録の所持というのは,ここの行為態様としては考える必要はないということでございます。

●2点目ですが,公然陳列については最高裁の考え方をとるということで,要するにわいせつ物は媒体の中に含まれた情報,それから陳列される物はその媒体と,こういう考え方を今回の改正については尊重するという,そういうお話というふうに理解してよろしいのですか。

つまり,公然陳列については特に規定をしないという,その根拠で述べられたこととの関係なんですが。

●平成13年の最高裁の判例のことかと思いますが,その考え方は維持をするといいますか,それを前提に考えております。

先ほども御説明いたしましたが,具体的にはわいせつ画像をWebページのハードディスクに記録して,不特定多数の者がそのWebページを閲覧することによってわいせつ画像を閲覧できるという状態にした場合を前提にされておられるのだと思いますが,そういう場合には記録媒体の公然陳列が成立するという判例の考え方を前提にして考えておりますので,更に電磁的記録の公然陳列という罪を作る必要はないというふうに考えているものでございます。

●ほかにいかがでしょうか。できるだけ御意見をいただけると有り難いと思いますが。

●同じことの繰り返しなんで言いたくなかっただけなのですが,頒布という概念には,やはり……。先ほどの説明は,無体物にも頒布という概念が当てはまると言いましたけれども,広辞苑を読んでも先ほどのような説明が辞書には出ているのですが,明らかにそれは逆に言うと有体物を前提とした言葉の解釈だろうというふうに私どもは読んだので,それを今またやると,この前と同じ議論になるだろうと思っているものですから。

●今日は一応御意見を整理するという趣旨でございますので,繰り返しになりましても,是非……。

●頒布の関係なんですが,やはり電気通信による送信によってサイバーポルノみたいなものを送信する行為を犯罪化しなければいけないということは異論がないと思うのですけれども,それをどう表現するかということで,頒布という概念は今までずっと使われてきていて,少なくとも今までは無体物については使ってこなかった概念なんで,そういう刑法で長い歴史を持っている条項を別の概念を入れたものに作り変えるということが,構成要件の歴史的な明確性みたいなものに影響を及ぼさないかということを懸念しているわけですね。

何かいい表現はないでしょうかねというような御意見が○○幹事からあったように思うのですけれども,いろいろ探していると,著作権法の中の2条の1項7号の2というところに,「公衆送信」という言葉があって,「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと」というのが「公衆送信」ということではっきり掲示されて使われていて,これなんかぴったり来る,そんなに長くなりませんし,「不特定又は多数の者に送信する」では長過ぎるじゃないかというようなことを言われてしまったと思うのですが,「公衆送信」なら「頒布」より2字多いだけなので,それほど異論はないと思いますし,これははっきり著作権法の中で定義されて使われている言葉なんで,最近できた言葉ではあるわけで,正しくこういう問題に絡んで新しくできた概念だと思うのですけれども,そういうものも参考にしてはどうかなと思うのですが,どうでしょうか。

●ここでは頒布罪として,どういった事象をとらえるかということにつきまして,単なる送信で足りるというふうにするのか,今の頒布罪で言っておりますところの有体物に化体した形での−−わいせつ物も,人形とか何かそういうものを別にいたしますと,何らかの媒体上にわいせつ情報が記録された状態のものということでございますので,そういったものを少なくとも最終的には必要とする,それが不特定多数の者に渡るというところを,今回もわいせつ物の頒布との横並びでとらえようといたしますと,送信だけで足りるのか−−送信でございますと,それは非常に広い概念になってまいりますので,そういったいわゆるわいせつ情報が記録媒体に記録された,そういったものを不特定又は多数の者に行き渡らせていくという点に,今回は一般のわいせつ物の頒布と同様の処罰の根拠というものを考えてもいいのではないかというふうに思われまして,その意味で他の表現をとるよりは,むしろ刑法のこれまでのわいせつ物の頒布罪の整理と申しますか,用語の解釈をできるだけ維持するという意味合いから,「頒布」という言葉をここでは用いさせていただいているというところでございます。

●私も,基本的な考え方としてはできるだけ電磁的記録に即したような表現ぶりが望ましいのではないかというふうには思っておりますけれども,今,○○委員が御指摘されましたように,送信だけでは足りないと,受信されなければいけないだろうと,受信するだけでも足りない,保存されなければならないだろうということになりますから,それをずらずら書くのかという問題が一つあろうかと思います。

私は,従来の頒布という概念を使いながら,その枠内で基本的な考え方として押さえるというのは十分に合理的な考え方ではないかというふうに思っておりまして,個人的にはこれで結構なのではないかというふうに考えております。

●今,著作権法ということで用例の御紹介がありましたので,単なる用例の御紹介をいたします。「頒布」という言葉については有体物の関係でしか使っていないではないかという御指摘がございましたが,放送法という法律がございまして,その16条の4項というところで,日本放送協会,NHKの委員の欠格事由の中に,その中の6号として,放送事業者云々の「新聞社,通信社,その他ニュース若しくは情報の頒布を業する者」,こういう規定がございます。ですから,ニュース又は情報ですので,文字通り無体のものでごさいまして,それを先ほど○○幹事が申しましたように広くあまねく行き渡らせる,こういったことで法令用語としても用いられている例があるということを御紹介させていただきます。

●この議論はホームページに載りますし,やはり一般国民の皆さんが分かるような議論をするという意味でも,大事なところは皆さんの御意見をいただいた方がよいと思いまして,あえて繰り返しになりましたけれども御意見をいただいた次第でございます。

それでは,ここで休憩をとらさせていただきます。

(休憩)

●時間になりましたので再開いたします。

休憩の前にはいろいろと御議論いただきましたが,一応第一,第二の御議論をちょうだいいたしましたので,また更に補足すべきところがございましたら,第三,第四の議論の後にちょうだいをするということにして,要綱(骨子)の第三及び第四についての御議論をお願いしたいと思います。

まず配布されております資料に基づきまして,論点の整理を事務当局からお願いいたします。

●それでは,要綱(骨子)の第三及び第四に関する論点について,御説明をいたします。

要綱(骨子)の第三につきましては,まず電磁的記録の複写等の処分によるべきか否かを裁判官が判断する制度の要否といたしまして,記録媒体の差押えによるべきか,それとも電磁的記録の複写等の処分によるべきかを裁判官が判断する制度を設けるべきではないかという御意見がございました。

しかしながら,電磁的記録に係る記録媒体の差押えにおきまして,どのような執行方法をとるべきかは,電磁的記録がいかなる記録媒体に記録されているのか,無関係な第三者の電磁的記録が混在しているのか,被差押者がどの程度協力するのかなどの様々な事情によって異なってくるものであります上,使用されているコンピュータシステムやアプリケーションには様々なものがありまして,電磁的記録の複写等の処分を行うことができるか否かは,あらかじめ判明していないことも少なくないことから,基本的には現場での捜査機関の判断に委ねるのが相当であると考えております。

もっとも,より侵害的でない執行方法が認められている以上,捜査機関が裁量を著しく逸脱したような場合,例えば電磁的記録の複写等の処分で足りることが明らかであり,かつ,それが容易であるにもかかわらず,記録媒体全体を差し押さえたような場合には,事案によっては,それによって財産権の侵害を受けた者は準抗告を申し立てることができるものと考えております。

次に,被処分者の負担を最小限にとどめるような方法で行わなければならない旨の規定の要否につきましては,令状の執行を受ける者に不当に負担を及ぼすことのないよう捜査機関が配慮すべきことは,現行刑事訴訟法の下においても当然のことでありまして,被処分者の負担を最小限にとどめるような方法で行わなければならない旨の規定を設ける必要はないものと考えております。

押収の後,関連性のある電磁的記録か否かを裁判官が判断する制度の要否につきましても御意見がございました。

刑事訴訟法は,差し押さえるべき物を明示した裁判官の発する令状がなければ,捜査機関は差押えをすることができないこととし,目的物につき差押えをする「正当な理由」が存在することをあらかじめ裁判官に確認させ,それを令状の上に明示させて,その範囲でのみ押収を行うことを捜査機関に許すという制度によって,捜査機関の恣意的な差押えが行われないようにしているものでありますが,本処分は,あらかじめ裁判官が令状で電磁的記録に係る記録媒体を特定した上,その差押えを許可している場合に,捜査機関は,その差押えに代えてより侵害性が低い処分として差押えの許可を受けた記録媒体に記録されている電磁的記録の複写等を行うことができるとするものであること,それから,電磁的記録についても文書等と同様に一般的に記録されている状態を含めた全体からでなければ真実性を判断できないことなどに照らしますと,事後的に裁判官が個々の電磁的記録の関連性の有無について審査するような制度を設けることは必要ではありませんし,現実的でもなく,また,現行法の体系上も相当ではないと考えております。

捜索・差押えの令状に終了時点を明示することの是非についても御意見がございましたが,捜索・差押えの実施に当たっては,差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であろうと,それ以外の物であろうと,その実施時に捜索場所に存在するものを差し押さえることとなるのでありまして,捜査機関が不必要に執行の終了を遅らせて,送信されてくる電磁的記録を待ち受け,その記録媒体を差し押さえるようなことは許されないと解されますので,終了時点を明示する必要性はないものと考えております。

電磁的記録に係る証拠収集において,技術的基準を設けることの是非といたしましては,要綱(骨子)の第三の処分,すなわち電磁的記録に係る記録媒体の差押えに代えて複写等の処分をする場合における機器の規格等の技術的基準を設けるべきではないかという御意見ですとか,差し押さえるべき記録媒体に記録されていた電磁的記録と,他の記録媒体に記録された電磁的記録との同一性を確保するための技術的基準を設けるべきではないかという御意見がございました。

しかしながら,捜査機関といたしましては,要綱第三の処分を行う場合,被処分者の電子計算機や電磁的記録を損壊しないように配慮しながら,被処分者のシステムに応じた適切な技術を用いて処分を実施するのは当然のことでありまして,特に法令で技術的基準を定める必要はないと考えております。

また,証拠物の同一性の立証につきましては,要綱(骨子)第三の処分をする場合のみならず,現行法下でも問題になるところでございまして,具体的には証拠物の取得の経緯,保管方法等を立証することによって,かかる立証をしていくものであり,この点につきましては,特に法令で技術的基準を定める必要はないものと考えております。

要綱(骨子)第四につきましては,「記録命令差押え」の用語について御議論があったところでありまして,これにつきましては,先ほど御説明いたしましたとおり,「記録命令付き差押え」という表現に改めたところでございます。

最後に,要綱(骨子)第四につきまして補足的に説明したい事項がございます。

これまでの議論の中で,記録命令付き差押えにより,例えばプロバイダに対し,「今後10日間にメールサーバが受け取った電子メールの内容を記録するよう命ずる」という,そういう命令をした上,これを差し押さえることができるのかといった御質問がございました。

記録命令付き差押えは,電磁的記録を保管する者その他電磁的記録を利用する権限を有する者に必要な電磁的記録の記録等を命じて,その記録媒体を差し押さえる制度でありますところ,一般の差押えがその執行の時点で存在するものを対象とするのと同様に,相手方が命じられた記録等の行為を行う時点で存在する電磁的記録が対象となります。したがいまして,一定の期間にわたり記録されることとなる電磁的記録を広く対象とした記録等の行為を命じることはできないものであり,そのような記録命令付き差押えは許されないものと考えております。

以上でございます。

●ただいま,要綱第三,第四と併せて説明いただきました。要綱第三については,5点にわたって指摘されたわけでございますけれども,それ以外でも結構でございますが,まず要綱第三について御議論賜りたいと思います。

●第三の差押えの執行方法は,今まで記録媒体そのものを押さえるという形しかなかったわけで,そこをこういう新たな方法を作るということについては合理性があるというふうに考えております。

更によく考えてみますと,今回作るこの執行方法をまず第1にすべき執行方法にして,こういうものでも駄目な場合にやむを得ずに記録媒体そのものを押さえる,こういうシステムにする方が実態に合っているのではないか,これだと,どちらでもいい−−こういう言い方はおかしいのですが,捜査当局がどちらかを選ぶというふうになっているわけですが,私としては記録媒体を押さえるということは謙抑的にして,最初にここに書いてあるような記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写し,印刷し,移転する,それを差し押さえていくという,こういう方法をとっていくということを,こういう電磁的記録の場合の差押えの原則にするという方がよろしいのではないかと思うのですが,そういうことは難しいのですか。

そういうふうにしないで,やはり現場に臨んで初めてどういうふうにするかを選ぶのだという方がよろしいというのでしょうかね。私は,前者でいっていただきたいなというふうに思っておりますが。

●先ほども申し上げましたように,そのようなお考えをするとすると,これまで記録媒体の差押えの方法によっていたものすべてにつきまして,いわば情報を対象とする,そういう強制処分にするということになるのだと思いますが,文書等の物につきましても,一般的に,記載内容という情報それ自体だけではなくて,それが記録された状態を含めた全体から真実性が判断されるものでありまして,これは電磁的記録についても同様でございますし,また,例えば大量のフロッピーやCD-R,あるいは大容量の記録媒体等につきまして,それに記録されている電磁的記録の情報をすべて確認して,必要な電磁的記録だけを区別してこれを取得するといいますか,そのような事態は捜査の迅速性等に照らしましても現実的でないと。

それから,先ほども申し上げましたように,どういうことができるのかも分からないため,現場での判断にゆだねなければならないということもありますし,さらに,証拠物というのはありのままの状態といいますか,原本であるものをそのままその状態で保全して事実認定に役立たせる,それが現行法の体系でありまして,それには合理性があるところでありますので,情報を対象とするような強制処分といいますか,それを原則にすることは,捜査とか公判の実務に対する影響も大きいわけでございます。

他方,また,現実的にも電磁的記録に係る情報だけではなくて,記録媒体自体に証拠価値が認められる場合,削除痕跡についても調査が必要な場合も多いわけでございまして,このようなことを考えますと,強制処分の対象を情報だとか電磁的記録とするのは相当ではないというふうに考えているところでございます。

●関連していますけれども。先ほどの○○幹事の御説明の中でも,できるだけ負担を最小限にとどめるということで,必要もないのに記録媒体全部を持っていったときは準抗告の対象になりますというふうに言われたと思うのです。我々が言っているのは,それを一歩進めて,この条項の中に,基本は複写して差し押さえるという方法を原則にして,それによれない場合,それは事前に裁判官が判断できなくてもいいわけで,現場でそういう形でやりたいといって駄目ですといったら記録媒体全体を持っていくと,ないしは記録媒体自体に証拠価値があるというような場合ももちろんあり得ますから,そういう場合は記録媒体を持っていくということで構わないのですが,機械そのものまで持っていかれると確かに非常に困る場合が多いわけで,現実に刑事事件やっていて,コンピュータを使って仕事をしている人がコンピュータ全部持っていかれたら商売ができなくなってしまう,しかしこういう形で複写の形でやられれば商売が続けられるわけですから,非常にこちらの方がいいわけですね。現実に。

それは,協力した場合にそうなるのだと,協力しなければ持っていかれちゃうというのは仕方がないのですけれども,原則はこの要綱の3項のやり方であって,それに対して,それによれない事情がある場合には記録媒体全体の差押えが可能であるという形でよろしいのじゃないですか。その裁量権を逸脱した場合は,準抗告の対象になるとおっしゃっているのだから,そこに何か根本的な考え方の違いがあるとは思えなかったのですけれども。

●理由は○○幹事が説明されたとおりだと思うのですけれど,要するに,証拠となるものというのは実質的には情報であり記録だとは思うのですが,しかし,それが証拠として出てくるのは形のあるものに化体ないし含まれて出てくるわけですね。それがオリジナルな姿なので,それを押さえるというのが基本にある考え方だと思うのです。

そのままの形で押さえる必要と,相手方の権利とか利益に対する侵害・制約の大きさとを比べて,オリジナルを持ってくるのはベストなのだけれども,そこまでやる必要もない,あるいは,相当性という意味からも次善の策でもいいのではないかと考えられる場合に,今回の案のような措置が発動される,そういう構成なのだろうと思います。それが,現行法の体系を前提にする限り,一番素直な組み方ではないでしょうか。

○○委員が言われている点は,どちらから規定しようと,問題があるところははねられるわけです。その姿勢を示そうという趣旨は分かるのですけれども,やはり現在の制度全体の在り方,あるいは証拠として何がベストかということから考えると,こういう構成の方が素直な構成ではないかと私は考えます。

●例えば,「被処分者の負担を最小限にとどめるように努めなければならない」とか,そういうレベルのものでも無理なんでしょうか。

●前にどなたかも言われたように,それはもう当然のことである。あらゆる処分一般に通用することなので,あえて書くまでのこともないのではないかというのが私の感想です。

●ほかにいかがでしょうか。

●ここでもやはり,有体物なのかデータなのかということが議論になっているのですね。全体として有体物に引きつけて物を考えていく,それは現行法の考え方ですから,それをベースにしながら事を解決していくというのが今回の事務当局の案がそうだというふうに思うのです。ですから,実体法の部分でもそうですし,執行の点でもこういう同じことが言われると。

私自身は,それは一つの行き方で,それ自体は悪くはないと思っているのですが,私もその方が考えやすいタイプなので,物を有体物的に考えながらものを進めていった方が現行法体系に合うし,大きく言えば憲法にも合致するから,できる限りそこに引きつけながら踏み外さないような論理構成をとっていくというのは賛成なんですが,そういう上で,それを究極のものとしつつ,こういう第三のような場合に記録媒体そのものを差し押さえるべきものではあるが,そういうときにまずできる限り−−こういう場合は記録媒体そのものを調べなければいけないこともないことはないと思うのですが,普通の物のときに,どういう状態にあったかとかいうのとはまたちょっと違っているのではないか,データの場合ですよ。様々なものが混在するし,そういう意味では物理的な有体物的なもので存在する場合とはもっと違った形で,態様にいろいろなものが混じり合う,そういう状況が普遍的に起きるし,そこには有体的な何かがあるわけではなくて,データそのものが次々に加わり消えていくという状態があるときに,最後の歯どめは記録媒体を差し押さえるぞということで私は悪いとは思っていないのですが,まずはこれをやってみようというようなことは駄目なんですかね。そういう発想自体が。

今,○○委員のおっしゃったのは,現行法体系からいうと,まずはやはり有体物を押さえる,ただ次善の策としてこういうこともあり得るという論法をとろうと,こうおっしゃっているのですが,私はまずは逆にすべきだということを言っているので,そこらあたりの問題を少し議論していただければと思うのですが。

●私が申し上げているのは,現行法が物を対象にした体系をとっているから,それを踏まえてというだけではなくて,物についても証拠として意味を持っているのはそこに含まれている情報なのですね。しかし,それを確実に,ほかから引き離して保全する。完全な形で,オリジナルとして保全するためには,物自体を押さえるのがベストなので,そういうことでやっているわけです。それと同じことが,データなどについても言えるのではないか。

そういう意味で,証拠としての完全性を維持しながら,捜査機関なら捜査機関の保管のもとに置くというのが,正に現行法で言っている証拠の保全手段としての差押えであり,それが基本になるだろう。だけれども,保全の完全性という点で一歩譲っても他の利益を優先させるべき場合があるとすれば,次善の策として中身を複写する形で保全してきてもいい,そういうことなのです。

●いかがでしょうか。

●今,要綱第三の方法を原則にするようにしたらどうかと,それはある程度運用によってそうできるのではないかというふうに思います。

前にも,令状担当裁判官の方で要綱第三の方法によることという条件を付することができるかということで,事務当局の方はそういう条件を付せられることは余り好ましいことではないというようなお話もありましたけれども,現場に行ってみないとどういう状況か分からないので,第三の方法によれない場合もあるでしょう,したがって条件を付するとすれば,裁判官としては恐らく要綱第三の方法によること,要綱第三の方法によることが不可能若しくは著しく困難な場合はこの限りでないと,こういった条件を付すれば,運用面ではまずこの要綱第三の方法を先に検討する,処分を受ける側も,令状にそういう条件が記載されていると,まずその方法でやってくださいと,必要な協力はいたしますからということで,こういう方法が可能な場合にはスムーズに実務が運ばれることになるのではないかと。

これは,実際に令状を担当する個々の裁判官がどういう判断をし,どういう運用をするかにかかってくると思いますけれども,恐らくかなりの裁判官は,やはり大きいコンピュータとかあるいは記録媒体丸ごとそのまま押さえると,相当差押えを受けた側が困るのじゃないかという場合には,やはりそういう条件を付するという運用を恐らく考えるのではなかろうかというふうに思っております。

●私も実際の運用でそうなっていけばいいというふうに思っているわけですが,ですから,そういう運用になっていくような仕掛けをこの要綱案の中に少しでも入れておけないかという意味なんですね。

現実問題として,今の捜査実務においても,被処分者の方が協力的な場合には,この要綱3項と同じようなやり方が現にされているわけですね。現にそういう例は私も見聞きしましたけれども。それで協力しなかった人は持っていかれも仕方がない,そういうことがはっきり示されている方が,ある意味一つのルール化になっていきますし,こちらが原則,そして例外というと少し角が立つのであれば,基本的には先ほど負担を最小限にするのは当然のことだから,当然のことは書かない方がいいというふうにおっしゃったのですけれども,当然のことだったら書いてもいいのじゃないかと。正しく複写の場合と記録媒体全部持っていかれる場合とで,不利益の度合いが非常に違うわけですから,だとすると協力が得られる場合には負担を最小限にとどめるようなやり方をするという立法者の姿勢というのをちゃんとこの要綱の中に入れていただきたいなと,そのことによって運用自身もその方向に流れると思いますし,そうしないとやはり最終的な運用に対する方向づけにもならないのじゃないかなという気がいたしますけれども。

●例えば,どういう文言を入れれば適当とお考えでしょうか。

●一応,基本的には「原則は記録媒体に複写した上で,他の記録媒体を差し押さえるという方法によって行うべきである」というのを入れてほしいというのが最初の私たちの案だったのですが,ちょっとそれでは通りにくくなっているように感じているわけですけれども,例えば「処分者が協力的な場合については」……。そうですね,ちょっと考えてまいりますので。

今のところは,こちらを原則にして,補充性の要件のようなものを入れようというふうに提案しようと思っていたのですが。

●先ほど,○○委員がおっしゃられた条件については,事務当局としてはどういうふうにお考えなんでしょう。

●記録媒体ごと差し押さえるのが相当でない場合として念頭に置かれているのは,例えばプロバイダの場合だと思います。プロバイダの場合,現在でも,この第三の処分がない状態でも,コンピュータ全部を押さえるようなことはよほどのことがない限りほとんどしないわけで,つまり現在でも比例原則が働いているわけでございます。被疑者のところのコンピュータを押さえる場合にそういう条件をつけるなどということは現実問題として考えられないと思いますが,プロバイダの場合も,今,○○委員がおっしゃられたような第三の処分をなるべく原則にしろというような条件,もちろん,そのような条件を付するのは違法だということにはならないとは思いますが,現状でも比例原則が働いて,謙抑的にといいますか,やっている以上は,条件をつけようがつけまいが法律的な効果はないということになるのではないか,そういうふうに考えております。

●私たちが今議論しているのは,令状を得た捜査機関が現場で何を選択するかという問題ではなくて,捜査機関が令状請求をした段階で,裁判官がその令状に対する回答をする,そのときに裁判官を国会がどう覊束するか,その順序をどういう枠組みでやるかということだと思うのですよ。だから,私も先ほどの○○委員のおっしゃるように,恐らく裁判官は,例えば本件で問題になるのは専ら内部の情報だけを証拠として必要とする,そういうケースですね。物が必要なケースは当然物の差押えを許されるわけですからどんどんやればいいので,専ら情報だけの証拠が必要だという−−ちょっとそれだけがというのは考えにくいわけですけれども−−そういうケースを想定した場合に,国会として,あるいは国会に提案すべき行政機関として,裁判官に対するメッセージをどう送るかと。

裁判官が,例えば複数の選択方法があって,専らデータだけを問題とする場合に,そんなばかな判断するわけないじゃないかというのは,これはむしろ失礼に当たる。むしろ我が国としては,裁判官としてはそこの点をきっちり判断してくださいよという国民のメッセージがあり,裁判官もそれにこたえる。裁判官によって違うとか,あるいは裁判官はやるであろうという,そんな程度ではもったいないと,せっかくこの法律を作る以上は。そういう趣旨なんですね。そうだとすると,裁判官は例えば物の令状請求を受けたときは,第三の方法によることができないと認められるときに限り何々をすることができるとか,そんなような形態,それじゃちょっときつ過ぎるかもしれませんけれども,裁判官は何々物の令状,あるいは審査に当たっては,その原則を考慮しなければならないとか,幾つか定型詞はあると思いますけれども,その問題だと思うのです。

●もちろん,個人的な見解も含めてということではございますけれども,この規定を置くといたしますと,恐らく刑事訴訟法であろうと思われるわけでございます。現行の刑事訴訟法が,今おっしゃったように細かく分けるのではなく,これは普通の物につきましても多種多様のものがあるわけでございまして,一般の証拠物ということで考えましても。それを現在の刑訴法はああいう形で規定して,令状審査その後の手続等を定めておるわけでございまして,その中で,電磁的記録の記録媒体についてどう考えるかということなのでございますが,電磁的記録における記録媒体と申しましても様々なものがございまして,規模も様々でありましょうし,そういったものを一般的に規律しております刑訴法の中で考えました場合に,なおかつ何ゆえ証拠物としての差押えということを考えているのか,あるいはそれを許しておるのかということになりますと,これまでの御議論でも,同一性でありましたり,現状在り姿と申しますか,いかなる状態で,物全体もそうでございましょうし,その中の記録内容も物理的な話としてどういう状態で存在しておるのかということ自体に意味があると申しますか,正に証拠物として扱われて,その後の法廷での手続的な取扱いなどもそれに沿った形で規定されている,これはそれで十分合理性のあることだと考えられるわけでございます。その意味で,ここで記録だけをまず考える,それでやってみて駄目だった場合とか,そうすると逆にその記録が壊れるようなことも当然あるわけでございますし,そこでの複写しようとした行為などによって,あるいは移転でございますけれども,記録がきちんと証拠化できるかという問題も当然あるわけでございまして,そういったことから申しますと,ここはまず証拠物という形での記録媒体の差押えということ自体は,法律として考えました場合にはそれは前提とせざるを得ないのだろうと。その中で,しかし,ちょうど書き写すときに,非常に精密な,写真的なコピーとそうでないものとの取扱いが分かれるように,中身が極めて正確に,しかも情報だけが必要であるとか,あるいは同一性等も含めまして,差し支えない場合には,こういう方法をもっても証拠物の差押えと同等の評価ができるという仕組みを設けるという,その意味で法制的には二次的なものと考えた方が,現行法の枠の中では非常に合理的なものではなかろうかというふうに思われますけれども。

●令状に条件を記載するという点ですけれども,一つは先ほど来話題になっておりますように,令状裁判官がその時点で判断できるかという点があると思います。

それからもう一つ,記載がないとそれじゃできないのか,こういう問題が出てきますので,そういうふうに現場の執行官を令状で縛ることが適当かどうかという問題があると思いますが,もう1点,先ほど来話題になっていますけれども,もしできるにもかかわらず,つまり複写で,代替的なもので済ますことができるにもかかわらず,あえて本体を持ってきたというような場合には準抗告が可能である,こういう議論がありました。もしそうであれば,運用の問題ということになると思いますけれども,条文としては「できる」と書くわけでしょうけれども,できるのであればそれはすべきだというふうに恐らくなるのだろうと思います。もし,できるにもかかわらずしなかったということになれば,それは準抗告の対象になるということですから,運用に委ねるということで一定の基準が形成されていくのではなかろうかと,こういうふうに思います。

それはそうなんですけれども,関連して一つお聞きしたいのですが,これは代替的な差押えをするわけですが,当然令状はあるわけですね,差押令状はあるわけですね。その執行として代替するわけなんですが,この差押えというのは令状によるものということになるのかどうかですけれども。これは令状によるものに代替するのでしょうけれども,そこのところの考え方なんですけれども,それが一つです。そこをどう整理するかということ。

それによって,代替的に差押えするのですけれども,それはいわば令状による差押えに代わるものなわけですね。後から令状をもう一回執行することは当然できないわけですね。ですから,令状はもうそれで使い切っているわけですね。そうしますと,いわば令状による差押えとワンセットだと,こう思うのですが。そうしますと,代替的な場合であっても,いわば全面的に令状による差押えに代替しているわけですから,代替的な場合であっても全面的に準抗告ができるのじゃないかというふうに思うのですが。

ちょっと論点が次の論点に行きますけれども。

例えば,複写する範囲が異常に広い,ここを複写すればいいのに異常にたくさんのものを複写して持っていくというような場合に対する準抗告というのは,やはりそれは言ってみれば押収のやり過ぎという部分があって,それは準抗告できるのじゃないかと,こう思うのですが,そのあたりについてはどういうふうにお考えでしょう。

●もちろん,この第三の処分というのも,もとの令状に基づく執行といいますか,それは,令状がなければできないという意味でもそうでしょうし,その令状を使って何回でも複写の処分ができるわけはないという意味でもそのとおりだと考えられると思います。

それから,準抗告につきましては,これは,現行法では,いわば特別な財産権侵害のパターンの場合の特別な救済手続として設けられておりますので,基本的に複写の場合には,財産権侵害がない−−準抗告で救済しようとしている意味での財産権侵害はないということで,基本的には準抗告の対象にはならないということになると考えております。

●そういう理屈も立つとは思うのですが,類型的には押収だと思うのですね。本来の令状による差押えのいわば代替処分なわけですね。だから,言ってみれば令状による差押えをやったものとみなされているわけですね。そうだとすれば,その差押えを受けた者,押収を受けた者に対する準抗告の手段は与えられてもいいのではないか。言ってみれば両方の性質を持っているわけですから,本体の方,押収の方の準抗告の救済手段が与えられてもいいのじゃないかと思うのですけれども。

●今の点は,そういう救済手段の必要があるかどうかという議論だろうと思うのですね。ただ,さっき○○幹事が言われたのは,現行法の準抗告の制度というのは,財産権を制約し,それが現に続いている場合にそれを救済する,原状回復するというものとして組み立てられているので,そういう財産権の制約を伴わない場合には,それでカバーできないのではないかということだと思うのです。その問題と,実際に情報が,あるいは記録が押さえられている,それが違法な場合に特別の救済の手段を設ける必要があるかどうかということとは別問題だろうと思うのです。

例えば,物の差押令状の場合で,差押えるべき物が非常に大きいもので,それを持ってくるためには破壊しないといけないが,そこまでする必要はなく,その証拠的な価値のある部分を例えば写真なら写真で撮ってくればいいとします。現行法の解釈としてそういうことも可能だという解釈もあり得るし,またそういう代替的な処分が可能になるような立法をしたとしますね。それで写真を撮ってきたという場合に,準抗告の対象になるかというと,これまでの解釈ですと−−私自身は,目的論的解釈により,救済の必要がある場合はやれるのではないかという説なのですけれども−−現行法の解釈では,そこまでは及ばないというのが普通の考え方だと思います。

●もちろんそれは可能なんですけれども,あくまで令状による差押えの代替処分であるという側面を重視して,押収の方に引きつけて解釈することも可能ではないかという,そういう解釈も可能ではないかと。両方可能かもしれないですけれども,そういう解釈も可能ではないかということを指摘しておきたい。

●令状に条件を付することと,運用がそうなるかどうかという問題はありますけれども,御説明を伺うと,つけても余り実害もないし実益もないだろうという感じに受けとめているのですが。

恐らく,具体的なケースで,要綱第三の方法を優先して考えるべきだというふうに,裁判官が考えるとすれば,いきなりコンピュータなどを丸ごと差し押さえて持ってくるという事態は,もう万やむを得ない場合にしか想定していないということで,条件を付して令状を初めて発付できるという判断をされる裁判官はかなりいるのではなかろうかという予想はしておりますけれども。

●今の令状に条件をつけるというのは,ある種の捜索・差押えをするときに全体を持っていくのはいかにも過剰だというのが事前に分かっていれば当然その種の条件をつけるということは可能であるし,またすべきだと思うのです。そうでない場合に,条件なしに行ったときに,現場で捜査官が明らかに不必要なところまで押さえれば,それはまた過剰な処分ですから,それはそれとして違法になると思うわけです。

ところが,そうでなくて,明らかに過剰であるかどうかというのはよく分からないときに持ってきた場合に,要綱第三の処分ができたにもかかわらず,それをやらなかったという点において事後的な判断の誤りを指摘されたときに,これが違法になるというのはちょっとつらいのではないかなというふうに私は考えます。

●先ほどから,第三のところでコンピュータそのもの持ってきたら過大なのではないかということが議論になっているかと思いますけれども,第三だけで見るとそういう問題があるかもしれませんが,少なくとも理論的には検証という可能性はあるわけでして,コンピュータの中で必要な記録というのがはっきりしていて,それがどこにあるということまではっきりしている場合については,コンピュータという物にかかっていく処分ではなくて,検証という形でやっていく可能性というのはあるのだろうと思います。それで処分として足りるということであれば,裁判官の判断によりますが,差押えというのはそれは重過ぎて検証でも足りるのではないかということならば,そういう形で検証の方でいきなさいということを言うことも,可能性としてはあるのだろうと思います。

しかし,それでは賄えない場合というのが,恐らく捜査の場合には多いわけでして,そういう場合にどういう形でやるのかということがこの第三というところでは問題になっているのではないかと思います。それを,現在の捜索・差押えという処分の中に引きつけて置くとすれば,置き方としてはこういう置き方にならざるを得ないのではないか。しかしこういう置き方にしたとしても,先ほど来議論がありますように,最少限度で処分をする,比例的に処分をするということは,これは一般原則として当然認められなければならないことであるはずです。ただし,実際の運用の問題としては,物を持っていくのが原則で,複写して持ってくるのは例外的だというようなことに必ずしもなるのかというと,いろいろ御指摘があったところのとおりだろうと思います。

それから,最小限の処分でやれということをこの中に書くという御提案がございますけれども,ここの部分にだけ書くと,ほかのところはどうなるのかというような問題も恐らく出てくるのだろうと思いますので,それはやはり一般原則として認められているところで十分なのではないかという感じがいたします。

●ただいまの点で,御議論をもう少しいただければと思いますが。

●私も,今の○○幹事の意見と同じでありまして,従前の解釈としてこういう電磁的記録をどういう形で証拠にするかということが問題になってきましたけれども,そのときに,可動性のあるものというのは差押えで行って,それから可動性のないもの,例えば大型コンピュータで移動ができない,その中のハードに記録されているというものについては検証で行うということになっていたのだと思うのですが,ただこの検証のやり方というのも具体的な証拠を見つけて,つまり被疑事実に対応する証拠を見つけてということになると,そんなに簡単にはできないということから,むしろ検証の結果を何かの形でプリントアウトして持ってくるという方向にあったのではないか,それが恐らく今の運用につながってきている。言ってみればこの第三というのは,その運用を反映したもの,つまり法的根拠を与えようとしたものというように読むことができる。そうだとすると,これはこういう書き方というのがむしろ必要に応じて出てきて,それを法案化しようということで,このやり方がいいと。

それからもう一つは,これは強制処分ということでありますから,これも今まで何度も出てきておりますけれども,被処分者の負担を最小限にとどめるというのは一般原則として当然のことであって,むしろここで特別に書かなければいけないということになると,突出したものが刑事訴訟法の中に出てきてしまうということになる。その意味で,これを規定する必要はないというふうに考えております。

●大分重複することになると思いますけれども,私はこれは対象者の負担を最小限にとどめる方法で行われなければならないということと,それから捜査を迅速かつ効果的に行うという要請がありますので,その間で最も適切な方法をとり得るということを規定しているのだろうと理解しています。その場合に,もちろん前者の原則というのは一般に通じる原則でありますから,これは当然に守られなければならないし,他方では書くまでもないだろうと思っております。

そうであるにもかかわらず,一方を原則である,そうでないのが例外である,あるいは順位をつけて一部の複写が第一順位で,全部持ってくるのが最後の手段だというふうにすると,つまり,そのような方法をとるべきだという形で規定するということになると,かえって硬直的になって,場合によっては差押えが不十分になったり,つまり,原則どおりやるのだからこれでよろしいということで,差押えが不十分になったり,あるいは場合によっては第一順位をやらなければ第二順位に行けないのだということで,かえって対象者のプライバシーをより侵害するということも考えられないわけではないと思いますので,そういう意味では原案のような規定の仕方の方がいいのではないかと。

それから,付け加えますと,令状に条件を付けるべきだということがございましたが,これも先ほどの○○委員の意見にもありましたが,付けられる場合もあるし付けられない場合もあるだろうと思います。付けられる場合にはもちろん付けられたらいいだろうと思いますが,そうでない場合もあるだろうと思います。

●いろいろと貴重な御意見を拝聴いたしましたが,選択肢として提案されたものは三つあると思います。

一つは,裁判官が令状をお出しになるときに,個別の事件について適切な条件を付すという考え方ですが,これは今日一番最初に論点メモについての事務当局の御説明の中で,このようなことについては恐らく捜査の実際に照らして適切ではないという御趣旨の判断があったと思いますが,したがってこの第1の選択肢は一応括弧に入れてよかろうと思います。

第2は,原案のとおり捜査機関のその場における適切な判断に委ねる,若干の裁量を認める,裁量を著しく逸脱したときは,その他の救済があり得るであろうというのが2番目。

3番目は,先ほどから○○委員,○○委員などが御提案になっている原則・例外の関係を少しはっきりさせたらどうかということでありますが,引き続いた御議論を伺いますと,はっきりした原則・例外というのはやはり少し無理で,あり得るとすれば一種の訓示規定のようなものを含めるかということになろうかと思います。訓示規定の例は,現行刑事訴訟法に絶無ではありませんが,しかしやはり相当異例のものではあるので,すんなりと入るかどうかについてはなお疑問もありますけれども,大体以上のような整理ができるのではないかという気がいたします。

●いかがでしょうか,今,○○関係官から整理をしていただいたわけでございますけれども。

この第三につきましては,先ほど五つの論点をお出しいただいたわけでありますが,共通する議論のようでございます。

●ほかの出ていなかった議論の中に,押収の後に関連性のある電磁的記録か否かを裁判官が判断する制度の要否という,その論点なんですけれども,これについては私がお願いをしたところもありますので,ちょっとこれは再度御検討をお願いしたいというふうに思います。

もちろん,このような制度がこの諮問の条文案の範囲を内容的に超えている,明示された部分から超えているということも承知しておりますし,例えばこれを議論するときに,法務省だけでなくて,もしやるとすれば最高裁とも議論しなければならないようになるであろうということも承知しておりますし,それからやり方によっては現行刑訴法の中の枠組みを相当に変更することになるということも承知した上でのあえてのお願いでございます。

というのは,今までの物の差押えについては,本来情報を持ってくる場合,つまり物の形状とか存在自体は問題にしないで,情報だけを持ってくる場合でも,これはやはり必要性があれば仕方がないということで,これはみんな甘受していたわけですね。それは,物と情報を分離することができなかったから。しかし,今回の規定については,物と情報自体を分離することができるようになりましたと,そのもとでどうしましょうかということで第三,第四が出てきて,それで比例原則からなるべく負担の軽い方法でやれる場合はやろうよということで,今回の御提案が出ていると思うのです。それは評価に値することだと思うのですが,今度は逆に,新しく出てきた問題点として,例の令状の執行段階の−−令状の内容は特定されているとして,執行に警察官が行きましたと,その段階でどこを令状の趣旨に合わせて特定していいのか,執行段階の特定性をどういうふうに確保するのかということで問題が出てくる。

例えば物については,持っていかれるものは多くは目で見れば分かる。電子的データの場合は,恐らくこれはデュプリケーターでそのものを映像としてほかのハードディスクなり媒体にばっと移してしまう。何を選んでなんていうのは,恐らく東京地裁で準抗告を認めたフロッピーのケース,このフロッピーは要らない,こっちは要る,その辺が判断できるようなもので,恐らくフロッピーは余り使われなくなるのでしょうから,ギガとかテラバイト級のハードディスクをこっちのハードディスクに持っていってこちらに複写して持ってくる,そういう形態が多くなるのだと思うのですね。そうすると,裁判官の判断としては概念的にこういう内容,こういう内容で特定の物を持ってこいという判断をしましたと。現場に行ったら,もう何が入っているか分からない,それでとにかく全部移して持っていきましょうと,協力を得て。そうなると思う。そうすると,特定性を今度は弁護士としても争わなければならないし,それから捜査機関,特に警察がその相手をしなければならなくなる。裁判官はやたらに出てくる準抗告の相手をしなければならない。

刑訴法については,はっきり言うと私の考え方は捜査機関とか一番最終の執行機関に負担をなるべく与えないような形で,あるいは弁護士にもそうなんですけれども,なるべく与えないように枠組みなり限界をきちんと定めてあげる必要があると思うのです。裁判官がちゃんとやるだろうとか,警察官の裁量に任せて,逸脱した場合は警察官が責任を負えと,これじゃ警察官はかわいそうなので,むしろここまでは胸を張ってどんどんできますよというシステムを作ってあげる必要があるのだろうと思います。

そういう,今みたいに特定性の問題については,今回の法改正では結局残された課題となっているわけですね。

そこで,執行段階についてはまとまったものを引き抜いてもいいのだけれども,それを裁判官のイメージしたものと照合させて,その部分だけ捜査機関に持って帰れるという方策が必要ではないかと。それで,条文としては,それは一つの素人のアイデアですけれども,準抗告の申立てを特定性に関するものとして擬制するという考え方もできますよねというぐらいのアイデアはありますけれども,技術的にはちょっとまだ私の方として具体的なものを整理できるまでになっていない。ただそうした工夫をしてほしい。

もう一つ,それには理由があります。先ほどの○○委員と○○委員ほかの準抗告の問題です。これは,法律面と事実面が二つあります。複写をして情報を持ってきてしまう,そうすると彼らには財産損害は全くありません。準抗告で取り戻すといっても,要するにデータを取り戻すだけの話なんですね。これが本当に準抗告になじむのかという問題が一つあります。御議論があると思います。

それからもう一つは,実際の問題として,弁護士として一番困るというか,あるいは捜査機関として一番やりたいというか,そういう一番捜査の現場で問題になるのは,どっと情報を全部持っていくわけですよ,それは複写をして持っていて,捜査に−−公判には使いません,ですから判決例にはもちろん出てこない。だけど,その情報を使って捜査ができるわけですね。それを捜査情報として蓄積していくと。弁護士の方は何が問題かというと,それをされてしまえば幾ら持っていった物を全部返してもらったってほとんど意味がない。つまり,具体的に捜査官とのやりとりをする中で,例えば防御ができなくなる。そういう意味からすると,やはりどっと持っていくのはいいのだけれども,それを適正な範囲で捜査機関にだけ渡すという工夫が必要だろうというふうに思うわけです。これは実務的な問題です。

いずれにしても,そうした点があるので,こうした制度を検討いただきたいというのを再度お願いしたいと思います。

●それは,外国などでアイデアとして出されていることをヒントにされたのだと思うのですが,そういう制度を設けるのは,いろいろな意味で私は適切でないと思っております。

まず,現在でも,証拠書類などを大量に持ってくることはあるわけですが,その場合,当然関連性があるという判断をしているはずなので,それをしないでどんどん持ってくるのが許されているということではないと思うのです。それと同じ意味で,こういうデータについても当然許されているという前提でものを考えるのは,やはり間違っているのではないかと思います。

最高裁の判例に一定の条件のもとでそういうことを認めたものがありますけれども,それはあくまで特別の事情のある場合に限ってのことであるわけで,当然持ってこれるということを前提にして立論されるのはどうかということと,もう一つは,現場で捜査官が判断する負担はそれでなくなるかもしれませんが,結局,その判断を裁判官にやらせるということになるだけで,それが果たして適切なのかどうか,また現実的なのかどうかということだと思うのですね。

例えば,アメリカなどでは,非常にセンシティヴな資料の場合,例えば弁護士事務所にある情報の場合などは押収拒否特権の対象になりますので,それを捜査機関が捜索の一環として見てしまえば情報の中身が知られてしまい,押収してはいけないものであったとしても,その禁止の意味はなくなってしまいますので,そういう場合には差押えだけさせて,中身はまず第三者にチェックさせようと,そういう運用とかアイデアがあるのですけれども,それも極めて特殊例外的な場合に限った話で,一般的に電子情報等についてそういう制度を介在させるということではないのです。それは,やはり,現実性の問題と,前提としての考え方に無理があるからではないかと思います。

●いろいろな議論が出てまいりましたが,結局は,令状でどの程度特定するか,あるいは執行の段階でどの範囲で裁量を認めるかという問題でありまして,上から4番目まで共通した議論のようでございます。そこで第四の方に移らせていただきまして,もし必要であれば次回にでも補足をするということにさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

では,第四の点につきましていかがでしょうか。これは,前回の○○関係官の御提言に基づいた修正をしてもらっているわけでございますが,その点も含めまして御意見を賜ればと思います。

●第三以下,手続法の部分というのは,条約の批准との関係を抜きにしても,大筋においてこのような立法的手当は当然に必要だろうということで,全体的に特に異論があるわけではありません。

ただ,要綱の第三と第四の関係なんですが,あるいは第三と第四の実務的な使い分けなんですけれども,事務当局の方でこれまで御説明になったところでおおよそのところは把握できていると思うのですが,こちらが理解しているのは,まず第1点として,電磁的記録の移転の必要性が見込まれる場合は第四の方法にはよれないということ。

それから,第2点として,電磁的記録がどの記録媒体にどのように保管されて使用されていたかを証拠化する必要がある場合には,第四の方法では目的を達することができない。通常の差押許可状によって,第三の執行方法をとった場合には,その経過を捜索・差押え調書に記載することによって,その点の証拠化を図ると。

それから,第3点としては,被差押者,差押えを受ける側の者が協力的で信用できるというふうに判断できる場合にしか第四の方法はとることができない。

こういった使い分けになるのかというふうに理解しておるのですが,この第三と第四の関係について,このような理解でいいのかも含めて,まとめて御説明いただければ有り難いのですが。

●第三と第四の使い分けといいますか,それにつきましては,第四を使えない場合といいますか,第三を使わなければならない場合としましては,今,○○委員から御指摘のあった三つの類型になるのだろうと考えております。

ただ,二つ目におっしゃられた,どの記録媒体にどのように記録されているかを証拠化しなければならないという場合に加えまして,削除痕跡も調べなければならないような場合も第2の場合の類型としてあり得るだろうと考えております。

●確認ですけれども。第四の「記録させ」の記録の中身には,今のお話ですと移転の場合は含まれないというやりとりだったと思いますけれども,そういうことでしょうか。「記録させ」の中には,複写も移転も両方含まれると理解しておったのですが,そうではないのですか。確認のために。

●第四の方につきましては,移転ということは想定しておりません。仮に移転の行為を入れたところで,捜査機関が関与する行為ではございませんので,捜査機関の方で確認のしようがありませんから,そういう制度をつくる実効性がないというようなことから,第四の処分については移転というのは想定をしていません。

●この「記録させ」という言葉の意味としては,「複写させ」と同義であると。印刷は別に使ってありますけれども。

●第三の処分につきましては「複写」を使って,第四については「記録」を使っておりますのは,もとのといいますか,オリジナルの電磁的記録をそのまま写すのが複写で,例えば複数のコンピュータデータから一つのデータを作って出してもらいたいというような場合も含めるという意味で「記録」というふうにしておりまして,複写に限られるものではございません。

●記録命令付き差押えを受けた側が,あえて複写を選ばずに自ら移転をさせてしまってやる行為自体は否定されないという理解でよろしいのでしょうか。

●それは,命じられた人が勝手にやったというだけの評価になるのだと思っております。

●移転というやり方でやるのが一番便利だったので,たまたま移転したということを否定するものではないということでよろしいか。

先ほどの移転を含まないというのは,移転を命ずることができないという意味と理解してよろしいか。

●移転の場合というのは,結局複写行為と消去行為を行っているはずでありまして,消去行為は相手方が勝手にやってしまったというだけの評価になるのだと思っております。

●ほかにいかがでしょうか。

●この第四の令状を捜査機関が請求されるときは,この事件は第四でいけるという判断でおやりになることが通常だとは思いますけれども,念のためといいますか,普通の差押許可状と第四の令状とを同時請求するということもあり得るのでしょうか。お尋ねしておきたいと思います。

●理論的にはあり得ることなのかもしれませんが,今,○○関係官がおっしゃいましたように,第四の令状の請求は,相手方が信頼できる人で協力するであろうという前提でやりますので,同時請求は現実にはないであろうと。

更に言いますと,記録命令付き差押えは,現在でも行われている,フロッピーに記録しておいてもらって,そのフロッピーについて差押令状を出してもらって差し押さえるという実務に沿うような手続でありますが,それと同じで,現実のやり方としましては,事前にプロバイダ等と相談といいますか,打合せをしてやることになろうかと思っておりまして,その意味でも,第四の令状を請求するときに第三まで必要になるという事態は起こり得ないのではないかというふうに考えております。

●根本的なもので,また蒸し返して申し訳ないのですが,○○関係官がおっしゃった「記録命令付き差押え」という言葉が,私はなかなかなじめないなと。

やはり記録命令なのではないかという感じがありまして,記録命令がついた差押えというのもちょっと……。日本語だと記録命令が付録みたいに聞こえるものですから。差押えなんだけれども付録に記録命令が付いているようで,「記録命令付き差押え」と言うと何かそんな気がして。記録命令というのはもう少し重いのではないかと。重さの感覚なんですけれどもね。だから,そこはもう一度事務当局に……。

私はこれ自体に反対しているわけではないのだけれども,問題点は第三と同じ問題点だけだから,こういうシステムを作ること自体には反対していないのですけれども,言葉をもう一回練っていただけないかと。申し訳ないですけれども,宿題でよろしくお願いいたします。

●何か案はございませんか。

●いいえ。

●それでは,ただいまの点は事務当局に御検討をいただくということにさせていただきます。

それでは,大体基本的なことは御議論いただけだと思っております。

この後,次回以降の審議についてお決めいただきたいと思いますが,次回は7月23日水曜日,午後1時30分から,法務省第1会議室におきまして審議を行いますが,内容といたしましては,今日に引き続きまして要綱(骨子)の第五から第八までの部分につきまして,まとめに向けた議論をちょうだいしたいと考えております。

事務当局におかれましては,これまでの議論を踏まえまして,新たに提出すべき資料等がある場合には提出していただきたいと存じます。また,この間,御意見がございましたら,どうぞ事務当局の方に御連絡を賜りたいと存じます。

それでは,今日は長時間熱心な御議論をいただきまして大変ありがとうございました。これで閉じさせていただきます。