法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第5回会議 議事録(転載)

転載者補足

以下は、法務省の許諾を得て、法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の議事録をHTML形式に変換して全文転載するものである。法務省は(平成18年までのものについては)審議会議事録を「.exe」「.lzh」形式で公開しているため、通常のWeb検索でこれらの議事録がヒットしない状態にある。このままでは、国民がハイテク犯罪に対処するための刑事法について正しい理解を得る機会を損失し続けてしまうと考え、ここにHTML形式で転載するものである。転載元および他の回の議事録は以下の通りである。

転載元: http://www.moj.go.jp/SHINGI/030623-1.html

議事録一覧:

転載

法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第5回会議 議事録

第1 日時 平成15年6月23日(月) 自 午後1時00分 至 午後3時20分
第2 場所 法務省第1会議室
第3 議題 ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備について
第4 議事 (次のとおり)

議事

●予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の第5回会議を開催いたします。

●御多用中,御出席くださいまして誠にありがとうございます。

それでは,早速審議に入りたいと思います。

前回も申しましたが,特に進行についての御意見等がございませんでしたら,今回は要綱(骨子)の手続法部分のうち,第六ないし第八につきまして,第六,第七,第八と順次具体的に議論を進めてまいりたいと思います。この要領で,本日をもちまして要綱(骨子)を一巡することになるようにと思っております。

このような進行でよろしゅうございましょうか。

特に御異論もございませんので,このような進行で御議論をお願いしたいと思います。

それでは,早速でございますが,要綱(骨子)第六に関しまして議論したいと思います。どなたでも結構でございますから,自由に御発言いただきたいと存じます。

●第六の一,二に共通することですが,「電子計算機の操作その他の必要な協力」ということを言われているわけですが,この「電子計算機の操作」という例示だけですと,「その他の必要な協力」という全体像がなかなか見渡せないと思われます。協力する側から考えますと,この範囲が明確でないとなかなか応じがたいというふうになると思いますので,どのようなものを具体的に想定しているかというところをお願いしたい。その程度によっては,協力する側の負担といいますか,それもかなり大きくなるのではないかと思われますので,その点,お願いしたいと思います。

●どのような協力を求めることになるのかという具体的な内容ということでございますが,まず抽象的に申し上げますと,電磁的記録に係る記録媒体の捜索・差押えの目的を達成するのに必要な協力ということになろうかと思います。具体的に申し上げますと,例示しております「電子計算機の操作」を行うことのほかに,差し押さえるべき記録媒体や複写すべき電磁的記録が記録されているファイルがどれかという指示をしてもらうこと,それから,コンピュータシステムの構成ですとか,システムを構成する個々の電子計算機の役割だとか機能,あるいは操作方法の説明をしてもらうことなどが該当することになると考えております。

協力をすることが負担になることはないのかという御質問もございましたが,もちろん,この協力要請は,要請を受けた相手方に協力を義務づけるものではありますけれども,不可能を強いるものでないのは当然のことでありまして,正当な理由がある場合,例えば被処分者が有する知識や技術に照らして可能な範囲を超えた協力を求められた場合とか,その協力をすることが相手方の事業等に大きな支障を生ずるような場合など,このような場合は,正当な理由がある場合として協力を拒むことができると,こういうことになると考えております。

●いかがでしょうか。ただいまの点につきまして,御意見ございましたらお願いをいたします。

●実際の場面を考えてみますと,今いろいろ言われたような協力を求められて,その業者にとって過重な負担になるというような判断をする場合に,ただ断ればいいというふうになるのか,それとも現場でかなりきつくその理由を言ってほしいというふうになるというのとでは大分違ってくると思うのですが,その辺の運用といいますか,そういったものはどのように考えておられるのでしょうか。

●捜査機関としましては,必要と認められる範囲,それはおのずと明らかだと思いますが,その範囲ではなるべく協力していただくようにお願いをすると努めることになろうかと思いますが,無理に圧力的にこうしろと要求するようなことには当然ならないと考えております。

●協力の要請の事実ですけれども,例えば協力の要請を書面によって行うという方法は考えられないものかということですけれども,御検討いただいているのでしょうか。

というのは,この条文には二つの役割があると思いまして,捜索についてなるべく平穏に,かつ迅速に目的を達するという捜査側の目的,それから被差押処分者側にもやはり便利であるというメリットと同時に,被処分者側が民事免責なり他の契約者との関係で法律関係上トラブルに巻き込まれないようにするということもあろうかと思うのですね。その場合には,例えばこういう要請があって,こういうふうに要請に応じたのだということが言えると,なおさらよいという面がありますので,例えば要請を書面によって行うという工夫は,あるいは求めることができるとか,そういうような方法が考えられないかということなのですけれども,いかがでしょうか。

●今,御指摘のように,この協力要請は協力に応じたことによって相手方が民事上の責任を負わないという効果をもたらすという意味でも必要な規定と考えております。ただ,捜索・差押えの対象がどういうシステムであるのかとか,捜索・差押えの現場における個別の事情に応じて,どういう協力を求めることになるのかというのは変わってこようかと思いますので,あらかじめ書面を用意して協力を求めるというのは,少なくとも,協力要請の内容を書面で網羅するというのは,現実的に困難だと思っております。

●そうであれば,方法としては二つあって,典型的に要請すべき事柄,例えば今御説明いただいたような事柄をその場でチェックして渡す,あるいは簡略な付記の例を充実するなども考えられますし,また,協力要請をして,それにこたえた事柄について,事後的にその書面を渡す,協力を得た後それを捜査機関が渡すということが考えられると,協力する側はしやすくなるというふうに思います。

また,この規定があったからといって必ず民事免責が保障されるわけではないので,本当のことを言えば民事免責規定を別なところで設ける工夫が,ほかの法制との関係では,あってもいいのじゃないかと思いますが,ここの議論とはちょっと違うので差し控えますけれども,協力要請があって,その内容がこれで,これにこたえたという痕跡が残るような手続を工夫していただけると目的を達しやすいというふうに思います。

●いかがでしょうか。初めの方の○○委員の御指摘は,協力の範囲についてでございました。それから,○○幹事の御意見は,要請の方式といいますか,要請を書面で行えないかという御意見でございましたが。

●今の○○幹事のご発言の一番最後の部分ですけれども,民事上の責任が免除されるということには当然ならないという御趣旨のようでしたが,どうしてなのでしょうか。捜査機関の方は令状を得て,適法,適式に処分を行っており,それに必要な範囲で通信事業者等に協力を求めるわけで,しかもそれは法的な義務づけを伴うということであれば,それに応じて行った通信事業者等の行為は当然違法性が阻却されるのではないかと思うのですけれども,それでは単純過ぎるのでしょうか。

●この協力規定は,「求めることができる」という形で規定されておりまして,197条の捜査事項照会に応じた場合と同じように考えられるのではないかと。

そうすると,197条による回答と,民事免責については,今のところ,これは私の理解なんですけれども,民事上の免責が確実に得られるというところまでは行っていない。もちろん,それは,197条による照会が適正に行われていて,適正に答えた場合,例えば銀行照会なんかがあった場合に,不特定の照会があったものに答えた場合は当然免責が受けられない。それから,特定された,許容される限度での照会があって,それに答えた場合についても,これについて民事免責を明らかにしていく規定はない。判決例はたしかなかったと思うのです。そうすると,実務上,本当にこれに答えていいのかと,適法なのは分かっている,でもこれに答えていいのかという照会例などは,私のところなどでもやはり幾つか受けて,私も一生懸命調べても分からないという形になっている。だから,この規定について確定的に民事免責が得られるなら,私は非常にすばらしいというか,本来はそういうふうにあってほしいと思うのですけれども,民事訴訟との関係で,これに応じた場合に確定的に民事免責が得られるというところまで行くのかどうかというのは,197条の例とパラレルに考えると,ちょっと私としてはまだそこまでの確証が持てない。

ですから,例えば国会答弁とか質問の中で,むしろこの趣旨がそうした確定的な免責を得させる趣旨なのだということが明らかにされていくことがあれば非常に望ましいと思うのですけれども。

私が申し上げた趣旨はそのような限度での勉強を前提にしてのもので,是非教えていただければと思います。

●今の点だけ追加して申し上げますと,197条の場合とは前提が違っていて,今検討しているのは強制処分の場合なのです。ですから,例えば,人の住居に行って,居住者ではなく大家さんにマスターキーでドアを開けてもらうという場合に,大家さんは,そういうことがなければ当然にはマスターキーでドアを開ける権限はないかもしれないけれども,強制処分に伴う必要な処分として捜査機関から協力を求めて開けてもらうことはできる。そういった場合にかなり似ているのではないでしょうか。基本的に強制処分自体の効力として通信の秘密を破ることが許されている場合であり,それに協力を求めて,協力する義務を負わせるという形で,むしろその地位を強化しているというふうに言える。そのように私などは見ているのですけれども。

●197条の関係でも,京都市役所か何かの分の最高裁判決だと思いますけれども,その射程もどこまで及んでいるのかという点で若干疑義があります。それから,もう一つの点は,協力の内容を書面化して渡すというお話がありましたけれども,書面化すると,書面化されてない協力が仮にあったとすると,それに対する責任の話が出てきます。書面化するということになると相当膨大な作業にもなるし,書面から漏れることもあり得るので,要は証明の問題だと思いますから,むしろ書面化しない方が協力した人に有利になるのじゃないかという気がしますけれども。

●ただいまのは免責の問題でございますけれども。いかがでしょうか,ほかに。

●免責については,○○委員がおっしゃられるとおり,確かに全くフリーな段階での任意の協力を求める場合と前提が違うということは理解いたしました。

あと,書面の問題については,少なくとも民間の側からすると,これを事後的にでも出していただけると有り難い。

それで,今の○○委員からの御指摘ですが,例えばそれは方法の工夫にもよるのじゃないかと。例えば,よくある例としては,証明を要する事項については証明を求める側が書いて出すと,こういう依頼を受けました,それについてそういう依頼をしたことを証明するということで,捜査機関側から事後に認証文をもらうという方法も考えられるのではないかというふうに思いますし,その辺はやりようではないかと思います。

●それでは,まず協力の範囲でございますけれども,これは,恐らく,必要性あるいは正当性という範囲で決まるものだと思いますけれども,これが一つの論点。

それから,要請の形式について,書面によるかどうかということで双方の御意見がございました。

それと関連して民事免責の範囲の問題でございますけれども,これは一応整理できると思いますので,話題を少し進めていただきたいと思いますが,いかがでしょうか。

●今の整理いただきました最初の方の協力の範囲の問題で,一言御質問させていただきたいのですが。

先ほどの説明によりますと,捜索・差押えに必要な範囲で協力を求めるという御説明でありましたが,その話と,第六の二項の検証の方との区別をお聞きしたいわけですけれども。

捜索・差押えに必要な範囲でいろいろな協力を要請できるというその問題と,検証令状で一項と同様の協力を求めるという場合に,何か違いが出てくるのか。操作というか,機械を扱う詳細について承知していませんので,詳しいことは分からないのですが,一項の方の協力要請の範囲と二項の方の協力要請の範囲で何か違いが生ずる場面があるのかどうか,もしあればお教えいただければと思いますが。

●抽象的に言いますと,捜索・差押えの目的を達成するのに必要な協力と,検証の目的を達成するのに必要な協力ということになりますが,検証の場合,例えばコンピュータシステムの稼働状況を明らかにするという検証の場合にも,やはりコンピュータシステムの構成の説明を受けるとか,操作方法の説明を受けるとか,そういうところでは共通するのだと思われます。その意味で,そんなに大差はないと思いますし,関連性のあるデータがどこのハードディスクに入っているのかというような指示についても,検証の場合も同じことになろうかと思いますので,結局,内容的にはそんなに大差はないかと思います。

●非常に抽象的な質問で恐縮なんですけれども,検証の場合には恐らく検証事項というのは非常に特定されているのだろうと思うのですけれども,少なくとも捜索・差押令状で協力をお願いする場面と比べた場合には,捜索に類するような行為が一項の場合はあり得ると思うのですけれども,二項の場合にはそれはもうある程度特定されておりますので,協力要請の範囲内もおのずと限定されてくるというような受け取り方をしていますが,そんなような理解でよろしいでしょうか。

●そういう御趣旨であれば,例えば,コンピュータシステムの稼働状況を明らかにするという検証であれば,どのデータとかいうことは問題にならないので,そういう意味では差押えの場面とは違うと。検証の場合にはそういうことは問題にならないという場合もあろうかと思います。

●よろしいでしょうか。

それでは,ほかに,先ほどの3点でも結構でございますし,あるいは一歩話を進めていただいても結構でございます。

●まだ出ていない論点なんですが,第三者領域の捜索への協力の場合に,個別財産補償との関係はどうなるのだろうか。もちろん,現行の第三者領域の捜索・差押えで必要な処分として協力を行わせる場合に,特段の財産補償は行われていないことは承知した上でのことなのですが,新しい制度ということもありますし,それから今後特にサイバー犯罪については官民の協力ということも背景にあると,この条文もそういうことからも出てきているし,そうすると,例えば大規模システムなんかの捜索に,特に第三者領域に行ったときに,そこの会社の担当者でははっきりと分からない,依頼している業者を呼んできて説明させるのを準備すると。会社もそれはやりたいと。でも金がかかるという場合,やはりそれについてはそのことを想定して何か特段の財産補償規定を検討するというわけにはいかないのだろうかということを考えるわけです。

●基本的には,この協力要請の場合も,先ほども申し上げましたように,可能な範囲での協力が義務づけられるだけであって,事業に支障を生ずるような場合は正当な理由がある場合として協力に応じる必要はないという前提でございますので,通常,不当なといいますか,そういう大きな経済的負担を生ずることにはならないというふうに考えておりまして,したがいまして,何らかの費用がかかるということもあるのかもしれませんが,過大な負担にはならないということで,その分につきましては被要請者において御負担をいただける,御協力をいただけると,そういうことになろうかと考えております。

●私としては,断るか断らないかというところをお金の問題で処理ができるのであれば,むしろそれは積極的に手当てをすることによって,協力したいという者については誘導してあげると。

それから,憲法論上の問題としても,やはり特定の第三者に負担をかけるわけですから,それについてはどんどん払うべきものは払って,それで協力を得たという捜査の段階での例が蓄積されていくということが望ましいのじゃないかと思っているのですけれども,御検討ください。

●御意見として承っておきます。

ほかにいかがでしょうか。

これで第六につきましては,論点は尽きましたですかね。

●先ほどの○○幹事の御提案との関係でございますけれども,あくまでも,第六の協力要請の相手方と申しますのは,差押状,捜索状の執行を受ける者,強制執行を受ける者ということでございますし,なおかつ,この令状に基づきまして捜査機関等が強制処分をなし得る状況下での協力要請であり,その枠組みの中での御負担という話でございます。もともと協力ということにつきましても十分に御説明した上で納得していただいて御協力いただくという全体の枠組みではございますし,御納得されなかったときにどうなるのかということになりますと,これはもともとが強制処分としてなし得る捜索・差押えなどでございますので,それに従って実施せざるを得なくなってくるということになろうかと思われます。

●そのような理解でよいというふうになりますでしょうか。

ほかにいかがでしょうか。

特になければ,また戻って御議論いただきますけれども,一応第七の方に移らせていただいてよろしゅうございましょうか。

それでは,第七の方に移らせていただきます。御自由に御発言をいただきたいと思います。

●質問ですけれども,この会議でニフティの担当者の方に来ていただいて,プレゼンテーションを受けた際に,業界サイドからの要望ということで,こういう保全の要請を受けた場合にはできる限りそれに近接した時期に令状請求してほしいと,保全だけしておいて令状請求しないというようなことは避けてほしいと。

あと,90日というのは非常に長期過ぎて,令状請求のための予備的期間としては長過ぎるのではないかというような御意見があったかと思うのですけれども,私もなかなかもっともな御意見だなというふうに思ったのですけれども,何か御検討されたのでしょうか。

●保全要請につきましては,これは制度の目的といいますか,趣旨からいたしますと,対象となります通信履歴の電磁的記録の記録媒体の差押え等を行う前提といいますか,それを目的として行うものでありますので,捜査機関としましては,保全要請を行ったときはもちろん,捜査を遂げて必要な資料を収集して,可及的速やかに差押えに移行する,差押えの実施をするということになります。そういう実態になると考えておりますし,他方で,保全要請は差押許可状を請求するための資料が整っていない,そういう段階で行われるものでありますので,保全要請の後,直ちに差押許可状の請求をしなければならないというのは現実問題として不可能であり,それは適当ではないというふうに考えております。

それから,90日が長過ぎるのではないかという御意見が確かにニフティの方からございましたが,これにつきましては,一つは条約が90日の期間を認めているということがございます。それと,実際に,現在,任意で保全要請といいますか,そういうことが行われております。その中で,捜査機関は,プロバイダーが保管している例えばログの電磁的記録の記録媒体の差押えを行うに際しまして,事前にプロバイダーに連絡をいたしまして,必要な電磁的記録の抽出を依頼する,それから差押え実施の日程調整を行った上で差押えを実施する,令状をとって差押えを実施するということをやっておりますが,大手プロバイダーの場合ですと,プロバイダーの方の都合によりまして,先ほど言いました事前の連絡から差押えの実施までに2か月程度を要することもあると聞いております。したがいまして,この保全要請の上限といたしましては,90日程度にする必要があろうかというふうに考えております。

ただ,先ほども申し上げたことと同じになりますが,この90日というのはあくまでも保全要請の期間の上限でございまして,個々の保全要請を実施するに当たりましては,捜査機関としては,もとより,必要な期間を定める,別にいつも90日になるというわけではありませんで,事案に応じて必要な期間を定めることになりますし,また,捜査を尽くして,捜索・差押許可状を請求できる資料が整って捜索・差押えを実施できることになれば,定めた期間内までずっと待っているということではなくて,直ちに差押えを実施することになりますので,現実にそう長くなるという,そういう運用になるとは考えていないということでございます。

●この第七は,条約の16条に関連しているのですかね。そうしますと,条約の16条2項では,必要な期間というのは「90日を限度とする」というふうになっているのですが,これは最大限90日とするという義務づけではないですね。ですから,その国の事情に応じて更に短くすることができるというふうに思われるのですが,そうなると,日本のいろいろなコンピュータ関連事業者の中では,この90日というのはかなり重荷であるという指摘があるようですね。ニフティだけでなくて,ほかのところからもそういうことが出てきている。特に,後で問題になるかと思いますが,通信履歴というものの範囲が何かということ,それから業者ではそういうログをいろいろとっているとしても,範囲は様々で,業者によって全く違っているということと,保存する業者と保存しない業者という具合にいろいろ分かれているということもあって,業者全体では90日というのはかなり重いというふうに感じておられるようですし,すべて機械的に保全するということは非常に難しくて,手作業も必要だというようなことも言われているわけですから,条約が90日だからとにかく90日で,実際はもっと短いでしょうというのは,少し乱暴ではないか。やはり日本の業界の実情をどのように見ていくかというのが一つ大事な点だというふうに思うのですが,私はもっと短く,業界の要望とすり合わせた日にちを設定したらいかがかと考えております。

●事業者の方の負担ということには当然配慮しなければならないと思うのですが,同時に,国際的な観点から,捜査共助依頼が来る場合に,正式の手続をとってデータ等を差し押さえたりするまでには,かなりの期間を要するわけです。その間,データが消失してはいけないので,とにかくそれを残しておいてもらうという必要は非常に強いわけで,そういうことをも考えますと,期間としては,リミットという意味ですけれども,90日くらいあった方が,法制度としてはいいような感じがします。

外国でも,例えばアメリカはたしか保存要請による保存期間は90日だったと思いますけれども,そういう例もあるわけで,捜査の実情や,いろいろな状況を考えると,ある程度の幅をとっておかないと対応できないように思うのですけれども。

●いかがでしょうか。条約の方は「90日を限度とする」と,こちらの方は「90日を超えない期間」ということで,余り変わらないと思うのですけれども。その範囲で,実情に応じて1か月の場合も3か月の場合もあるということでございましょうから,余りこだわる問題ではないなと感じたのですけれども,いかがでしょうか。

●確かに,実際の運用でもっと短くというのはあると思いますけれども,アメリカが90日というのは私どもも聞いておるのですが,ほかの国の状況はいかがなんですか。私なんか,アメリカが90日というのは知っているのですが,ほかがどうかというのが分からないので,一概にこれでは長過ぎるという議論をしてはいるわけですけれども,具体的に,今,捜査共助の話も出ましたけれども,確かにいろいろ外国の動向が必要だと思いますので,その点教えていただきたいと思います。

●アメリカは,先ほどから話が出ておりますが,イギリスにつきましては,大本の根拠法令はございますが,まだこれに基づく業務規範が定まっていないようでございます。

それから,フランスにつきましては,刑事訴訟法の60条,77条の1でございますが,「技術的又は科学的な確認又は検査を必要とするときは,捜査機関は,資格ある者すべてに協力を求めることができる」ということで,限定もなく,この規定でできると考えられているようでございます。

●勾留のときみたいに2段階に分けて,中に裁判官の審査を入れるとか,そうしたことが工夫されてもいいのかなと思いますけれども。

条文で,欧州の人権条約,それから比例原則については条約でかなり強く明定しているところもありますので,新しい法制ですので,少し工夫をしたところを見せるというのも必要じゃないかと思うのですけれども。

●今の御意見につきまして考えるべきファクターとして申し上げますと,今回提案されておる保全要請といいますのは,要請に従わなかったことで,それ自体を処罰するとか,強制する仕組みというのがありません。一部の外国のように保全命令に従わなかったことに対して直ちに罰則を課するというふうな仕組みになっていないところからいたしまして,これ自体,強制処分である勾留とは異質なものというふうに考えた方がいいのではないかと思われます。

●期間の話なんですが,実務的な立場から申し上げますと,先ほど御紹介もありましたとおり,プロバイダーとの関係では2か月程度かかった事案もございますし,これも,これまでの話であって,これから果たしてどういうケースでどれだけのものが予想できるかといえば,本当に90日で大丈夫なのかという観点から見た場合に,疑問もないわけではないわけです。例えば,いろいろなプロバイダーがつながったような事案の中で,一連として考えられるのだろうと思いながらも,最初のプロバイダーの証拠をきちんと押さえないと次の令状まではなかなか出ないだろうというような事案がもしあった場合に,果たしてどういうことになっていくのだろうかと。そういう意味では,90日と考えながらも,更に延長するような規定があってもいいのではという議論もあり得るのではないかと思うのです。しかし他方,捜査機関としては基本的には迅速にとにかく証拠を押さえるという立場でございますから,そんなに時間をかけていいとも思っていませんし,まずは早く押さえたい,そのために現場でもいろいろとプロバイダーと協議させていただいて,一番いい形を目指しておりますし,この規定ができたからといって,特に罰則で担保されるようなものでもなく,必ず保全されるというのはどこまでか,そういう見方を一般のプロバイダーにするのは失礼だと思っていますけれども,少なくともそういう形で運用されていくものだという理解の中で考えるべき制度ではないのかというふうに思っております。

●ただいまの御意見は,90日ぐらいでいいという御意見ですか。

●90日をなお突破すべきだということを積極的に議論すべきだというふうに申し上げたわけではありません。

●条約の立場は,90日を限度としながら,更新もあり得ると,国によって更新を認めるという立場をとっても構わないということですね。確かに,ある程度短くして更新をすると,60日にして更新するというような立場も,あるいはあり得ると思いますけれども,この条約の立場,あるいはアメリカで現実に行われているというようなことがあるので,捜査共助とか司法共助とか,そういうようなことを考えれば,そのあたりに合わせておいて,現実には,これはあくまでも最大限ですから,なるべくそれ以内というようなことで,実務の上ではそういう形でなるべく負担をかけないように行うということが望ましいのではないかと思います。

それから,費用の関係では,確かに業者はなるべく短い方がいいということだと思いますけれども,費用が大変だというのは相当に誇張があるのではないかというような考えを私は持っております。一律に要請するわけですから,競争原理という考え方からいっても,そんなに特に不当な結果が業者に課されるということにもならないのじゃないかと思います。

●そうしますと,大方の意見として90日あたりを目安とするというような方向ですか。今日結論を出すものではございませんけれども,最後のまとめの段階でできるだけ異論のないようなものを作っておきたいと思いましたので,申し上げたわけでございますが。

ほかにいかがでしょうか。

●先ほどから御議論ありますように,条約を受けて法律でどう書くかという話と,その後の運用の話とがあると思います。それとの兼ね合いだと思いますので,法律でどう書くかということは私から申し上げませんが,業界でその後の運用について心配されている方もいらっしゃいますので,実際の運用に当たっては,よくその辺の調整をとっていただきたい。先ほどからありますように国際共助で捜査しているときなどは長くなると,そういうのは確かに分かります。しかし,いつも90日でやらなければいけないということもないと思います。運用をどうやっていくかというのは別物だと思いますので,そこは実際法律の施行,運用に当たってよく調整していただければ有り難い。これは希望を述べさせていただいただけでございますが,一言言わせていただきたいと思います。

●この保全の要請につきましては,最初から一定期間決めて,それをその後変更しない要請と申しますか,それだけを考えているわけではございませんで,もともと必要な期間,要請をいたします時点で必要と見込まれる期間,保全をお願いし,更に当初よりも保全期間が長くなると見込まれますときには,それを延長して更に保全をお願いすると。ただし,全体として90日を超えないという趣旨でここは一応考えております。

●今,○○幹事の方から御発言のあった点,非常に重要だと思います。私が言いたいのは,長くなるという理由として先ほど○○委員も司法共助のことを言われたのですけれども,通常であれば数日で足りる,司法共助の場合は長くかかると,大体そんなところじゃないかと思うのですね。そうだとすると,二つの場合をきちんと法律上も書き分けるべきじゃないか,通常の場合であればもっと短い期間を定めて,司法共助の場合は90日を限度とするという定め方があり得ると思うのです。それが業界等の要望と,実際の捜査の必要性を両立させる非常に合理的な条件じゃないかと思いますので,是非御検討いただきたいと思います。

●私が申し上げたのは,国内の捜査の必要性についてはほかの方が既に言われていましたので,それに加えて国際的な視点もあるだろうということでありまして,国内的な捜査の観点でもいろいろな場合があって幅があり得ると思いますね。アメリカと日本では実情が違うかもしれませんけれども,アメリカの場合も国内向けのものとして90日という設定をしているのですね。国際的な関係があるから90日としているわけではないのです。したがって,短くて済む場合もあれば,令状を実際に出してもらうまでにかなりの期間かかる場合がある。さっき御指摘があったように,次々に飛んでいっているというような場合などはその典型だと思うのですけれども,そういう趣旨で申し上げたわけです。

●よろしいでしょうか。

●今の90日の問題とも関連してですが,197条の照会は,向こうから返事が来ればそれでおしまいですけれども,今回の保全要請につきましては,ある一定期間,90日を超えない限度での期間,その効力が続くわけですけれども,もはや必要ないというような判断になった場合に,捜査機関はその要請を取り消すということはできるのでしょうか。

●保全を要請していて,必要がなくなった場合には,捜査機関としては,当然,そのことは相手方にお伝えをする,もういいですよとお伝えするのは当然の義務だと考えております。

●いずれにしても,一定期間を超えればもう相手方は自由になるわけですけれども,それまでほっておくというよりは,法律レベルの問題ではないかもしれませんけれども,先ほどからお話しの運用の問題として,なるべく親切な取扱いを考える方がいいのかなという気がいたします。

●実際に法制を作るときに,現場が一番やりやすい,現場というのは例えば警察と弁護士が一番やりやすいものを作ってもらいたいと思うわけです。それで,何日かかるか分からないということであれば,それはどんどん更新を認めていく,いずれにしろこれは担保は任意の協力ということですから,それはそれでやっていくと。

例えば,弁護士が被疑者なり第三者から質問を受けて一番困るのは,あんなものは必要あるのですかと,先生何とかしてくださいよと,こう言われたときに,その必要性の疎明資料は弁護士にはないですよね。これ,任意の協力規定だということになると,どうやって争っていくのか,処分性もないじゃないかとか。警察官も,一体何日にするのだということとの関係で,なるべく警察官が負担を感じないでやれるのは,日限が短く限ってあって,それをどんどん更新できるというのが一番捜査としては安定的にやれるのじゃないかと推測するのです。だから,立法するときに,最大90日を設定すると,これはいいと思うのですけれども,○○委員がおっしゃったように,やはり短いものを積み重ねていくという法制の方が,現場レベルとしては使いやすいのじゃないかという気がするのです。それが○○関係官の御指摘だと思いますし,私も本当に現場にいる弁護士としては,そういう形の方が弁護士としても有り難いと思いますけれども。

●この協力要請の形式はどういうふうになるのですか。口頭でやるのですか,書面ですか。

●一般的には書面でやることになろうかと思います。もっとも,少なくとも法律上そう限定しなければならないようなものではないと思っております。

●先ほど○○幹事がおっしゃったのは,例えば勾留期間のように最小限10日にして,それから20日にしてというように,最大限90日というような形でやれという御趣旨ですか。

●はい。

●確かに,最初保全をお願いする期間を一度決めましたら二度と変わらないというのはいかがかという感じはいたしますけれども,他方で,最初の要請が10日なのか1月なのか,あるいは先ほどお話がございましたように,大手のプロバイダーであれば準備までに2か月かかるというふうな例もあるわけでございまして,それは事案に応じて適切な期間,要請することになろうかと思われますので,一律に身柄の勾留期間のような扱いをするというのはできないのじゃないかというふうに考えております。

●○○幹事の言われる趣旨は分からないでもないのですけれども,プロバイダーにとって,かえって負担を強いることになるのではないかと思います。最初から,例えば90日近く保全しておいてもらわないといけないことが見込まれるような場合に,10日しか要請できないということですと,10日後にまた要請することになるわけで,そうすると,その時点でまたプロバイダーは機械を操作して,10日間延ばす措置をとらなければならない。10日たつとまた更新し,元のを残したまま更に記録を貯める操作をしないといけないわけですね。それよりは,最初から見込まれるのだったら,1回の機械操作でできるようにした方が負担が軽いのじゃないかという感じがします。
 ●ほかの皆さんはいかがでしょうか。

●先ほど,○○委員がおっしゃった点,私,重要な点があると思うのです。要するに,費用なり負担の点がやや過大視されているのではないかという御意見があったかと思うのですが,当初保存すべきデータを指定して,それに合わせたいろいろな機械の操作をするという点が,負担という点では非常に大きいわけで,例えば20日であれば非常に負担が軽減されて,90日であれば非常に負担が重い,こういうような議論は恐らく余り妥当しないのじゃないかというふうに思っておりますので,当初の段階で一定程度必要が見込まれる限度で保存の要請をするというのが,恐らくこの制度の設計としては筋なのじゃないかというふうな気がいたします。

●いかがでしょうか,大体出尽くしたような感じはいたしますが,ほかにこの問題に関連しまして御議論はございませんでしょうか。

要請を拒否したら,罰則を設けるべきだという意見は,ここでは全然出ないのですかね。私はそういう意見があるのかなと思っていたのですけれども。
 ●私は,個人的にはそのように思っております。

●この保全要請というのは,裁判官の令状を介在させているわけではなくて,捜査機関の方から要請をするという構成になっていますので,それに従わなかった場合に直ちに罰則というふうにつなげられるのかという点は,やや疑問に思うところもございます。

●この保全要請というのは,あくまで,業務としてログを記録しているプロバイダー等を対象とするもので,そのもともと記録しているものの保存期間をただ延長してくださいというものなんですね。そういう人に,延長してくれなければ罰則まで科すとなると,ログをそもそも記録していないプロバイダー等はそういう義務を全く負わないので,非常に不公平なことになると思うのですね。ですから,原案から一歩ステップを進めるとすれば,ログを記録していないプロバイダー等に記録することを義務づけるというのが最初のステップだろうと思うのです。今回の法制は,そこまでしないということなので,私などから見ると,かなり謙抑的な感じがいたします。

●私としてもそう思っているわけではございませんけれども,協力要請の場合もそうなのですけれども,果たして実効性がどういう形で出てくるのかと,現状とどういうふうに変わってくるのかと。当然変わることを前提として法律の根拠を与えようとしているわけですが,一般の人からこの議論を見ますと,要請だけというのは何故かというような疑問が出るかもしれないので,前に説明があったわけですけれども,この場面で事務当局から簡単でも御説明をいただいておけば,一般の人も理解しやすいだろうと思いましたので,あえて申しました。

●協力要請の方につきましても,制裁の規定等は設けないということで考えておりますが,協力要請に応じてもらえなかった場合は,捜査機関が自力執行するということが想定されておりますし,他方で,現行の刑事訴訟法の中でこういう捜査への協力を確保するための制裁規定というのが必ずしも強力なものとして設けられていないという,体系的な問題もあります。それと,先ほどお話にも出ておりましたが,捜査機関の判断だけで要請できるという制度で考えておりますので,一律に罰則を設けるのはいかがなものかということもあります。それは,保全要請についても同様であると考えています。

●先ほど,罰則を設けるという考え方はないのかということで,私は私自身の考え方としてはそれもあり得るということで申し上げましたので,誤解を与えるといけないと思いましたので申し上げます。

論点としては二つあると思います。私は,基本的には強い刑訴,捜査,それからオープンな刑訴と,目的を執行できると。そうした強くて明るい刑訴を今回実現すべきだと,こういうふうに思うのです。そのかわり人権保障も十分にと。そういう意味で,お伺いしていてやはり寂しいなと思うのは,拒めば自力執行が待っているという,昔の論文の中で出てきたような考え方がここで二段階,つまりAかBかという形で繰り返されるのはすごく残念に思います。真ん中にもう一段階あっていいのではないかと。

例えば,この件については論点としては通信の秘密の問題もあるし,それからむしろ協力をしやすい体制をいかに構築するのかという観点からやるべきだと。被疑者の捜索については,協力要請したって協力なんか応じるわけはないので,それはもう議論の余地がない。第三者領域の方は,保全要請があればそれに応じる実務があるというわけですし,応じたいと考えているわけだから,なるべくそれが応じやすい,応じた後に応じた者に責任が生じない,問題が生じないという,それであと特定性を満たす,こういうふうな方向で制度設計ができないかというふうに考えて,そのかわり十分な人権担保があれば,それに応じない者については罰則を設けて協力を確保しながら適正な捜査執行を実現する,その辺まで踏み込んでやるべきじゃないかなと思うのですけれども。

そのためには,やはりこの件については令状,あるいは令状主義に基づく令状による裁判官のコントロールではなくて,例えば裁判官の審査という形でのコントロールとか,幾つかの条件を整えないといけないと思いますので,刑訴法の枠内でという話ですからなかなか難しいなとは思うのですけれども,できればこれは任意の協力義務を課すということですけれども,一応任意ということですので,その非常に不分明なところなどは裁判官の許可とか,そうした手続を通す,そこである程度担保した上で,その後はきちんと執行できると。そのかわり,負担をかけた者については,これは先ほどから議論されていますけれども,負担をかけた者についてはどんどん賠償すると,やるべきことはやるという形の明るい捜査法制ができないのかなというふうに思うのですけれども。

●これは,事務当局からも説明があったわけですけれども,こういう法律上の根拠を与えることによって,積極的に協力をしていただけると,それから要請に応じていただける,そこが最大のメリットであろうかと思っております。今回は,先ほどの○○委員のお話のように,まず初めは謙抑的にということで,それが効果をもたらさない場合にはその時点で考えるということかと思っておりますけれども。

ほかにいかがでしょうか。

●要綱案の中に,保全する項目として「記録すべき電気通信の送信元,送信先,通信日時その他の通信履歴」という言葉が出てまいりますが,いただいた資料の中で,「通信ログの印字例」というのがニフティが作った資料の中にあるのですが,それのどこの部分までを保全する予定なのかということを,ちょっと具体的な説明をしていただけますでしょうか。

●第2回会議でニフティから配られました資料にあります,接続ログ,課金ログ,メールアドレスのログ,それからホームページの更新あるいは閲覧の記録のログ,これらはすべて入ると考えております。

この要綱の書きぶりに即して御説明いたしますと,「その他の通信履歴」といたしましては,電気通信のプロトコルの種類,それから,電子メールのファイルサイズですとか,送信に用いたメーラーの種類,こういうものが入ると。要するに,ここでは,通信の内容を除いたそれ以外のすべての事項を想定しております。

他方で,電子メールのヘッダー部分についている「From:」の部分ですとか「To:」の部分ですとか,それから,「Subject:」の部分もそうでございますが,これらもすべて含めまして,メールのヘッダーについている部分というのは,これは,保全要請との関係では,通信事業者が記録するものではございませんので,対象にはならないと,こういう整理で考えております。

●よく分かりましたが,要するにヘッダー部分にある「From:」と「To:」と,例えば表題みたいなものは入らないというふうに考えていいわけですね。

●あくまでも対象となるは通信事業者等が記録すべきものということですので,入らないということです。

●結局,今見ている資料の「通信ログの印字例」でいうと,プロバイダーのサーバがメールを送信した記録の送信のアドレスの部分,これはヘッダーの受信者とは違う場合があり得るわけですけれども,その場合にはサーバが記録したものだけが通信ログになり得るというふうに考えていいわけですね。

●はい。
 ●分かりました。

●今のと違うことでよろしいですか。

●結構です。

●二項の方に,照会とか保全要請の場合に「事項を漏らさないように求めることができる」と。これも罰則がついていないようですので,これも謙抑的な態度の表れだなと思って,それはそれでよろしいと思うのですけれども,ある意味ではこれは当然なので,「必要があるときは」求めることができるということで,通常は求めるということなんでしょうか。それぞれの事例によって求めたり求めなかったりということなんでしょうか。

●保全要請にいたしましても捜査関係事項照会にいたしましても,性質上,捜査の初期段階に行うことが多いと想定されまして,したがいまして,密行性が強く求められるということから,こういう保秘を求めることができるということにしたいということでありますが,被疑者が既に逮捕されている場合ですとか,そういう秘密保持の要請が必要でない場合も考えられるので,そういうときは「必要があるとき」には当たらないということで,保秘の要請はしないということになるというふうに考えたものでございます。

●分かりました。

●それでは,ほかにいかがでしょうか。

●質問ですが。第七の書きぶりでいきますと,「捜査については」というふうに書いてあるので,必ずしも強制捜査が予想されるというか,接近しているというか,そういう状況でなくてもできるシステムというふうに考えてよろしいのですか。いずれ差押えをするとか,あるいはかなり差押えがあり得るということはこの要件には入っていないというふうに読めるものですから。「捜査について」と言うと,かなり幅広い状況が想定されると思いますので,そういう状況の中でもこういう一般的な保全のシステムを作る,そういうことでしょうか。

というのは,いろいろこういうプロバイダーの人たちを含めて議論をしたときに,私どもとしても意見を聞いてみたのですが,そういうときに出ている意見としては,やはり捜索・差押えと近接しているといいますか,それと関連性が強いという,あるいはそれをする前提として保全という形でやってほしいという要求がかなり強いのですね。そういうものと切り離した形で,捜査に必要だということだけで,とにかくまずは保全しておいてくれということを言われてしておいたけれども,結局は差押えも何もないまま終わってしまうというような運用の仕方はあまり好ましくないというふうに考えておられるようなので,私も確かにそういう意見を聞いてなるほどと思ったわけですが,その辺の具体的なイメージといいますか,どういうふうにお考えかというのをお聞きしたいと思います。

●この「捜査については」というのは,現行の刑事訴訟法の197条2項の捜査関係事項照会と同じ書きぶりで,その意味では,強制捜査に限られることになるわけではございませんが,通信履歴の記録につきまして,これは通信の秘密が及んでおりますので,任意捜査で出してもらえるということはございませんので,その意味で強制処分によって,すなわち,差押え等によって電磁的記録を取得することを目的として,それを想定している場合に限って保全要請をすることになる,そういう制度だと考えております。
 ●今のお答えだと,基本的な考え方は連続しているということなんだけれども,それを制度の中に書き込むことはなぜ難しいのですか。通常は,これをやったときには差押えをするのだと。もちろん,特例でやらない場合があって構わないわけですけれども,そこのつながりがあるということを法制度の中になぜ書き込まれないのでしょうか。

●将来的に差押え等の処分によって取得するしかないわけでございますので,差押え等を全然考えてもいないようなものの保全を要請するというのは,「必要なもの」の保全を要請していることにはならないということになろうかと思います。
 ●そのとおりなんですよ。だからこそ,そこを保全した場合は,原則としてその後差押えの必要がなくなった場合を除いては差押えをするのだというふうに書き込んだ方が明確になりますし,無駄な保全も減るのではないかと。

●この要綱案で「必要な」という文言を入れてございますが,ここで読み込めるというふうに考えているところです。

●今のことに関連してですが,具体的な保全要請を行った件数と,それが差押えに結びついたかどうかという,事件名を出すわけではありませんので,そういう抽象的なというか,一般化した件数を後に発表するとか,そういう形で,このシステムは決して無駄にやるということを想定しているわけではありませんし,私どもも想定してはいないのですが,そういうおそれがあるというふうに感じられているというのも事実だと思いますので,現実の運用においてもそういうものはないということの担保として,後に件数を発表するというようなことは考えられますか。

●保全要請自体は強制処分というようなものでは全くないわけでございまして,こういう任意になされた事柄につきまして,あえて件数を把握するという必要性というのは,本当にどの程度あるのかなという気もするのでございますけれども。

それは,こういう事前の任意的な要請,法的な義務ではございますけれども,それに対して制裁等が設けられていないと。実際問題としまして,必要もないのに保全要請がなされるというふうなことになってまいりましたら,任意でございますので,御協力もいただけなくなってくるということではございますけれども。
 ●今の議論ですけれども,保全要請の対象者といいましょうか,設備を設置している者というのは,必ずしも内容について差押えを将来受けるような者といいましょうか,それとぴったり重なるとは理解していなかったのですけれども。重なる場合もあるかもしれませんけれども,重ならない場合もあるのではないか,こういう理解をしていたのですけれども。例えば,捜査照会の場合には,当然差押えということじゃないですよね,地方公共団体とかそういうのは正に任意に提出してくるわけですね。そして,情報集めると。そういう場合もあるのじゃないかと。対象はプロバイダーでしょうけれども,プロバイダーに対してログ保存をしていて,そのログ保存したものをほっておくわけではないでしょうから,その取得手段は先ほどの話ですと必ず差し押さえないと取得できないような説明だったように思うのですけれども,それはそうじゃないのじゃないかと。そういう場合もあるかもしれませんけれども,そうでない場合もあるのじゃないかというふうに理解しておったのですが,ちょっとそこを整理していただけると有り難いのですが。

●そこは,正に通信の秘密を守る義務との関係が出てくるのではないかと思うのですね。任意に出せるのか。個々の通信の記録ですから,通信の秘密が及ぶわけですよね。そういう通信の秘密保持義務というのは,法律上あるわけで,その場合に任意に出したらそれに違反するわけですね。それは,捜査関係事項照会では出していない部分なんですよね,今の運用としては。それ以上の強い義務づけがある場合,つまり強制処分の場合に出すことは正当化される,これが今の理解だろうと思うのです。さっきのはそれを前提にした説明だったと思うのですけれども。

●捜査関係事項照会の場合でも,もちろん個人のプライバシーの問題があるわけですから,その場合にすべて出してもいいかどうかというのは先ほど議論のあったところで,今回の場合は通信の秘密の問題がかかってきますから,もちろんそれはより慎重な運用が要求されますけれども,必ず強制処分でないとそれは出せないものなのかどうか。
 ●その点は,通信の存在と,いつ,だれに,だれが通信をしたかというのは,多分今の普通の理解ですと,通信の秘密の方が及ぶというふうに考えられると思うのです。通信事業者の方は,その点について業務その他の正当な目的があるから保持できるわけで,業務その他の正当な目的以外のことで,任意にどこからかの求めに応じて提出する,こういうわけには多分いかないのだろうというふうに思いますけれども。

●そうしますと,この保全要請の前提となっている捜査の必要というのは,強制捜査が前提とされているということになるわけですね。そうすると,通信内容については記録命令というのでいくわけですね。多くの場合,記録命令でいくことにして,ログについては別途ログの差押えということを考えるわけでしょうか。

●差押えか記録命令差押えかということになりますと,先ほどは記録命令差押えには言及しませんでしたが,記録命令差押えの方がむしろ普通のやり方になろうかと思います。通信履歴の記録につきましても,記録命令差押えが普通のやり方になろうかと思っております。

●議論の整理で申し訳ないのですが,そうしますと,まず保全要請をして,それから記録命令差押えをする,こういう手順になるということ。そうすると,記録命令差押えの内容としては,通信内容の場合もあればログの場合もある,こういうことですね。

●はい。

●ほかにいかがでしょうか。

第七の二の方はいかがですか。

●二のところで,「必要があるときは,みだりにこれらの要請に関する事項を漏らさないように求める」ということで,この「みだりに」という言葉が入っている点でございます。これは,適正な範囲であれば漏らしてもいいということが前提になっていると思うのですが,具体的にはどういうことを想定されていらっしゃるのか,教えていただきたいと思います。

それから,「みだりに」という言葉を使うことによって,本当に限定が働くのかどうか,つまり,この場合には必要があるから漏らさないでほしいということを言えば十分なのではないかという疑問がありますが,その点いかがでしょうか。

●想定しておりますのは,一つは保全要請等があったことについて内部的にとかあるいは上級庁への報告をしなければならないような場合,この場合は「みだりに」という言葉がなくても漏らしたことにならないのかもしれませんが,このほかに,顧客の通信履歴の保存状況を顧客がインターネットで照会できるようにしているプロバイダーがあった場合に,保全要請がないときには消去しているはずの電磁的記録を保全要請に応じて消去しないということになると,顧客に判明してしまう,そういうシステムをとっている場合,この場合には保全要請等があったことを顧客に知られないようにするためには照会システムの変更が必要になりますが,そういう場合は正当な理由があるということで「みだりに」には当たらない。そういう場合を想定して,「みだりに」という言葉を入れているものでございます。

●今の点,ほかにいかがでしょうか。

第七につきましては,先ほど,「捜査について」の捜査というのはどの範囲のものを言うのかという議論がございました。それから,それと関連いたしまして,捜査を一応全体の捜査と理解するとして,その場合に,電磁的記録のうち「必要なものと」いう限定で絞りがかかるのではないかという事務当局の意見がございました。それでよいかどうかということが一つ。

それから,先ほど議論になりました「90日を超えない」ということでいいのかどうかということと,二につきましては,最後の「みだりに」ということの理解で,いろいろな御議論がございまして,そのほかにも整理すべきものがあったかと思いますが,一応基本的には第七はこれで維持してよいのではないかというふうに理解してよろしいでしょうか。

これは,第六もそうでございますけれども,まずこれをベースにして,そしてなお文言等の修正をするということで次回の整理をさせていただきたいと思っております。

それでは,ただいまから休憩にしたいと思います。

(休憩)

●再開させていただきます。

第六,第七につきまして御議論いただきましたが,まず第八のところを整理させていただきまして,もし御発言がありましたら補足的に御議論いただくというようにさせていただきたいと思います。

それでは,先ほどと同じように第八につきまして,御自由に御意見をちょうだいしたいと思います。よろしくお願いいたします。

●基本的なことをお聞きします。
 現行法の没収の規定は,有体物を対象としているのですが,果たして電磁的記録というものを考えたときに,現行の規定でどこまできちんと対応できるのか疑問です。この点は,どのように考えられているのでしょうか。

●電磁的記録は,常に有体物である記録媒体上に記録が保存されている状態で存在するものでございますので,電磁的記録の没収は,現行法において認められております文書におきます偽造部分の没収と同様に,有体物の一部の没収として刑法の解釈としても可能であると,そういうふうに考えております。
 ●それは,記録自体の没収という意味ではないのだという趣旨でございますか。

●記録媒体という有体物上に乗っているものが,文書の上に乗っているものと同様に,文書あるいは記録媒体の一部没収という,そういう有体物の一部没収という形で刑法上もできるということになろうかというふうに考えているということでございます。
 ●電磁的記録は,記録媒体の一部である,したがって没収の対象になるという理解でございますね。

●今の関連でございますが,主文は具体的にはどのような形になるのでしょうか。偽造文書ですと,例えば押収してある何々上の偽造部分を没収する,判示偽造部分を没収するというような形で通常特定して没収を言い渡しているのですが,同じような形で主文を書くとしたらどんな形になると思ったらよろしいのでしょうか。

●例えば,約束手形の裏書き部分の没収の場合には,現在,主文は,押収してある約束手形1通の偽造部分を没収するということで,偽造部分を特定して主文を書かれているというふうに理解しておりますが,電磁的記録の場合,例えば,今回の改正後のわいせつな電磁的記録の有償頒布目的保管罪,この罪の場合の主文といたしましては,押収してあるコンピュータ・ハードディスクとして,押収番号を書いて,それのわいせつな電磁的記録として,さらにファイル名で,ファイル名001.jpgから015.jpgのファイルというような形で特定をして,その電磁的記録が記録されている部分を没収すると,そういう主文になろうかと考えております。
 ●ほかにいかがでしょうか。

●もう既に一度議論されたようなものなんですが,第八そのものはこういう規定が必要だというふうに思うのですが,この前もちょっと議論しましたけれども,結局没収されたデータ,消去といいますか,そういう処分をされてしまうわけですが,なくなって,こちらにコピーといいますか,それが残るという場合に,元のが消去されるという場合に,データの真正性といいますか,それはどういうふうに担保するのか。

これは,物の場合でも没収されて,その没収された物が本当にもともとの没収前のものと同一性があるかどうかということは問題にはなるわけですけれども,ただ電磁的記録の場合は,改造しやすいというのですか,変えやすいという側面を持っているということがあると思いますので,その辺,物の場合とどういうふうに,真正性をパラレルに考えると,何か担保的なものを用意しておく必要はないのかという感じがするのですが,その辺はいかがでしょうか。

●ここの没収との関係で,同一性といいますか,それが問題になるのは,第三の移転の処分を行った場合かと思います。それから,さらにハードディスク自体,記録媒体自体を差し押さえた場合にも,やはり同一性が問題になろうかと思いますが,これは,前回も御説明をさせていただきましたように,例えば書換えができない媒体,CD−Rだとかそういうものに移転して保管していたという保管形態やその後の保管の経緯を立証することによって,証明することになると考えております。

●第八の一ですが,「消去し,又は」と続いています。消去以外の方法で不正に利用されないようにする処分というのは,どういうものが考えられるのかをお教えいただきたいと思います。

●基本的には消去が普通のやり方だと思いますが,例えば暗号化するというのも場合によっては考えられるかもしれませんし,また,今後技術の進展によって,要するに使えないようにすればいいわけですので,そういう目的を達成できる別の方法もあり得ようかということで考えているものでございます。

●引き続き先ほどお尋ねしたことに関連して,もう少し整理させていただきたいと思います。

平成14年12月17日の東京高等裁判所の裁判例があるようですが,それによると,パソコンが犯罪供用物件として使用された事案のようでして,所論はそのパソコン自体を没収した第一審の判決の法令違反をどうも主張したようですが,それに対してこの裁判例は,
 没収は,目的物に対する所有権その他の物権を失わせ,これを国庫に帰属させる効果を生じさせるものであるから,有体物のみを対象とし,かつ,独立性を有しない物の一部分のみの没収は観念することができないのであり,ましてや,有体物でない,本件各パソコン中に記録されている電磁記録のうち,犯罪に関するもののみを抹消するなどして,これをもって没収とすることは,現行法上は,法が予定していないというべきである。

こういう判示をしているようでございます。

これは,あくまで現在の法令解釈としてこういう判断を示したものですし,どうも所論との関係では,傍論のようになるので,判例性は持っていないようにも見えるのですが,これとの関係はどういうふうに整理しておられるのか,お尋ねしたいと思います。

●基本的にこの要綱で考えておりますような法整備をしますと,実定法上,有体物の部分没収としての電磁的記録の没収というのは,当然法律が予定しているものであるということに変わってくるといいますか,そういうことになろうかと思っております。

●それからもう1点,この絡みでもう一つお尋ねしたいのは,要綱第三の「電磁的記録に係る記録媒体の差押えの執行方法」で,他の記録媒体に電磁的記録を複写したり,あるいは移転した場合に,それが直接没収の対象になるということをお考えなのか,この要綱第八との関係でちょっとお尋ねしたいと思います。とりわけ移転の場合,当該フロッピー,有体物自体は犯罪にそのまま直接供されたものでないというような場合に,その上にのっかっている電磁的記録自体は犯罪の供用物件であったり組成物件であったり生成物件であったりしたような場合に,この場合の没収についてどのようにお考えなのかということをお尋ねしたいと思うのですが。

●要綱第三の移転の処分が行われました場合には,元の記録媒体に記録されていた電磁的記録が没収の対象物になっていると,その電磁的記録は,他の記録媒体に移転された電磁的記録として存在しているという評価になりますので,したがいまして,他の記録媒体に移転された電磁的記録が没収の対象となる,そういうことになると考えているものでございます。

●移転した記録が没収の対象になるということですか。

●はい,元の電磁的記録に記録されていた電磁的記録が,これが没収の対象としてもともとは存在していたと,それが,今は,他の記録媒体に移転された電磁的記録として存在していると評価できるので,結局他の記録媒体に移転された電磁的記録を対象に没収をするということに法律的にはなると考えています。

●そういう趣旨でございます。よろしいでしょうか。
 ほかにいかがでしょうか。

●第八の三でございますが,ここで「帰属」という概念が今回出てまいりました。有体物の場合には,所有権というような概念を観念することが可能なんですけれども,電磁的記録の場合の帰属者というのは,具体的にどのような人たちをお考えなのか,もうちょっと具体例を挙げて教えていただければと思います。

例えば,移転したような場合に,あるファイルがAさんのところにあって,それがAさんからBさんに移転したような場合には,そのファイルの帰属者としてはBさんというふうに考えればいいのか,あるいはAさんとして考えればいいのか。それが,例えばファイルの移転自体が違法である場合とない場合で差があるのかとか,あるいは捜査行為として行った場合とそうでない場合とで差があるのか,こういったあたり,実際に没収するような事例が出てきた場合に,内容が確定していないと困るものですから,その辺どのようにお考えなのか教えていただけないでしょうか。

●捜査機関が第三の処分として移転をした場合につきましては,同一性を保っているということで,先ほど御説明させていただいたようなことになろうかと思っております。

それから,捜査と関係なしに何か移転をしたみたいな場合ですが,電磁的記録というのは基本的に記録媒体の正当な使用者に帰属している,電磁的記録もその記録媒体の正当な使用者に帰属しているのが原則であると。ただ,メールボックスにある電磁的記録のような場合は,記録媒体の保管者ではなくて,メールボックスの利用者であり顧客に帰属している−−帰属しているというのは排他的に管理処分する権限を有しているということだと理解しておりますが,そういうことでメールボックスのような場合は違いますが,基本的には記録媒体の正当な使用者にそこに記録されている電磁的記録は帰属しているということになると。したがいまして,捜査とは関係なしに,Aのところにあった電磁的記録がBに移転して,Bが保管しているフロッピーか何かに入っているというようなときは,その電磁的記録はあくまでもBに帰属しているということになると考えております。

●ほかにいかがでしょうか。

それでは,先ほどの第六,第七につきまして,なおこの際補足しておきたいという御意見がございましたらちょうだいするのと,それから,それぞれの要綱骨子には関係しないけれども,この問題に関連して特に御議論があるという場合には,御発言いただきたいと思います。そして,また,最後に,ただいまの第八についても御議論いただきたいと思います。

第六,第七につきまして,いかがでしょうか。

●第七ですが,通信の秘密との関係でもう一度整理しておきたいのですが,発信元,通信先を保全要請かける,その場合にプロバイダーの方の問題なんですけれども,それが通信の秘密を害することにならないかという問題について,発信元,それから送信先のデータを実際には固定させてどこかに保管する,あるいは消えないように処理をしていく,つまり手を触れることになりますね。そうすると,そこにそのプロバイダーは正当な権限というか根拠がないと通信の秘密を害するということになるのではないかと思うのです。まずそこを確認させていただきたいのと,その場合に保全要請がその正当な根拠となるという考え方でいいのでしょうか。そこだけちょっと確認したいのですが。
 ●通信の履歴は,確かに通信の利用者,プロバイダーの加入者等でございますが,これに関する情報でありますが,ここで保全要請の対象として考えておりますのは,通信事業者が処分権を有する通信履歴でございます。この通信履歴については,通信事業者は,課金ですとか料金請求,あるいは苦情対応,さらには通信事業者が管理するシステムの安全性の確保などの正当な理由があれば,これを消さずに保管しておくことが許されるというふうに考えられているところであります。通信事業者には,ネットワークという社会的インフラになっているものを守るべき一般的な責任があると考えられますので,犯罪捜査のために通信履歴の電磁的記録の保全が必要であるということであれば,これを消さないで保管しておく正当な理由もあると。そして,特定の通信履歴の電磁的記録について捜査機関から保全要請があることによって,その対象となった通信履歴の電磁的記録を消去しないでおくことの正当性が明らかになる,こういうことで,これを消去しなくてもそれは正当な理由によるものとして通信の秘密の侵害にはならないと,こういうことになるというふうに理解しております。
 ●ありがとうございました。
 ●やはり七項なんですけれども,このもとになっている条約の16条では,「迅速な保全を命じ又はこれに類する方法」というふうになっていたわけですけれども,今回検討の過程で,いわゆる裁判所による命令のような制度の構想というのはなかったのか,それが採用されなかったとしたら,どういう理由なのか。

あと,この条約を受けていろいろな国で恐らく国内法化が進んでいると思うのですけれども,そういう中でどういう立法例が今出てきているのか,準備中なのかといったことまで情報がありましたら教えていただきたいのですが。

●保全要請は,以前から申し上げておりますように,ここでは通信履歴の電磁的記録に限定しておりますが,これにつきましてはネットワークを利用した犯罪の捜査において非常に重要な証拠であるという意味で,保全する必要が大きいと。現実に短期間で消去されるという現実もありますが,そういうことも踏まえた上での保全の必要性の大きさと,一方で,期間を限っていることですとか,もともと通信事業者が処分権を有しているものであることとか,そういうことも考慮すると,捜査機関の判断でできるものとするのが相当であろうと考えているものです。
 他方で,令状を要求する仕組みにいたしますと,要するにそれは捜索・差押えができる段階になっているということに等しいわけですが,問題は令状請求をするための資料等を整えるのに相当の時間がかかる,そのときにいかに対処するか,そのときに消されないようにいかに対処するかということが問題であるわけでございまして,ですから令状を入れる仕組みにしますと,差押えができるわけですから意味がないし,問題の対処にならないということでございます。

それから,諸外国のことは先ほどもご説明しましたが,アメリカは法律がございます。フランスは先ほど申し上げましたような非常にざっくりした規定で,何でも協力を求めることができるということになっているようでございます。

●それ以外の国はまだ……。

●イギリスは,先ほども言いましたが,下位の業務規範がまだできていないようでございます。

ドイツは,今のところ私どもでは承知している動きはございません。

●今のお二人の御質問の関係ですけれども,これが通信事業者が業務に伴って正当に記録をとっているログではなくて,より積極的に通信の記録をとってくれというものであれば,お二人が言われたような問題が出てくるのだろうと思うのです。しかし,今議論しているのはそうではなくて,もともと業務に伴って正当にとっているログの保存期間を延ばしてくれというものであり,その内容を第三者に開示しろということになればもちろん通信の秘密を破ることになりますので,強制力が伴うときは令状の問題が出てくるだろうと思うのですけれども,とりあえずとっておいてくれというにとどまるのですから,その侵害というか,かなり質的に違うと思うのですね。通信の秘密の侵害というより,むしろ個人情報の保護の観点から,記録をとっていたものもある期間が来たら原則として消さなければならない,ただ正当な理由があれば延ばしてよいので,その「正当な理由」づけを法律によってする,そういうことではないかというふうに思います。
 ●第七以外でも結構ですが,いかがでしょうか。

●一つ戻りまして第六についてですけれども,「電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる」とある,この「必要な協力」については,前半の議論でも御質問が出たかと思いますが,そこで必ずしも触れられなかったので1点確認をしたいと思います。
 第四の「記録命令差押え」については,前回の御議論で,例えば暗号が用いられているような場合については,複号化して記録をするといったようなこともこの第四で可能だという御説明があったように記憶しておりますが,この第六の協力要請の中には,暗号が用いられているような場合について何か協力を求めるといったようなことは含まれるのでしょうか。

●この協力要請は,捜索・差押えの目的を達成するために必要な協力を求めることができるというものでごさいまして,暗号化されている電磁的記録につきましては,そのままでは証拠としてもちろん用いることができませんので,そういう意味で電磁的記録の記録媒体の差押え,あるいは第三の処分の目的を達成するために複号化が必要であるというときには,その複号化作業も「必要な協力」に含まれると考えています。
 ただ,被処分者が復号化を予定しているような,そういう暗号に限られる,例えば通信事業者のところにある電磁的記録が加入者の暗号で暗号化されているというような場合については,復号化は不可能を求めることになりますし,これは「必要な協力」の範囲には入らない,あくまでも被処分者によって複号化が予定されている限度で,その複号化を求めることも「必要な協力」に入ると,こういうふうに理解しております。

●それと多少関連するかもしれませんけれども,第六の処分と,それから第四の記録命令差押えですけれども,記録命令差押えの際には,例えば必要なファイルでこれとこれとこれのファイルを記録せよというようなことであれば,第四の処分になろうかと思うのですね。ところが,通常の捜索・差押えの令状を得た上で,捜索・差押えの執行の途上でこのファイルを探せと指示を求めるということであるとすれば,それは第六の処分でも可能になってくるのでしょうか。
 つまり,協力の要請の一環として,処分を受ける者に対して,これとこれとこれのファイルを開けて指示しなさいということができるのであるとすると,それはかなり似た目的の行為が第六の場合はその点についての令状審査を経ないということにもなろうかという気もするのですが,それは正しい理解でしょうか。

●第三の処分を行おうとする場合に,ファイルがどこにあるのかの説明を求める,それは差押えに必要な協力としてできると。三この場合,記録媒体全体が令状審査を経て差押えが許されているという中で,執行方法としてより謙抑的といいますか,侵害性の少ない処分をするという制度でございますので,令状主義の要請は記録媒体についての司法審査で満たされている,そういう整理で考えております。
 ●ほかにいかがでしょうか。

それでは,第八の方はいかがでしょうか。

●第八の三のところで,電磁的記録の帰属について,既に初期の段階で御説明があったかもしれないのですが,確認させていただきたいのですが,電磁的記録については一つの電磁的記録について複数の帰属者がいるという理解でよろしいのでしょうか。例えば,AのパソコンのハードディスクにXというファイルがあって,それをAがメールでBに添付して送信したという場合,A,Bのそれぞれの正当に所持するハードディスクにXというファイルが存在するに至りますが,先ほど記録媒体の正当な使用者が当該記録の帰属者であるという御説明でしたので,電磁的記録については当然ながらこのようなコピーのような形になりますと,複数の帰属者というものが出てくるのではないかという気がいたします。そこで,所有という概念とは違うのだけれども,同じように読むために「みなす」というふうに規定されたのかなと理解しているのですが,そのような理解でよろしいのでしょうか。

●ここで言っております「帰属する」というのは,先ほども申し上げましたが,排他的にその電磁的記録を管理処分する権限を有するという理解で考えております。御質問がありましたように,同一内容の電磁的記録がコピーされて複数の人の記録媒体に記録されているというときには,電磁的記録は基本的にその記録媒体の正当な使用者に帰属しているので,その複写されている電磁的記録はそれぞれについて記録媒体の使用者に帰属するという関係に立つと。A,B2人の使用しているハードディスクに,それぞれ同じ内容の電磁的記録があれば,それぞれのその2つの電磁的記録がA,Bそれぞれに帰属するということになる,そういうふうに考えております。

●そうしますと,先ほど例えばプロバイダーを経由してメールを送信するときに,CというプロバイダーにBが有しているメールボックスに入っている電磁的記録は,Cに帰属していないかのような説明があったかに理解したのですが,プロバイダーとしましても顧客Bのためにメールボックスを持っているということで,それもかなり排他的な,Cにとってみると業務において排他的な管理のようにも見えるわけですけれども,プロバイダーにとっては帰属とは言わないという御理解でしょうか。

●例えば,顧客Aのメールボックスに記録されているメールの中身といいますか,メール自体といいますか,その電磁的記録というのは,プロバイダーに処分する権限はないはずで,要するに消去したりすることはできないはずで,それはあくまでもそのメールボックスの使用者といいますか,加入者だけが処分できるものでありますので,その意味でそういう場合にはプロバイダーにはその電磁的記録は帰属していなくて,そのメールボックスの使用者である加入者に帰属しているということになる,そういう趣旨で御説明をしたものでございます。

●ありがとうございます。そのとおりだと思うのですけれども,プロバイダーとしても送られてきたBのメールを削除してはならないというふうな意味では,例えば第三者が妨害するようなときには,それを防止するような義務があるのかなとも思いましたので,そういった点からまた帰属概念が広がるのかと思いましたが,御回答で結構でございます。

●今のケースですけれども,契約上は排他的管理はCだけにあると,しかし情報システムのセキュリティなり運営上はプロバイダーもそのシステムについてのある意味権限を恐らく持つことになると思うのですね。その場合は,どのように考えるのでしょうか。やはり契約上の利用権限だけで限定して考えられるのでしょうか。

●先ほどの設例ですと,プロバイダーは,記録媒体については排他的に所有なり排他的に管理処分権限を有しているものですが,電磁的記録については排他的に処分権まであるとは考えられないということで,プロバイダーには帰属していることにはならない,そういうふうに考えているものでございます。

●例えば,現行約款でもウイルスなど添付したメールについては,これをプロバイダーの権限で削除するという契約になっているケースがありますけれども,この場合は……。

●今おっしゃったような例につきましては,例えば所有者以外の者でございましても,全体を管理しておられる方が他への危害等を防ぐためであるとか,緊急避難的と申しますか,そのもの自体を破壊されても民事的な責任は負われないような場合もあろうかと思われますけれども,ここでは本来的な処分権と申しますか,中身を消したりする権限をお持ちの方,そういう状態を「帰属」と言っておるということでございます。

●いかがでしょうか,問題点はほぼ尽きたような感じもいたします。次回以降,今度はまとめの段階に入ってまいりますので,そこでまた御議論をいただくというような扱いにさせていただいてよろしいでしょうか。(「異議なし」と呼ぶ者あり)

ありがとうございます。
 それでは,次回以降の審議についてお諮りをしたいと思いますが,次回は7月4日金曜日,午後1時30分から法曹会館の高砂の間におきまして審議を行いたいと思いますが,内容的には次回と次々回の7月23日水曜日でこれまでの議論を踏まえて要綱(骨子)につきましてまとめに向けた議論を行いたいと考えております。

その上で,部会としての結論を出したいと思いますが,一応この結論を出す日として8月7日に日程を予定していただきたいと思います。

次回は,要綱(骨子)の第一から順に前半部分を中心に第四までをまとめる議論にさせていただきたいと考えております。

それでは,今日は少し時間が早うございますけれども,ある意味で充実した議論ということでございまして,何だかまとめができたような感じで非常に心強い限りでございますが,できるだけ当部会としては,まとまった意見としてこの案を作れれば大変うれしいなというふうに思っておりますので,またそういう議論がこれまでもできたような感じがいたしますので,よろしくお願いをしたいと思います。

それでは,今日はこれで散会にいたします。どうもありがとうございました。