以下は、法務省の許諾を得て、法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の議事録をHTML形式に変換して全文転載するものである。法務省は(平成18年までのものについては)審議会議事録を「.exe」「.lzh」形式で公開しているため、通常のWeb検索でこれらの議事録がヒットしない状態にある。このままでは、国民がハイテク犯罪に対処するための刑事法について正しい理解を得る機会を損失し続けてしまうと考え、ここにHTML形式で転載するものである。転載元および他の回の議事録は以下の通りである。
転載元: http://www.moj.go.jp/SHINGI/030602-1.html
議事録一覧:
法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第4回会議 議事録
第1 日時 平成15年6月2日(月) 自 午後1時00分 至 午後3時58分
第2 場所 法曹会館「高砂の間」
第3 議題 ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備について
第4 議事 (次のとおり)
議事
●ただいまから法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会の第4回会議を開催いたします。
●お忙しい中,御出席くださいまして誠にありがとうございます。
初めに,当部会に関係官として御出席いただいておりました外務省国際社会協力部人権人道課企画官須賀正広氏が異動され,後任に前川信隆氏が御着任されました。今後,関係官として当部会に御出席を願うことにいたしますので,御了承賜りたいと思います。
それでは,早速審議に入りたいと思います。
まず,席上に参考資料が配布されてございますので,これにつきまして事務当局から御説明をお願いいたします。
●本日,席上配布させていただきました参考資料は,「欧州評議会サイバー犯罪に関する条約」の注釈書の仮訳文の抄訳でございます。御審議の参考にしていただくために,法務省刑事局におきまして,要綱の手続法部分に直接関係がある部分といたしまして,注釈書の「第2章 手続法」の冒頭部分,「第2節 蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全」の冒頭部分及び第16条に関する部分,「第3節 提出命令」並びに「第4節 蔵置されたコンピュータ・データの捜索及び押収」の部分について仮訳したものを御用意させていただきました。前回も申し上げましたように,正式な訳ではございませんし,不正確な訳もあり得るところであり,是非,英文の注釈書と併せて御参照いただければと思います。
●前回も申しましたが,特に進行についての御意見等がございませんでしたら,今回は,要綱骨子の手続法の部分のうちの第三から第五について,御議論をお願いしたいと思います。
それに先立ちまして,第1回会議において要綱(骨子)の全体にわたりまして一通り御質問や御意見などをいただいた際に事務当局の方から一応の御説明があったわけでございますが,指摘されました論点のうち,要綱(骨子)第三ないし第五の部分の概要につきまして,本日,席上にメモが配布されてございますので,これにつきまして事務当局の方から御説明をお願いいたしたいと思います。
●それでは,メモに沿いまして,第1回部会において指摘された論点のうち,要綱(骨子)第三から第五までの部分について御説明をさせていただきます。
まず,要綱(骨子)第四の関係でございますが,記録命令差押えの令状の記載はどのようになされることになるのかにつきましては,令状の記載例を作成し,席上に参考資料として配布させていただいておりますので,これと併せまして御説明をさせていただきます。
記録命令差押えは,電磁的記録が記録されている記録媒体を特定して差し押さえなくても,必要な電磁的記録を取得すれば証拠収集の目的を達成することができる場合において,被処分者が記録命令差押えに応じ,必要な電磁的記録の記録媒体への記録等が適切に行われることが期待できるときに行われる処分でございます。すなわち,記録命令差押えは,電磁的記録が記録されている記録媒体ではなく,必要な電磁的記録そのものに着目し,これをその保管者等に命じて記録媒体に記録等をさせた上,当該記録媒体を差し押さえる制度でございますから,裁判官は,「電磁的記録を保管者等に命じて記録媒体に記録させた上,当該記録媒体を差し押さえる理由があるかどうか」という点について判断をし,要綱第四の三にございますように,令状に「電磁的記録を記録させ,又は印刷させるべき者」及び「記録させ,又は印刷させるべき電磁的記録」を記載することになります。
このうち,「記録させ,又は印刷させるべき電磁的記録」の記載方法につきましては,事案によって異なることになりますが,参考資料の記録命令差押許可状のひな形の別紙に記載例を記載していますので,これを御覧いただきたいと思います。
記録命令差押えを実施することとなる電磁的記録といたしましては,電話の通話履歴,電子メールの内容や通信記録,webページの閲覧記録などが想定されますが,それぞれにつきまして,この記載例にありますような記載によって記録・印刷させる電磁的記録が特定されることとなると考えております。
なお,webページの場合の記載例でございますが,一つ目は,特定のホームページをだれがいつ閲覧したかの記録について捜査する必要がある場合の記載例で,二つ目は,例えば,不特定多数の者が閲覧できるわいせつな電磁的記録が記録されたwebページがあった場合に,そのwebページのコンテンツをだれがいつ更新しているかについて捜査する必要があるようなときの記載例でございます。
次に,要綱(骨子)第五の関係でございますが,本処分の場合,令状主義の要請はどのように満たされることとなるのかという点について,御質問がございました。
憲法35条が捜索する場所及び押収する物を明示する各別の令状を要求しているのは,「正当な理由」,すなわち,その場所及び目的物について捜索・押収を行う根拠は,場所や物が異なれば違ってくるのが普通であることから,場所や物のそれぞれについて正当な理由が存在することをあらかじめ裁判官に確認させ,それを令状の上に明示させて,その範囲でのみ捜索・押収を行うことを捜査機関に許すことにより,捜査機関の恣意的な捜索・差押えが行われないようにするところにその趣旨があるというべきでございます。
本処分は,ネットワークを利用することにより処理すべき電磁的記録を物理的に離れた場所にある記録媒体に保管することが多いという電子計算機の利用形態にかんがみまして,電子計算機の差押えに当たり,その範囲をこれと一体的に使用されている記録媒体にまで拡大しようとするものでありますところ,裁判官は,本処分の許否を判断するに際しまして,電子計算機について差し押さえるべき正当な理由があるとの判断を前提といたしまして,これに電気通信回線で接続している記録媒体について,当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるか否かを判断し,そのように判断される範囲を令状に記載し,捜査機関は,その範囲でのみ本処分を行うことになるのでありますから,本処分は,憲法の趣旨に反するものではないと考えております。
次に,「電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にある」の意義に関連して,差し押さえるべき電子計算機にLANで接続されており,当該電子計算機からアクセスすることが可能な記録媒体については,どの範囲でそこから電磁的記録を複写することが許されることになるのかという点について,御質問がございました。
本処分は,差し押さえるべき電子計算機と電気通信回線で接続している記録媒体であって,「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるもの」から,その電磁的記録を複写することができるとするものでございます。
差し押さえるべき電子計算機とLANで接続されており,当該電子計算機からアクセスして電磁的記録を記録し,又はダウンロードすることが可能な記録媒体であれば,一般的に,当該電子計算機で処理すべき電磁的記録が保管されている蓋然性が認められ,「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるもの」に当たる場合が多いものと考えられます。
もっとも,差し押さえるべき電子計算機とLANで接続されており,当該電子計算機からアクセスすることが可能な記録媒体でありましても,LANの利用状況などから「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるもの」とは言えない記録媒体であれば,そこからは電磁的記録を複写することはできないものと考えております。
例えば,ある会社のA課の課員のパソコンを差し押さえる場合に,そのパソコンとLANで接続されておりアクセスすることが可能なサーバの領域内に,A課用のフォルダのほか,B課用のフォルダがあって,その区別が可能であり,かつ,A課の職員はB課用のフォルダを利用していないと判断されるような場合には,B課のフォルダから電磁的記録を複写することはできないものと考えております。
本処分の令状の記載につきましても,記載例を作成し,席上に配布させていただいておりますので,併せて御説明をさせていただきます。
要綱(骨子)の第五の三にございますように,本処分にあっては電磁的記録を複写すべき電気通信回線で接続している記録媒体につきまして,令状にその範囲を記載することとなりますので,捜査機関におきまして,電磁的記録を複写しようとする記録媒体が「差し押さえるべき電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用していると認めるに足りる状況にあるもの」であることを疎明し,これに基づきまして,裁判官において電磁的記録を複写することを許可する電磁的記録の範囲を審査することになります。
その具体的な記載例について御説明いたしますと,令状のひな形の別紙を御覧いただきたいと思いますが,この処分を実施する場合といたしましては,一つには携帯電話を差し押さえる場合が想定されます。この場合には,携帯電話とその携帯電話あての留守番電話・電子メールは1対1で対応しておりますので,携帯電話が特定されることで,電磁的記録を複写すべき記録媒体の範囲も特定されるということになります。
他方,コンピュータを差し押さえる場合にこの処分を行うリモートの記録媒体といたしましては,電子メール,リモート・ストレージ・サービスのサーバに記録されている電磁的記録,LANで接続されている記録媒体などが想定されますが,それぞれにつきまして,電磁的記録を複写すべき記録媒体の範囲の記載方法として考えられるところを記載しております。
LANの場合につきましては,アクセス先のサーバーのサービスの種類,具体的にはグループウェアサーバですとか,ファイルサーバですとか,メールサーバなどといったサービスの種類,それから,アクセスするのに必要なIDやアクセス権限者,さらに,アクセス権限,すなわち閲覧あるいはダウンロードができるだけであるのか,それとも書込みや変更などもできるのかという権限によって,差し押さえるべき電子計算機からデータにアクセスができる範囲で,電磁的記録を複写することが許可される範囲が限定されることとなると考えております。
さらに,先ほど御説明いたしましたように,差し押さえるべき電子計算機からアクセスできる記録媒体であっても,A課用のフォルダとB課用のフォルダの区別があって,差し押さえるべき電子計算機を使用しているA課の職員は,B課用のフォルダを利用していないと判断されるような場合には,記載例にございますように,「○○課の職員がファイルを記録するのに使用している部分」というような限定がなされることもあると考えております。
●それでは,ただいまの事務当局の御説明を踏まえた上で,本日の審議に移りたいと思います。
本日は,まず要綱(骨子)第三及び第四について議論し,それが一段落いたしましたところで,次に要綱(骨子)第五について議論するというように,できるだけ具体的に議論を進めてまいりたいと思います。この要領で,本日中に,要綱(骨子)の手続法部分のうち第三から第五の部分を一巡するようにしたいと思っております。そのような進行でよろしいでしょうか。
特に御異論もございませんようですので,まず,要綱(骨子)第三及び第四に関しまして議論をしたいと思います。どなたからでも結構でございますので,できるだけ第三から,御発言をお願いしたいと存じます。
●私自身,差押えに代えてこういう処分ができることにするのが望ましいと考えてきました。
その理由は,その物全体を持ってくるのが必要な場合はもちろんあるわけですけれども,サーバとか記録媒体の中には他の無関係なデータ等がたくさん入っていることもある。そういう場合に,それらの他のデータ等について権利や利益を有している人の利用が妨げられることになりますので,それよりは,そういうものを制約する度合いの低い方法で,必要な部分だけを保全するような方法があった方が良いのではないかということです。そういうことは,現行法の下でも一定範囲でできるのだろうと思いますけれども,その点を確認するということをも含めて,明記することが必要だろうと考えております。
ちょっと付加して,質問なのですけれども,この中には「移転」というものが入っていますね。これでは,元のデータが全部移ってしまい,元には残らないことになるわけですけれども,例えば,プロバイダの許にある未読の電子メール,まだ本人が読んでいないメールなどの場合,これは記録媒体全体を持ってくるときも同じなのかもしれないのですが,移転されてしまうと,本人には分からない。そういう場合,本人との関係で何らかの手続的な措置が必要かどうかですね。これは,プロバイダのメールボックスに届いたメールでまだ未読のものというのが,通信の途中にあるものなのかどうかでも違ってくるのだろうと思うのですけれども,例えば,郵便物が郵便官署の保管に係る場合に差し押さえた場合には,原則として差出人又は名宛人に通知するということになっていますが,それとの関係をどう考えたらいいのか。この点,立案者としては,どういうお考えかということをお伺いしたいと思います。
●刑事訴訟法は,差押えにつきまして,処分を受ける者に令状を呈示し,あるいは住居主等を立ち会わせなければならないこととしておりますが,処分が押収物の所有者等の利害関係人の知り得ない場面で行われたといたしましても,これらの利害関係人に処分についての通知を一般的に義務づける規定は置かれていないということがまず一つの前提としてあます。
御指摘いただきましたように,電子メールの電磁的記録を移転した場合,刑訴法100条の郵便物を差し押さえる場合に受信者のところに郵便物が届かないのと同じような利益状況になるというのはそのとおりかと思いますが,刑訴法100条におきましても,差押えの処分等を,差押えをしたということを受信者に伝達すると,捜査の障害になる場合には,100条3項のただし書におきまして通知は不要とされております。電磁的記録の複写ではなく移転を行う場合というのは,そういう処分をしたことを受信者に伝達することが捜査の支障になる場合ということになろうかと思いますので,結局,移転の処分についての通知を行う必要はないということになろうかと考えております。
●ただいまの点,いかがでしょうか。
●私も,この要綱第三は,過剰な処分を避けるための代替的な執行の方法として立案されたというふうに理解しておりますので,基本的にはこの方向に賛成でございます。
今の○○委員の御指摘の点ですが,私は,かつて,未読のメールについては通信の途上にあるのではないかというふうに考えたことがありまして,もしそうだとすれば,このような物に対する捜索・差押えで対処するのではなくて,別途の方法によらなければいけないのではないかというふうに考えた時期もあったのですけれども,今,更に考えてみますと,これは,例えば郵便物に関していえば,郵便局の私書箱に一定の郵便物が既に到着しているが,まだ本人は受け取っていない,こういう状態に類似した事態だというふうに考えるとすれば,それは通信の途上ではありませんので,ここで考えているような捜索・差押えの対象として考えることができるだろうと。
また,確かにデータの場合は,移転してしまいますと痕跡が跡形もないという点で知りにくいという,こういう点はあるのかもしれませんけれども,それは物の場合も程度の問題として同じ性質ではないかと思いますので,その点は,今,○○幹事がおっしゃった発言の趣旨に賛成でございます。
●いかがでしょうか。
●今の点ですが,この移転ということについて少し問題があるのではないかというふうに思いまして。確かに物の場合であってもデータの移転とは程度の差だというふうに言われるのかもしれませんが,電磁的記録を移転してしまった場合には,完全に消えるというか,痕跡が本当にないわけですね。そうなった場合に,移転したものが正しい移転をしたものか,正確性の担保というか……。だから,物の場合にももちろん押収された物がもともとあった押収対象物と同じかという議論が出てくると思うのですが,移転した場合に,争いになったときどういうふうにするのかという問題がありまして,その対象物を同じものを移転したかという……。
●いかがですか,今の点。
●その点は,恐らく技術的に対処を考えるべき問題ではないでしょうか。通信傍受の場合も,傍受されて記録されたものがそのまま残っているかどうかということは争いになり得るので,原本をその場で封印して,原本を保管する。捜査のためにはコピーを使用するというような工夫がなされているわけですが,それと同じでいいかどうかは別として,何らかの技術的な対応を考えるということしかないのではないでしょうか。
そもそも,元に残すのが適切でないから移転するのでありますから,それを認める以上は,それを前提として,真正なもの,原物がそのまま残っていることを確保する工夫をしていくのが筋じゃないかと思います。
●今の件は,そもそも,データが記録されている媒体自体を差し押さえた場合にも同じことが言えるはずで,それを持っていって,捜査機関の側において,例えば悪さをするという事態をどうやって防ぐのかということと同じことではないかと思うわけです。もともとのデータの完全性が保持されていることをどうやって保証するのかという点は,何も第三の一でデータの移転を認めたから発生する問題ではなくて,記録媒体自体の差押えがあった場合も同じ事態が発生するはずですので,その点について技術上完全性を維持するような形を構築すれば足りるというふうに思います。
●その点は,やはり非常に悩ましいところがあります。例えば,有体物であればその場所から物を移すか移さないか,つまり証拠を捜査機関が確保できるかどうかということで自動的に移転になってしまう。そして,アナログの従来のケースは,可及的に戻しなさいということで仮還付のような形で弊害を防止していたと。しかし,電子データの場合は,移転ではなくて複写の形態もとれるではないか,こういうことからすると,○○委員が本当に中核を御指摘になったように,現在の刑事訴訟法の差押えの機能として,これはいい悪いじゃなくて現実に営んでいる機能との関係でいえば,本当に刑事司法手続の後ろ向きの,証拠だけを集めるのだということになると,持っていてはけしからんからこちらに移転するのだという発想をどこまで取り入れていいのかという議論は,やはりしておかなければいけない。この条約とか別の法制との関係では,持っているのはけしからん,あるいは禁制物についてはこちらに移転すると,禁制物等についてははっきり移転させていいわけですけれども,どこまで移転という形でそのものの占有を奪っていいのかというのは,やはり議論しておく必要があるのじゃないかと思います。
つまり,無罪推定を受ける被疑者,あるいは第三者の領域から,捜査機関が見て,置いておくのはけしからんと,それで移転をさせよと,複写ができるのに。そうした捜査手法というのをやはり認めるべきと考えるのかどうかというのは,はっきり宣言する必要があるのじゃないかと思うのですけれども。
私は,ある程度は認めざるを得ないと。例えば,法禁物については,置いておくわけにはいかないから移転させなければならない。だから,例えば令状の罪名がわいせつ物とか法律上禁じられた内容のデータであれば,移転させてもいい。だけども,例えば財務情報なんかの場合は,これはどうなのかなという気がするのですけれども。つまり,複写で足りる場合に移転までできるのかどうか。
●先ほど,○○委員の方から通信傍受法との関係で発言がありましたので,確認的な質問ということになると思いますけれども。
確かに,未読のメールであっても内容が特定されるということはあり得ないわけではないだろうと思いますので,そういった場合について,本条による移転ということはあり得るかなと思いますけれども,ある者とある者との間でメールが頻繁にやりとりされているというような状況で,中身がまだ必ずしも明らかではないというような場合には,これは,通信傍受によることになるだろうと思いますけれども,その点はそういう理解でよろしいかどうか,確認したいのですけれども。
●通信傍受法における傍受の対象は,現に行われている他人間の通信でございまして,傍受の開始のときに既に受信者のメールボックスに入っている,蓄積されている電子メールの内容を知るというのは,通信傍受法でいうところの傍受ではないという整理がされております。これらにつきましては,これらが記録されている記録媒体の差押えによって取得すべきものであって,電磁的記録に係る記録媒体の差押えによるか,これに代わる要綱第三の複写・移転の処分を行うということになると考えております。
●しかし,いずれにしても特定は必要ですね。差押え対象物としての。
●差押え対象物として,電子メールが蓄積されているメールボックスがあるところの記録媒体を特定するということは,当然必要になると考えております。
●関連して。そうすると,令状にいつから送られたメールでいつまでとかいうような形で特定しないと,この令状が呈示されるまでの時点に未読メールというのは次々にたまっていくものですよね。私なんか1日100通ぐらい来るのですけれども,そうすると,どこでどういうふうに区切られるのか,そこをきちんと令状の記載でも特定すべきなんじゃないでしょうか。
●それは,一般の有体物における差押えも同じでございまして,令状が発せられた後,執行の時点までに,有体物としての証拠物と申しますか,証拠が蓄積される,集まってくることも,また,なくなっていくこともございますけれども,執行時において記録という形で既に存在しているものが対象になるというのは,一般の捜索・差押えと変わるところはないと考えております。
●そうだとすると,令状が発付されてから執行時点までに蓄積されたメールについては,通信傍受だったらかなり特定の令状が必要であるのに,現に通信傍受令状を出したのであれば,それ以降に発せられているメールについてはその要件が必要だったのに,令状を持っていくまでの例えば1日とか数時間の部分については,実質的には傍受したのと同じ効果が得られることになってしまいませんか。
●傍受法は,あくまで現になされておる通信の内容が対象でございまして,記録になっておるものは,明らかに,手続法上,質的に異なったものと考えざるを得ないと思います。
それは,例えば,商業帳簿のたぐいにつきましても,日々蓄積されているのが常でございまして,日計表とか振替え伝票もそうでございましょう。これは,しかし,令状発付後差押え執行の時点で存在するものが対象となるということです。
●対象になるのはあくまで執行の時点に特定の場所とか,あるところに存在するものが対象になるというのは,今,○○委員が御説明になったとおりだと思います。
○○委員が御指摘の,たまっていくという点は,たまっていくものも証拠としての意味があるものである,証拠となる蓋然性があるものであると裁判官が事案の内容などから判断して,それをも対象として令状に記載してということだろうと思うのですね。一定の時点以降のものは無関係であり,その時点までのものが必要かつ関連性のあるものだと判断するならば,何日から何日までのものといった限定をするはずでしょう。そういうことだろうと思うのですね。
●令状発付後になされた通信も,その令状で差し押さえられるということになるという,それでよいということですか。
●物の場合にも,令状発付の時点ではまだ捜索の場所には存在しなくても,令状を実施するときにその場所に所在するであろうと相当程度の蓋然性をもっていえる場合には,その物を目的物として令状を発付することはできる。例えば,その場所に目的物が持ち込まれることがほぼ確実であるという場合に,その物を対象にして捜索・差押許可状を出すということはできるはずで,それと同じことではないかということです。
●そこで,立案に際して一工夫をいただきたいというふうに思っております。今の論点について。
今の論点は,アナログ世界では当然に想定できるわけですけれども,なぜこのような議論を提起したかといいますと,コンピュータの世界では,要するに情報が大量に流し込まれて,大量に出ていく,これが常態化しているわけですね。ですから,従前の令状と原理的には同じであっても,配慮ができるものは配慮してほしいという,そういう願いがあります。
例えば,具体的には,令状については有効期間ということで,着手の有効期間が入っています。そして,○○委員御指摘のように,例えば証拠との関係で必要性を裁判官が判断すると,そういう構造に今までなっていたわけですが,これは,原則が今度例外,つまりアナログ世界と原則・例外がひっくり返って,電子世界の場合はどんどん情報が入ってきてどんどん出ていって,時々刻々と変わっていく。そういう意味では,一工夫,つまり着手後終了の時点を明示するとか。令状は,有効期間として着手の有効期間は決めていますけれども,終了時点というのは決めていないのですね。ですから,制度として,例えば令状の執行がいつまでできると,そこでその段階でその時刻を過ぎそうなときはまた再度審査を受ける,そういうふうな工夫があってもいいのじゃないかと思います。
●ただいまのは要綱の第三の一にかかわるところでございますが,前段の御議論は,特に1の移転をめぐっての御議論でございました。この移転について,物の移転と,それからデータの移転,同じように扱っていいのかどうかという御議論でございました。
この点については,同じように扱っていいのではないかという御意見で御異議ございませんか。それでは,そのような扱いをさせていただきます。
次は傍受に関連するところでございますけれども,これについて,ほかに何か御意見ございませんか。
●今のことにちょっと関連すると思うのですが,第三も第五も,差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときという,あるいは電子計算機であるときという……。まず,物を差し押さえるという想定をして,その物の差押えに代えて記録なり記録媒体を押さえるという,こういう論理構成になっているわけですが,先ほどからいろいろ議論しているのは,結局,我々も悩ましいところではあるのですが,刑事訴訟法自体が物という概念ですべてを律するというふうに考えているものですから,そうなっているのでしょうけれども,第三の一を考えてみても,裁判官の判断というのは物ですね。差し押さえるべきものは記録媒体ということで,令状を出す。捜査機関がその令状を持って現場でデジタル対応をする……,これも,私どもまた十分結論は出ていないのですが,物を対象にするという差押えの形式を,先ほどの場所,物の特定という問題との絡みでいろいろ議論があるのでしょうけれども,一番最初から差押えに代えての方,差押えに代えて次の処分をすることができるという方を裁判所に最初に判断させるという,そういう形式はとれないものか。そうしないと,裁判官としては大きく物を言わざるを得ないというのですか,そこにはデジタルとしてはいろいろな記録があり,いろいろあるという中で,大まかに言って,結局,現場の捜査官がその場でこれは印刷,これは複写,これは移転とか,具体的にそういう判断,それがどこの部分というふうに判断していくという,このやり方自体がいいのかということ。これは,第五にも絡んでくると思うのですが,その辺の議論を少ししていただけたらと思います。
●この点につきましては,差押えによって裁判所でありましたり捜査機関が証拠を取得するということの意味なんでありますけれども,正に一つは没収すべきものということで,被押収者の手元にあること自体を手続法的に避けなければいけないというものがございましょうし,もう一つ,それ以外の証拠となるべきものという観点でとらえてまいりますと,これはそういう証拠物を保全するということでありまして,保全するというのは一方では改変等を防ぐ,あるがままの状態のものを保全して,その後の事実認定等に役立てようということでございますので,その発想からまいりますと,どこかのフィールドにある記録を一部複写なり移転なりということを大前提で考えてまいりますと,先ほど来おっしゃっておりますように,これは同一かということも非常に問題になってきます。その意味では,証拠物として全体を取得するという今の手続法の在り方というのは,それはそれでやはり合理性があるのではないかと思われるのです。
●今の○○委員の質問の趣旨を私が申し上げるのも変ですが,こういうことなのですね。
つまり,第三の一については,要するに証拠として,あるいは証拠物として,ターゲット,つまり必要とするものが物である。差し押さえるべきものとして捜査機関は物を考えたと,これが必要だと考えたと。現場に行くと,この執行機関,捜査機関が実際に弊害を少なくするために中のデータを写し取って持ってくる,そういうことができるようにしたと。今の捜査の知恵を条文化したという,そういう趣旨だと思うのですね。
ただ,分かりにくいのは,これは第四の記録命令差押えとの関係なんですが,もともと中身を要するにねらっているのであれば,記録命令差押えをやるべきじゃないかと。物が必要ならば,現場に臨んで,要するに中身だけを取ってきてもいいよと,これは理解がしにくいと,こういうことなんですよ。
だから,捜査機関が差押えの対象を差し押さえるべき物というふうに考えた場合は,これは物を持ってきたいわけですから,物を持ってくればいいと。問題は,裁判官の判断に際して記録命令差押えで足りるべきときは,記録命令差押令状しか出さない,つまり,物令状は出さない,こういうコントロールをすべきではないかという,そういう議論なんだと思うのですけれども。
●今の議論に関連いたしまして,通常の捜索差押許可状の請求があったときに,裁判官が今回の要綱第三を条件として付して令状を発付するというようなことはあり得るのかどうか,その辺をお尋ねしたいと思います。
●基本的に,処分を非侵害的でない方向に条件を付けるということでありますから,理論的には可能ではあろうかと考えておりますが,ただ,本当に複写ができるのかどうか,移転ができるのかどうか,それは,現場に行ってみて,どういうOSを使っているのかとか,そういうことにもよることになりますから,事前に分からない場面もかなり多くて,そこは,やはり,捜査機関の現場での判断に任せざるを得ないのが現実だと思われますので,そういう意味では,条件を付ける,電磁的記録の複写にしなさいよという条件を付けるというのは,余り現実的には考えられないのかなと思っております。
●今のお答えとかなり重複しておりますけれども,現行法の体系というのが捜索・差押えの対象物というのは物であるということで,そういう原則を重視すると,そして合理性もあると先ほど言われましたけれども,私もそのとおりだというふうに思います。そして,実際にも,ハードが必要な場合,記録媒体を差し押さえる必要がある場合というのがありますので,まずそれを原則にして,しかしよりマイルドな方法で同じ目的を達することができるというのであれば,印刷でもいいし,複写でもいいし,そうでなければ移転だということにもなるということで。ですから,こういうような原則,それで具体的な状況に応じてそのやり方を選択できる,そして,それに当たってはやはり捜査機関の現場での判断というものを重視せざるを得ないということも,それまた合理性があると思いますので,私はこの組立て方ということには合理性があるだろうというふうに考えます。
●御心配になっていることもよく分かるのですが,第三の方法と第四の方法とでは2点違うところがあって,一つは移転なのですね。移転ということを第四の方法ではできないわけで,○○委員がおっしゃったように,没収すべき場合に当たると考えられるので,それに備えた保全みたいなことを捜査段階でやらなければならないときに,第四の方法にはよれないのです。もう一つは,第四の方法は,相手方がこれに応じなければ意味がないわけですが,相手によってはそう素直に応じてくれない。応じてくれる場合は第四の方法でもいいのですけれども,そうでない場合は,第三のような方法が可能でないと,結局また捜索差押令状を取りにいって,やり直さなければならなくなるわけで,それでは対応できないということもあるだろうと思うのです。
それと同時に,さっき○○幹事が出されたような可能性も考えられますし,また,大胆に言えば,第三の方法の請求があった場合に第四の方法でも十分ではないかと思われる場合も,あるかもしれない。そういう場合に,第四の方法の請求があったものと読み替えて,そういう扱いをするということも,可能性としてはあるのではないかと思うのです。ただ,実際上は,○○幹事が説明されたような難点があり,そう理屈どおりにはいかないのではないかというふうに思いますけれども。
●2点ですけれども。
1点は,○○委員が言われたことですけれども,現行法で捜索・差押えが有体物について行われているということに対して,○○幹事が問題提起されたのは,被処分者の侵害利益の代償という観点だろうと思いますけれども,現行法が有体物原則で,それについてより侵害性の低い他の代替的処分という,そういうとらえ方をこの要綱はしておるわけで,現行法との整合性ということを考えるとそれでいいということですから,○○委員の意見と重なっていると思います。
第2点は,○○幹事の言われたことですけれども,条件記載ということの意味なんですけれども,これは令状執行についてのいわば加重要件を意味するのが普通ではないかと。更に念を入れて,執行性をという意味で条件を付けるというのは,条件記載の本来の意味かなと思いますので,よりこれは軽い,いわば大なる令状によってそれにいわば含まれている軽い執行ができるという意味ですから,必ずしも令状に記載することが必要的とは言えないのではないかというふうに理解しております。 ●今のこととの関係で申し上げれば,強制処分の場合,被制約利益と侵害利益の間で最小限の処分を選択しろということは,これは一般的な要請だろうと思います。その意味では,令状にそのことが条件として書かれていなくても,その場で一番最小限の処分でやれという要請はあるわけでして,それが余りにやり過ぎだった場合には,少なくとも事後的にはその点が果たしてよかったのかどうかということを問われる可能性というのは残っているのだろうと思います。ただそれを,一律に令状で規制するということが果たしてできるかどうかという点に関しては,○○幹事が言われたような問題があるということではないかと思います。
●ちょうど今お尋ねしたいと思っていたことが出てきましたのでお尋ねしますが,今回第三の中で書かれている中で,今話題になっておりました移転以外にも,複写とか印刷があるわけですが,実際の執行の段階で両者の間に優劣関係のようなものは想定していらっしゃるのでしょうか。例えば,後に本来これは印刷で済ますべきであったのに移転してしまったと,その執行が過剰であるというような場面というのは,想定されておられるのでしょうか。
●いかがですか。
●どんな場合に複写ではなくて移転をすることになるのかというお話が先ほどからいろいろと出ております。
現場で一々捜査機関が中身を判断するというのは現実的ではないところもありますが,まず,前提として,複写ではなく移転ということをする必要があるものとしては,一つには没収をしなければならないことになるようなもの,それから,これは条約のEMにもございますが,危険物の製造方法を内容とするようなもの,それから,被処分者のところに残しておくと,罪証隠滅など捜査の妨害を容易にすることになるようなもの,こういうものは,移転の方法による必要があると,基本的にはそのように考えておりますが,ただ一々捜査機関が現場で中身を確認してというのは現実的ではないということも踏まえる必要があろうと考えております。その意味で,基本的には現場の捜査機関の裁量判断を優先すべきことではありますが,ただ,明らかに複写で足りるのに移転をしたような場合について,理由もないということであれば,それは事後的に不服申立てで救済されることになると,そういうふうに考えております。
●先ほど○○幹事がおっしゃったこととの関連なのですが,この第三から第五までのそれぞれの相互の関係,そしてどれが優先的に適用されるべきかということ,それが全然書かれていないわけですけれども,確かに令状の中でこれを一律に記載するのは非常に難しいということは今の立案者側からの説明でよく分かるのですけれども,処分を受ける側,特に第三者であるプロバイダの事業者などから見てみれば,一番負担の軽い方法でやってほしいという問題はかなり切実な問題になり得ると思うのです。ですから,やはり令状の発付並びに令状の執行方法において,処分を受ける者ないしは処分を受ける事業者の負担を最小限度にとどめるような方法で行わなければならないというような一般条項的なものはこの第三から第五までの冒頭にでも置いていただけないでしょうか。そういう形がないと,今,複写で足りるのに移転してしまったような場合は事後的に問題になり得るという話だったのですが,その場合の判断の基準というのが,そういう一般条項があるかどうかによって違ってくると思いますので,必要以上のことをやっていいという意見の方はおられないと思うので,そのことを何らかの形で注記するというような形はとれないものかということを御質問いたします。
●まだたくさん御意見あろうかと思いますけれども,今日,結論を出すわけではありませんので,ひとまず,この第三の一のところ,特に一の1が議論になったわけでありますけれども,二の方にも共通する議論であったと思いますので,できれば二の方に話題を移していただければと思いますが,いかがでしょうか。
●第三の二でございますが,第三の一に関して移転が相当に議論の対象になったと存じます。この移転の方が,複写に比べて元がなくなるという意味でダメージが大きいということがあるわけで,それを配慮してこの二の規定ができているのだと思いますけれども,一方において,移転の対象になるのは,先ほどから例として挙げられておりますように,ポルノであるとかウイルスプログラムであるとか,危険物の製造法であるとか,そういったものであるとすれば,二の方でそれを還付ないしそれに準ずるような措置をとることが決められているわけですが,そこに例外を設けなくてもいいかということが気になりますが,いかがでしょうか。
●これは,要綱の第八にも関係することかと思いますが,基本的に没収されることになる電磁的記録,それから現行刑訴法にございます偽造に相当するもの,これについては,処分の段階で返すことが相当ではないということになりますので,その場合には没収なり消去をすることになるので,それが優先することによって,自動的にといいますか,第三の二の方は働かなくなるといいますか,そういうことで考えればいいのではないかと考えております。
●分かりました。ありがとうございました。
●ただいまの点に関連して,何かございましたら……。ただいまの議論は,第三の二の方に移っているわけでございますが。−特にございませんでしょうか。
そうしましたら,また戻ることもあるという前提で,四の記録命令差押えの方に話題を移させていただきたいと存じますが,この点につきまして御意見いかがでしょうか。
●第三の一,それから第四の絡みで,結局現に媒体の中に記録されているデータを移転あるいは複写という形で他の媒体に移して,その媒体を使って証拠物あるいは証拠を編成して法廷に顕出するというプロセスが考えられていると思うのですが,刑事訴訟法の中でか外でかはあれですけれども,要するに現にある証拠と複写先の証拠の同一性の確保については,刑訴法の射程とは違うというふうに理解していいのでしょうか。何かお考えになっていることというのはあるのでしょうか。
●基本的に,証拠物の同一性といいますか,捜査機関が取得した証拠物に変更が加えられていないかどうかというのは,別に要綱の第三だとか第四に限って問題になることではなくて,現行法でも問題になることでございまして,具体的には,取得したほかの証拠物の場合も含めて,電磁的記録の場合であっても,その保管方法でありますとか,どういう経緯で保管しているだとか,あるいは技術的にリライタブルじゃない媒体に保存していたとか,そういうことも含めた保管の経緯等を立証することによって同一性を立証すると。それは,有体物の世界でも同じであって,特段電磁的記録の場合についてだけ新たな規定を設ける必要は,少なくとも刑訴法の世界で設ける必要はないと考えております。
●私も同じ考えなんですが,ただこちらの電磁的記録については,例えば技術基準とかそうしたものを設けやすいので,刑訴法ではもちろん定める必要はないと思いますけれども,規則等で,例えば媒体についてはISOの1508を使うとか,そうした一定の技術水準を用いて,はっきり言うと現場の弁護士と検事と裁判官が法廷で無駄な時間を使わないような工夫があっていいのじゃないかと思うのです。それが全くできないことであれば別ですけれども,例えばコンピュータ技術の場合は,例えば複写する際の機器の規格,それからOSの規格,それからそこにおけるセキュリティの規格,そうしたものが準備できるわけなので,その辺を規則等で,あるいはこれは警察庁の問題かもしれませんけれども,捜査規範なんかでも,少なくとも弁護士が事前に知りながら捜査にかかわられるようにしていただけると有り難いと。
●質問なのですけれども,第三の方法と同じなのかどうかという点を伺いたいのですが。
第三の方は,複写等をするということですので,元の差し押さえるべきコンピュータないし記録媒体にあったのをそのまま複写等するということだと思うのですが,第四の記録の場合も,そういうことに限られるのか,それとも,例えば,生データとして蓄積されているもの,それ自体では意味がないけれども,一定の事項についてそれを整理して一覧表にして出してくれとか,あるいは,いろいろなところに散らばって保存されているデータを一つにまとめて記録として出してくれとか,さらには暗号がかかっているものにつき暗号を解いて読める形にして出してくれというふうに求める。そういったところまで含んだものとしてお考えなのかどうなのかということをお伺いしたいと思います。
●第三は「複写」,「印刷」,「移転」という言葉を使いまして,第四の方は違う言葉遣いで「記録」としております。その趣旨は,ある記録媒体に記録されたものをそのまま他の記録媒体に複写すること,これには暗号化された電磁的記録を復号化して,それを他の記録媒体に記録させることも含まれますが,これに加えまして,今,委員がおっしゃいましたように,複数の記録媒体に記録されている電磁的記録データを用いて,必要な電磁的記録をいわば新たに作成させて,これを記録させるということも含ませる,そういう考えで,「記録」という用語を使っているものでございます。
●よろしいでしょうか。
ほかにいかがでしょうか。
これも質問でありますが,第三の一の2のところは,相手方がこれに応じないということであれば,捜査機関は本来どおり証拠物を差し押さえてくればいいと,こういうふうになろうかと思いますけれども,第四について,処分の相手方がこれに応じない,こういった場合にいかなることができるのでしょうか。
●第四の場合,記録命令を発付された相手方といいますか,記録しろと命じられた相手方は,法律的には記録をする義務を負うことになると,そういうものとして考えておりますが,直接にこれを強制する手段は考えておりません。したがいまして,原則に戻りまして記録媒体の差押え又は第三の処分をすることになるわけでございますが,ただ,もともと第四というのは相手方が協力的な者で,信頼するに足り得る者,記録命令差押えで正しい記録を作成するであろう,そういう人たちを想定しておりますので,現実問題としては第四の命令に従わないという事態が起こるということはないであろうと考えております。
●質問ですけれども,前回の御説明によりますと,この記録命令差押えは条約の18条の提出命令に相当するものであると,こういう御説明がありましたが,この条約を見ますと,提出命令の中にはいわゆる加入者情報というのを別に立てて規定しておりますが,この点については含まれるのか含まれないのかという点ですが。
●加入者情報は,条約の18条1項のbのことかと思います。1項のbは,プロバイダが保有・管理する加入者情報の提出を命ずるようにすることを締約国に求めておりますが,この条項につきましては,捜査関係事項照会の規定によって担保できていると考えております。
●加入者情報が電磁的記録形態で残っている場合ですね,その場合はこっちになるのでしょうか。
●その場合も含めまして,捜査関係事項照会で対応できると考えております。他方,プロバイダ等が持っております通信の秘密が個々に及ぶもの,例えば電子メールの内容でございますとか,それから電子メールの通信履歴等,これらにつきましては通信の秘密が及びますので,捜査関係事項照会ではプロバイダ等は応じないという考えに立っておりますが,基本的にこういうものを第四の制度では対象として想定しているということでございます。
●先ほどの確認的な質問ですけれども,加入者情報を捜査で照会しても十分それに従わないような場合,同じようなことになりますけれども,その場合はどういうことになりますか。同じことですか。
●基本的に通信の秘密が及んでおりませんので。個々の通信と離れた,だれが加入者で,住所がどこで,どういう支払方法をとっているかというようなことは,通信の秘密が及んでいませんので,プロバイダも捜査関係事項照会で応じておりますので,想定はしていないといえば想定はしていないと。
仮に,どうしても応じないというところがあるとすれば,記録命令差押えになることもあり得るかもしれませんし,あるいはもっと原則に戻りまして捜索差押えを実施するということをせざるを得ない場合もあり得るのかもしれません。
●よろしいでしょうか。
第四に関連いたしましては,冒頭の説明で出てまいりましたように,令状の記載をどうするかという問題もございます。その辺も含めて御議論いただきたいと思いますが。記載例もございますので。
●確認なのですけれども。この記録命令差押えの場合,理屈の上では被疑者を相手方とすることもあり得るわけですね。被疑者が当の電磁的記録を保管しているような場合ですが。それは余り想定していないということでしょうか。
●被疑者の場合,協力に応じるということは想定できませんので,現実問題としては対象となることはないかと。
●その意味では,実際上前提を欠くのかもしれませんが,一応この方法は,令状が出て,それによる義務付けをして記録を出させるというものですから,相手が応じなければそれまでということなのかもしれませんけれど,それと憲法38条1項との関係についてはどういう整理をされているのかということを,念のために御質問したいと思います。
●記録命令差押えの場合,記録をするという作為を命じることになりますが,その作為につきましては,既に存在している電磁的記録をいわば機械的に処理をして記録をするということになります。機械的な処理でございますので,基本的に供述には該当しないだろうと考えておりますし,実際問題としても,この作為義務を直接的に強制するものではないので,その点からも憲法38条1項の強要には当たらないということで,結局,憲法38条1項に違反するということにはならないと考えております。
●それと,第四で証拠を取得するということになりますと,記録命令差押えによって取得されたところの内容の真正性と申しますか,同一性と申しますか,それが確保できるような相手方に対しまして行うことになりますので,被疑者なり何なりという方について,こういう形で提出をお願いするというのは,実際問題,かえって後で問題が起きると申しますか,内容改変の機会を与えることにもなりますので,ちょっと想定できないかなという感じがいたします。
●これに間接強制として罰則などを付けるということも,立法の在り方としてはあり得ると思うのですが,そういった場合に,被疑者,それも中核的な人ではなくてその周辺にいる人で,場合によっては共犯として責任を問われ得る立場にいるような人を対象にするということは,理屈の上ではあり得るように思うのですね。そういうことを視野に入れて考えた場合,憲法38条1項との関係が出てきますので,その辺の整理を伺ったわけです。
●確かに,この記録命令差押えというのを外国におきます提出命令の並びで考えてまいりますと,担保するためにコンテンプト的な罰則が付いておるという例は外国にはございますけれども,日本の場合,そういう形での担保というのが刑事手続の証拠物の場合一般的だとはちょっと言えませんので,今回は現行法の枠組みの中でさまざまな制度を考えております関係上,罰則のような制裁によって担保することとはしていないということでございます。
●この記録命令差押えの対象の特定についてお伺いしたいのですけれども。
この問題についても,記録あるいは印刷させるべき電磁的記録,この範囲がどういうものかということについて,どのように具体的に特定するのか,どうしてもある程度包括的な記載というか,それがその具体的な事例自体が包括的にならざるを得ないのか,それとも最後に一般的に行われているように,これに関連する資料というような形で書いて,それがある程度広がりがあるということにならざるを得ないのか,ともかく過不足ない範囲で,適正な範囲でできるようなそういう特定の仕方ということについて,何か御工夫というものは考えられているのでしょうか。
●第四の記録命令差押えの場合,相手方に記録という作為をさせることになりますので,基本的にはその範囲は非常に明確な形になると考えております。
本日,参考資料としてお配りさせていただきました記録命令差押令状の2枚目の別紙,先ほども御説明をさせていただきましたが,そこに記載例を挙げておりまして,この記録命令差押えを使う場合としては,ここにある三つの場合,これが典型的に想定される場合であるということで書いておりまして,先ほど日付の特定の話もございましたが,それは事案によって特定することもあるだろうということで,いろいろな形での,いろいろな要素での特定がされることになりますが,ここに記載しておりますように,命令を受けた者にとってその範囲が一義的に明確になるような形での特定の仕方になると考えております。
●現場で,プロバイダの判断と捜査官の判断が違っていて,捜査官がこれも関連するのじゃないかというような形で意見が違うというような,そういうようなことは考えにくいですか。
●余り考えられないのじゃないかと思います。
●第四の方ですが,対象物との関係ですが,これは,電磁的記録ですけれども記録命令差押令状に記載された場所にあるストレージに入れてある電磁的記録,これは当然含むわけですが,この「保管する者」ということで,この保管のところは,条約なんかとも関係しますけれども,令状記載の場所以外のところにある,そういう保管場所にストレージされている記録も含むということになるのでしょうか。
●記録命令差押許可状の場合,場所というのは出てこないものであります。許可状のひな形にも書いておりますが,命令を受ける者が元になる記録をどこに保管しているかというのは,基本的に問わないといいますか,それは,どこかにあるものに限らなければならないとか,あるいはそれを特定しなければならないとか,そういう制度ではないと考えておりまして,したがいまして,場所という概念はその意味では出てこない,場所を問わないものと考えております。
●そうすると,本邦外に保管しているものについても,要するに議論がかみ合わない以上は,保管の場所は問わない以上は,要するにこれで出せと命ずることができる,これに応じるかどうかは自由だと,こういうことになりますか。
●自由かどうかということになりますと,命じられている以上応じる義務はあると。
外国にあるものについても,その者が保管している,あるいは合法的にアクセスできるものである限り,オリジナルのデータとしては対象になると考えております。
●この第四の記録命令差押えにつきましては,小項目の四がありまして,「所要の法整備を行う」ということになっているわけですが,そこに想定されている法整備というのは,刑事訴訟法の差押えに関する各条文のところに記録命令差押えを付け加えるという,いわば形式的な整備なのか,それとも何か実質的にどこかを動かすということがありますのでしょうか。伺いたいと思います。
●刑訴法108条あたり以降のところに,差押状なり,それの執行に関する規定が幾つかございますが,記録命令差押状は,差押状とは概念として違うものでございますので,そのあたりの執行に関する規定のうち,性質上記録命令差押状にも適用されるべき条文には,「差押状」の後に「記録命令差押状」という文言を追加することによって,これについても適用があるということを明確にするという,そういう整備を考えております。
●今の点はよく分かりました。
もう一つ,これは単純な言葉の問題ですけれども,「記録命令差押え」というのを英語なり何なりにしますと,やはりウイズとかミットとかアベックとか,何か前置詞のようなものが入ると思うのですけれども,これを更に日本語に訳し戻しますと,「記録命令を伴う差押え」とか,「記録命令付き差押え」とか,そういう言葉になりはせんかと思うのですが,その点,日本語ですと「記録命令差押え」で,慣れれば分かるようなものではありますが,よろしいのでしょうか。
●前回も問題になったところでございますが。
●用語につきましては,最終的にこの審議会での御議論も踏まえまして,関係当局とも協議をして決定しなければならないものでございますが,確かに「記録命令差押え」という用語は,記録することを命令して差し押さえるというところをとってきた用語でありまして,御指摘のように「記録命令付き」とか,そういう意味の差押えというのが適切だという考えもあり得ようかと思います。
あるいは,他方で,基本的にはこれは有体物を対象にしている現行の体系に合うものとして想定しておりまして,基本は差押えの一種でございますので,出力媒体差押えというような形で,差押えの対象物が媒体だということ,それから差押えが中心概念であるということを明らかにしたような用語というのも考えられないではなくて,用語につきましても御意見をいただければと思っております。
●私は,この第四の方法については,差し押さえるというところに重点があるのではなく,むしろ,記録させる,記録を作り出させるというところに重点があると読んでいまして,ですから,ウイズとかミットが付くのは差押えの方であって,主体は記録命令の方ではないかという感じがするのですね。その意味で,名称は「記録命令」だけでも良いのではないかという感じがしないでもないのです。そして,記録命令処分の効果というか,効力の中にその結果として作成された記録媒体を差し押さえることができるということも入っていると構成すれば足りるという感じがしますけれども。
●今のようなお考えもあろうかと思われますけれども,日本語として見ましたときに,何度も繰り返し見ていただきますと違和感はなくなってこようかと思われるのですが。もともと「記録命令」と申しますのは,当初御説明いたしましたように,行政法などで措置を命ずる命令のことを措置命令と言っておりますが,同じように記録することを命ずると。それによって特徴付けられた差押えと。逆に,「差押え」という用語を入れておりますのは,これによりまして,先ほど執行の際の取扱いということの話がございましたけれども,手続法的には差押えとして扱うことによってさまざまな効果を与えていくということでございます。その意味で,「差押え」にも相当の思いを入れておるということでございます。
●この記録命令差押えというのは,二つのものが含まれると思われるわけですが,これは時間的に差があるということは想定されているのでしょうか。
例えば,記録命令をしておいて,それからもうちょっと後で差し押さえるということも想定されているのですか。
●そういう場合もあり得ると思います。
●そうなってきますと,まず最初に記録命令だけを出しておいて,後から差し押さえるという,こういう二段のことも考えられるのですか。
●あくまでも,令状としましては,命令して差押えで一つの完結物ですので,令状としては一個で出てきて,命令する行為と差し押さえる行為に時間的に若干差が出るというだけだと考えております。
●そうすると,今のようなことですと,先ほどの令状の期限についての発言とも関係するのですが,差押え時点において存在するもの,つまり記録が1回終わりましたと,その後,差押えまでの間に,待てよ,またちょっと記録がありそうだなということで,その令状に基づいてもう一度記録をしろと,そうすると差押え前ですからそこの記録も記録させて,そして差し押さえる,こういうことも考えられるということですか。ちょっとその辺が気になるのですけれども。
●それは,令状がどの範囲の電磁的記録の記録命令を許しているかということによるわけです。また,1個の令状を使い回して何回もできるというようなことになるわけはないと考えております。それは当然のことだと思っております。
●当然のことなのですが,今おっしゃられるように,そうすると令状の予定するものというのは何なのですか。裁判所が判断したものの中に時間的な経緯,要するに一定の長さがあれば,その間は執行は何回でもできる,そういうことですか。
●執行はもちろん1回しかできません。あくまでも,記録をする電磁的記録の範囲が裁判所の令状でいつまでの記録を記録することを許可するという形で特定されていて,その範囲で1個の記録ができて,それを差し押さえるということになるわけです。
●一般的な差押令状はそうですよね。ただこれは,当然にそういう情報,あるいは流れてくる情報について,いつからいつまでの間という条件を付けて令状を出さなければいけないという限定は付いていませんですよね。その辺は付ける御予定なんですか。
例えばデータについても,データの内容がいつからいつまでに記録されたものというふうに付けなければ,この令状は発付できないというふうに考えるのですか。そんなことないですよね。
●それは,事案によりまして,ある範囲のデータじゃないと証拠としての関連性がないであろうというような事案であれば,裁判所はそういう限定を付けますし,そういう限定がなくて,広く関連性のあるものとして押収する必要があるような場合であれば,そういう限定は付けずに,最終的に記録をするときまでに存在する蓋然性があるものが対象になった令状が出る,そういうことになるのだと考えております。
●同じことの繰り返しになるのですけれども,そうすると司法的判断によって,つまり一定の限度で,事案によって一定の探索的な,あるいは待ち受け型の令状も出るということを想定しているということですか。
●探索的というのを,通信傍受との対比で言われているのであるとすれば,記録命令差押えは,あくまでも記録をするときまでに存在する蓋然性があるものだけが対象になる,それは,今の有体物の差押許可状と同じであるという意味で,そんなに将来にわたって探索的にどんなものでもとれるという,そういうことではありません。
●非常に具体的な質問をしたいのですけれども。
令状が出たのが1日であった,その令状には例えば10日までに受信した電子メールとなっていた,現実に記録命令を受け取ったプロバイダはメールを保存できますよね。でも,本人は,メールを見る度に削除するという措置をとっていたと。そうすると,現実にいつからいつまでのメールが記録されて,差し押さえられることになるのでしょうか。
実際に令状を持っていった時点ではまだ存在していないわけですね,1日に出ている令状で10日までというふうになっていたと。10日の時点だけをとってメールを出そうとすると,メールボックスの中は空なわけですね。その都度消していますから。しかし,それをずっと保存しておいて,それを全部1日から10日までのものを持っていくということはできるのでしょうか。それだと,私どもの見解としては,完全に通信傍受令状と同じになってしまっていると思うのですが。
●有体物の差押状と同じ考え方をすれば,1日の時点で10日に存在する記録をベースにして記録の作成を命令するというのは,許されることになるのだと思いますが,ただ,現実問題としてどんな場合にそんなことが疎明できるのかということを考えますと,余り想定できない,余り現実的ではない想定かなと思います。
●そうすると,通常はそういう令状を持っていった時点に,現にあるメールボックスだけ,空だったら空のメールボックスを差し押さえていくというような,そういうことしかできない。
通常,メールを読んだらその瞬間に消していくという形にしている人が多いと思うのですけれども,そうするとそうなってしまうことにならないですか。一定期間来るメールを,メールボックスに保管させるという措置はプロバイダに命じておけばできると思うのですね。そういうことをお考えになってこの措置がとられているのかなとも思ったのですが,そうじゃないのでしょうか。
●そういうものを想定しているわけではありません。
●既に存在しているメールボックスを差し押さえるという意味ですね。
●ほかに,ただいまの第四につきまして御意見ございませんでしょうか。
先ほど申しましたように,今日は結論を出すというわけではございませんので,それぞれ御意見をちょうだいして,それを整理した上で次回以降にまとめるということでございますので。
特に第四についてございませんでしょうか。
それでは,予定いたしました第三と第四につきまして少し整理をさせていただきたいと存じます。
第三につきましては,まず,この電磁的記録に係る記録媒体の差押えの執行方法,こういう執行方法についてこのようないわば改正を必要とするかどうかということについて,御意見を賜ったわけでございますが,御意見を拝聴しておりますと,全体として見ますと,こういうものが是非必要であるという点については御異論がなかったかと思っております。それでよろしゅうございますね。
その上で,個別の問題として,移転の御議論があったわけでございますが,これも,全体の流れとして,こういう「移転」というような表現で電磁的記録を移していくということの必要性は大体御承認いただけたかなと思っております。
そういう点で,これまでの御議論は事務当局で今後整理をさせていただきますけれども,基本的にはそういう方向で立案をさせていただくということにさせていただきたいと思います。
第四につきましては,ただいまのような議論がございましたけれども,こちらはそれほど対立というのはなかったような感じがしておるわけですが,特に「記録命令差押え」という,こういう表現でいいのかということは検討の余地があろうかと思っておりますけれども,それ以外に,是非ここは検討すべきであるというようなことがございましたらお教え賜りたいと思いますが,いかがでしょうか。
特にないようでしたら,第五は更に議論を生みそうでございますので,少し早いですけれどもこの辺で休憩とさせていただきます。
(休憩)
●それでは,再開をさせていただきたいと存じます。
先ほど申し上げましたように,後半は要綱(骨子)第五について御議論を賜りたいと存じます。
先ほど冒頭で,これまで議論になりました要綱第五関係の論点を紹介していただいたわけでございますが,論点がたくさんあるようでございますので,審議に御協力のほど,ひとつよろしくお願いいたします。
それでは,早速でございますが,御意見を賜りたいと存じます。
●この第五のところで,先ほど御説明の中で場所の問題等がいろいろ出ていたのですが,それにかかわると思いますけれども,「差し押さえるべき物が電子計算機であるときは」,「電気通信回線で接続している記録媒体」云々のところまで広げられるというのが第五の特色だと思うのですが,今までの私どもの差し押さえるべき物の範囲というのは,やはり対象となった電子計算機そのものの中に入っている記録というふうに考えていたのですが,これがどんどん広がって,「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるもの」というふうに広がっていくという,この限定がないままで広がっていくのではないかというふうに思われるのですが,その辺はどういうふうに考えておられるのか。場所概念というもの,特定性というものをどういうふうに考えているかということが大いに疑問があるので,その辺について再度ちょっと御説明いただきたいということが私のお願いです。
●先ほども冒頭で御説明いたしましたが,差し押さえるべき電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にある,そういう記録媒体であるということを捜査機関が疎明をして,裁判官がそれについて判断をした範囲でのみということでございますので,そういう形で限定がされると。電磁的記録は,記録媒体から離れて存在するといいますか,ネットワークが発展している現代の社会で,どこに記録されているかという物理的な場所はそんなに意味をなすものではない,その前提で裁判官が適切に判断をした範囲に限定されますので,必ずしもどこの場所という形での限定をかけなければ,憲法35条の要請を満たさないということにはならない,そういう理解に立っております。
●今のことで言うと,有体物の場合でも,例えば,ある犯罪に係る物を,それは記録された物でも構わないのですが,そういうものを差し押さえるといった場合に,A倉庫に行って,関連するものはA倉庫ではなくてB倉庫にもあるということはあり得るわけですね。つながっているかという,そういう意味で,電子回線でつながっているかどうかということは言えないという問題はあるにしても,関連性という意味ではそういうもので広がっていくということになるので,物で考えると。そういうアナログ的考えでいくと,この電気通信回線でつながっているからいいのだというふうになるのかという……。今回の場合ですね,どこが違うか。差し押さえるべき電子計算機というのは,その電子計算機の中にデータが残っているという,アナログ的解釈で。
そうでなくて,いや,とにかくその電子計算機を使ってすべて接続できるところには行けるのだという,そもそもそういう概念で今動いていないわけでしょう,現実にも。今の裁判所の差し押さえるべき物が電子計算機であるといったときの電子計算機というのに,広がって,つながっている記録媒体にすべて接近できるというふうには現状はなっていないわけですね。それを今回広げるわけでしょう。そういうことでいうと,今までの有体物を押さえるとき,A倉庫を押さえるというだけだったものが,A倉庫だけでなくてB倉庫にも関係しそうだというときに,有体物の場合はB倉庫に行ってはいけないのに,この場合にはA倉庫からB倉庫,C倉庫,D倉庫というふうに行けるという違いというのは,電子回線でつながっているかつながっていないかだけですかということです。
そうなってくると,場所的概念というのは正になくなるから,私から言わせればそういう限定がないということだったら限定がないという解釈をしてしまうと,有体物の方の限定がないという解釈につながってくるのじゃないですか。
●倉庫の例の場合には,A倉庫に目的の証拠が存在する蓋然性があるということで令状が出ている以上,それでB倉庫には当然行けない。B倉庫に存在する蓋然性があるのならば,B倉庫に対して令状が出される。これは,それぞれの場所に当の証拠が存在する蓋然性があるかどうかという判断であって,そのような判断に応じてそれぞれ令状が出るということだと思うのです。
これに対して,今,問題となっている記憶媒体等の場合には,手元のコンピュータと一体として利用されている実体があり,いわば一つのシステムを構成しているわけですね。そのシステムのどこかに目的としている電磁的記録がある蓋然性が等しくあるという場合に,それを同一の機会にそのシステム全体を対象として捜索することを許すというものであり,一つの場所を対象として捜索する場合に近い形態だと思うのです。そういうことから,一つの令状で,しかし裁判官がその範囲を明示して捜索を許す,そういうことだろうと思うのです。
必要性の点は,今るる○○幹事の方から説明されたような使用の実態というものがあり,問題の記録が一体として利用されているような場合に,システムのどこにそれが貯蔵されているかは,捜索してみないと分からない。そういう場合に,特定できる限りは一つの令状で捜索・差押えを許すことにしようという考え方だと思うのです。
●今の点,A倉庫,B倉庫の話なんですけれども,一つのシステムとして利用されているということであれば,別に電子回線でつながっているかコンピュータかということに関係なく,ある人間がいろいろな場所を自らの,例えばある犯罪ならある犯罪の拠点といいますか,場所として有機的に結合させて利用しているということはよくあることなので,そういうものとして有機的一体だというふうに見るというふうになってしまうと,今回のこの電気通信回線で接続しているという特色が,質的に何か違うのだというならまたあれですが,私は質というよりも量的な差かなと。そのあたりの議論をしておかないと,一般の有体物の方に広がるという危険性が逆にあるというふうに思うものですから,その辺を第五で詰めた議論をしなければいけないのではないか,そういうことなんです。
●有体物がどこの倉庫に置いてあるのかという可能性,蓋然性,A倉庫にあるのかB倉庫にあるのか,A倉庫にあると思われるときにB倉庫にもあるかもしれないという可能性と,ネットワークが発展している中で,データをどこに置いてあるかというのは,実態において全然違うわけで,そこには質的に差があるのだというふうに考えて,それを前提に考えているものであります。
●電気通信回線に限定するのはどういう趣旨かという御質問だったと思います。
●有体物であれば,A倉庫の令状でB倉庫に行くことはできませんね。やはり,B倉庫にあるという蓋然性があれば,B倉庫の令状もとらなければいけない。こういうコンピュータの関係では,A倉庫からリモートしてB倉庫があると,こういう形になっている,そういうふうに理解したらいいのじゃないでしょうか。
この前のニフティの方でも,B倉庫という本体のあるコンピュータのところに行かれても,係員もいませんし,結局機械が置いてあるだけですと。そこからアクセスできない。Aという倉庫からリモートでBという倉庫を,言ってみればあけて,そこの情報を呼び出したり,それからその中に納めたり,そういうことができるのだと。そういうことになると,そういうふうにA倉庫からリモートコントロールしてB倉庫のかぎを開け閉めできるのですよということを,そういうことをやっているのですよということを示せば,正にA倉庫の令状によってB倉庫のかぎを開け閉めして,そこに入っているものを取ることができる,こういうふうに考えればいいのじゃないでしょうか。
ただ,A倉庫からB倉庫についてリモートができるという,そこを疎明しなければB倉庫の情報はとれない,こういう意味合いなんじゃないかなという気がするのですけれども。
●そのような場合もあるでしょうけれども,向こうの記録がためられているところが特定できれば,そこに行けば見ることができるという場合もあるのです。そういう場合も含めて今回の処分ができるということだろうと思うのですが,あえて物の場合になぞらえて考えますと,一つの建物の中に管理権者の異なる部屋が幾つかあるが,それらはかなり一体的に利用されていて,そのどこかに証拠物がある蓋然性があるといった場合に,1個の令状で全体の捜索ができないのかですね。もちろん,管理権者が異なりますので,その令状には対象となる個々の部屋をすべて特定して明示しないといけないのですが,特定明示されている限り,一個の令状でできるのだろうと思うのです。それは,例えば,同じ部屋の中に管理権,支配権の異なる金庫があるという場合などにも,その場所と金庫とを対象として特定明示すれば一個の令状で捜索・差押えができるのと同じだと思うのですね。
それは,その全体に共通して特定の証拠物ないし記録がある蓋然性が等しくあり,同一の機会にその全体を捜索することについて正当な理由が共通して認められるからで,そういう範囲では一個の令状でカバーできるという考え方によっているのだと思うわけです。それと,考え方としては基本的に違わない。そうでなければ,質が違うといったことでは,憲法の令状主義との関係の説明がつかないのではないか,私はそう考えております。
●実際に,リモートストレージの場合に,一つの令状でやってしまいたくなるという捜査官側の気持ちはよく分かるのですけれども,LANの場合はかなり利害状況が違ってくる。いろいろな人が,いろいろな管理権限で使っているものが全部つながっているという場合があるわけで,一体というふうに言えないものもLANでつながっている。その場合は,ここにある「電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況」にあるかどうかの判断をするのだというふうに先ほど御説明があったわけですけれども,そこはそれで本当にできるかどうかという疑問があると思います。
振り返って考えると,この第五項は,これは憲法でいっている捜索する場所を明示する令状というふうにはいえなくなっているのじゃないか。必要性があるという点は認めますけれども,一般的にいえば,犯人がいる,その人が持っているものは全部差し押さえたいというのがそもそも捜査機関側の見解だろうと思うのですね。しかし,それを,捜索する場所と物を特定する令状を持って来なければ押収できないというふうに決めたのが憲法であって,それの例外を作ろうとしているのだと思うのです。例外を作るのであれば,どうしてその例外が必要なのか。
本来でいえば,これは別の令状を取り直せばいいわけですね。現状は別の令状を取り直しているのだと思うのです。そんなに時間を要さないで令状は取れる。しかし,令状を取り直していたら間に合わない場合があるじゃないかというふうに言われるかもしれませんけれども,その場合は,何らかの,第七でいっている保全とかそういうような要素もとれるわけで,どうしてこういう場合に,例えばリモートストレージのところで議論するから一体だという話になるわけですけれども,LANの場合は一体とは私は絶対思えませんので,その場合に1通の令状で全部足りるのだというところの説得力のある根拠を示していただきたいと思います。
●2点あるかと思います。先ほど○○委員が御指摘になられました電子計算機に電気通信回線で接続しているという場合に限定する趣旨はどこにあるのかということが1点かと思います。それから,ただいまのどの範囲で明示するかという明示の可能性といいましょうか,2点あると思いますので,まず第1点について事務当局から何か御説明がありましたら……。
●先ほどから何度か申し上げさせていただいておりますが,ネットワークでのデータの利用といいますか,電気通信回線で接続した状態での電子計算機の利用形態が一般化しているなかで,電磁的記録は,媒体とのつながりが弱いといいますか,容易にどこにでも保管できるというのが特質であって,そういう意味で,電気通信回線で接続している記録媒体は,特徴といいますか,特質があって,そこに,こういう第五のような処分ができるようにする実質的理由があるというふうに考えてもいいのではないかと考えているということであります。
それから,場所の制約の問題でありますが,要するに,令状主義の基本的な考え方というのは,あらかじめ裁判官が差押えをすべき正当な理由があるかどうかを判断できる,物なら物ごとにといいますか,それは物が違えば正当な理由も違ってくるからという前提があって,物ごとということになっているわけでありますから,今申し上げましたようなネットワークでのデータの保管の特質性を前提にすれば,何らかの範囲でその正当な理由の判断をできる範囲が決められるのであれば−決められるといいますか,正当な理由の判断ができるのであれば,それを前提にしてその範囲で捜査機関に権限を与えるという制度をとれば,それで,物理的に場所を特定していなくても,令状主義の要請は満たすことになるのだという理解でございます。
●同じことの言い換えではございますけれども,確かにどこでも保管できるという意味でありますが,これは,電気通信回線というものを経由しておるという特質から,しかも,電子計算機によって処理しているということから,結局,当該対象となりました電子計算機内におけるストレージと同じような管理形態を直接的に他の記録媒体の一部について現に行っておるということでございます。その意味で,電気通信回線というものでつながっているということと,電子計算機による処理という特質から,一体として把握できるものと,それに限って事前の令状審査によって,その限度で複写等を可能にしようというのが今回の御提案ということでございます。
●今のお話を承っていますと,電子計算機を押さえればその電子計算機の本来的な機能として接続されている部分については及ぶのだと,こういう話のようですが,やはり限定の意味としては,保管と使用というのが大事なように先ほどから感じているわけです。電磁的記録の保管ということと,それから電磁的記録の使用ということの意味合いを御説明いただければ有り難いのですが。
●ここで言っております「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されている」というのは,差し押さえるべき電子計算機で処理することとなる,そういう電磁的記録を保管−保管というのは,物理的な握持の中にあるというのではなくて,ここでは,リモートの場所に,要するに自由に変更できる,あるいはいつでもダウンロードできる状態で置いてあるという意味で,「使用されている」というのは,そのような差し押さえるべきコンピュータで処理することとなるそういうデータの保存場所にしているといいますか,保存に使われている,そういう状況にある記録媒体という趣旨でございます。
●今,抽象的な質問だったのですが,そうしますと,例えばLANのような場合,一定の使用者から一定の共有ファイルなり何なりに入っていけると思うのですが,それは,例えばセキュリティのかけ方であるとか何かによって,当然限定が変わってくると,こういう趣旨になるのでしょうか。
●はい,もちろん,LANの場合,例えば,ファイルサーバが会社全体としてあると,その場合に,ある職員がそのデータを保存する場所としてアクセスすることが許されている場所というのが,基本的にといいますか,中心的にリモートの対象として考えられる記録媒体でありまして,もちろんアクセスできないような場所というのは,幾ら電気通信回線でつながっていても,処理すべき電磁的記録を保管する場所になっていないという意味で,当然,この処分ができることにはならないという前提であります。
●ほかにいかがでしょうか。
●本質的な議論ではないのかもしれませんが,令状を取り直すことで問題がないのではないかというお話がありましたけれども,例えば,執行にかかった後,その被疑者関係者を全部何らかの形で拘束しておくような権限等が別途あるならばともかくとして,極めて容易に証拠隠滅が可能な状況になりますので,令状の時間,そんな簡単とは思いませんけれども,仮に短時間だとしても,容易に証拠隠滅行為が行われてしまい,何ら目的を果たせないのではないかというふうに私は思うのですが。
●いかがでしょうか,ただいまの点につきまして。
●○○委員が言われたことには,あるいは誤解ではないかと思われる点があります。
一つは,コンピュータを対象にした令状を持って捜索に行ってみたら,ほかにつながっていて,ほかのところにストレージされていたという場合に,元の捜索の範囲が拡張されるというイメージでお考えのようなのですけれども,それは,今回提案されていることとは違うわけです。今回提案されているのは,あくまであらかじめ裁判官により伸びていく部分について令状で特定して許可されている,その限りで許されるというものなのですね。もう一つは,○○委員は令状を取り直せばいいと言われたけれども,取り直せばいいというのは特定ができるということを前提としているはずですよね。そうだとすれば最初から特定できているので,あとは各別の令状が要るか一個の令状で足りるかという問題だけだと思うのです。特定の問題だとすれば,一個の令状でやろうが二つに分けてやろうが同じだろうと思いますね。
●焦点は○○委員がおっしゃられるとおりだと思います。ただ,やはり各別の令状をとるべきかどうかというところが理論的に見て,今までの憲法の場所概念を電脳世界では違うのだという説明をせざるを得なくなる,あるいは合理性があるじゃないかという説明をせざるを得なくなると。ただ,やはり合理性があるじゃないかとか,存在する蓋然性があるじゃないかとか,管理権単位じゃないかという議論というのは,電脳世界じゃなくて普通の世界でも行われるわけで,ここで35条のコントロールを,例えば物の存在する蓋然性がある,それから管理権を単位に考える,それから裁判官の判断が行われたと,それから必要性がある,合理性がある,これでいきますと,電脳世界の捜査だけではなくて,単純な有体物の捜査の場合にも令状主義における場所の概念というのはどんどん広がっていく可能性がある。だから,そういう意味では場所概念についてはこうした電子的捜査については,特に別に考えるとか,そうしたことを何らかの形,つまり審議会でもいいですし,国会なりの説明の中できちんと明らかにしてほしいというのが願いです。
まず,これ,条約の担保との関係で考えた場合に,本当にこういう規定が必要なのか。各別に令状を出すという対応でこの条約の担保ってできないのかというのが一つ。これはできるという見解もあるように聞いています。
さらに,この第五については,従来の場所概念,コントロールですけれども,あれは捜査機関に対するよりも,憲法の命令は,まずは裁判官に対する命令ですよね。それから立法機関に対する命令ですよね。従来物理的場所という形で観念されていたわけですから,それを電脳世界では違うのだということで,それとはまた違った概念を立てるのだというのならそれをはっきりさせると,違うということであれば,例えば緊急捜索とか,そっちとも違う,また別の原理があるのであれば,それをきちんと明らかにすべきだと思うのです。つまり,合理性があるとか管理権とかいうことでは,ちょっときついなという気がするのですが,その辺は……。
●場所概念ということについての意見になるのかもしれませんけれども,二つのことを言いたいのです。
一つは,やはりこれは対象が電子計算機という物体ですから,一応それは空間的に位置をどこかに占めているわけですから,それには場所という概念はあるのだろうと思うのですけれども,そこに入っている情報がどこにあるかという場所概念は,これは意味がないと。それは先ほど○○委員が言われたとおり,その情報の性質によって,そのハードの中にあるかもしれないしリモートにあるかもしれない,そういう問題だろうと思うのです。後でもう一度質問したいのですが,もう一つの場所概念が出てくるのが自国領土内という話で,そのリモートの場所が極端に遠い場合には,もう一つの場所概念の問題になると,そういう構造じゃないかと,こう理解していますので,その中間的にある情報がどこにあるかということについては,基本的にリモートであれ何であろうと,特定された電子計算機の中から接続されているということさえあれば,それは場所概念は問題でないというふうに言えると思いますけれども。
●憲法との関係については,多分混同があるのだと思います。令状には捜索すべき場所,差し押さえるべき物を特定しなさいと言っている,その特定性の問題と,各別の令状によるということとは異なる要請であって,少なくとも前者の方はアメリカの憲法から来ていることは間違いない。
後者の要請との関係では,さっき例に挙げましたように,ある場所に行ったら異なる管理権者に属する金庫があったとか,あるいはそこに人がいるといった場合に,同一の令状でその場所と金庫,あるいは人の身体を対象として記載して捜索を許すこと,そういうことを1通の令状で許せるかどうかといいますと,そういう令状を出すことはできるだろうと思うのです。
管理権との関係は,その際に令状に対象として特定明示されていなければならない単位となるという話であって,各別に令状が必要かどうかというのは,それとは別の問題である。さっき最初に○○幹事が御説明になったことですけれども,同一の機会に行われる捜索で,同一の物を探すという場合に,それを裏づけるだけの正当な理由が共通してあるかどうか。場所が違えば目的物が存在する蓋然性も違ってくるのが普通なので,通常は別個の令状にしないといけない。つまり,裁判官がそれぞれ別個に正当な理由があるかどうかを判断しなければいけない。しかし,1回で判断できる範囲なら1回の令状で足りる。捜索場所に人がいる場合にも,その場所と人とを対象にして1通の令状で捜索を許すことができるのは,そういう理屈だと思うのですね。
そこが混同されているものですから,管理権を単位にするのが原則で,その例外と位置づけろという先ほどのような議論になるのだろうと思うのです。
●そのとおりです。そこでの場所概念をどうするかいうことを,有体物の捜査とは違うということをはっきりさせてほしいというお願いなんですけれども。
●令状の案が出ていると思うのですが,この案の携帯電話と電子メールとリモートストレージ・サービスの場合,この三つの場合は,確かに差し押さえる対象の物と拡大される部分が一体であるというふうにみなせる,だから必要性が非常に高いということは分かります。
それでもなおかつ,私としては,捜索する場所の例外をつくっているのだから,その例外について,ある意味でいえば憲法をこの時点で変えなければいけないのじゃないかと。
アメリカ憲法と日本の憲法と違っているわけですけれども,捜索すべき場所というものを電子情報の場合にはその部分についてここまで緩めていいのだというふうに今の時点で判断するのだとすれば,そのように憲法を解釈し直すという,そういう決断が必要なんではないかと。
ましてLANの場合,これは「上記パーソナル・コンピュータとLANで接続しているグループウェアサーバの記録媒体の記録領域であって,被疑者のID によってアクセスできるもの(○○課の職員がファイルを記録するのに使用しているものに限る。)」となっていますけれども,この括弧の中,これが必ず書かれるのかどうか,具体的にその課の職員がファイルを記録するのに使用しているものというものを除いてしまうと,これは非常に大きなものになり得るわけです。ですから,少なくともLANの場合には,現実に捜索対象となっているコンピュータと一体の情報というふうには限定されていない。この記載例について言えば。そこは,はっきり違っているというふうに指摘したいと思います。
●いかがでしょうか,何か事務当局でただいまの御意見について。
●今の御質問の「○○課の職員がファイルを記録するのに使用しているものに限る。」というのが必ずつくかということにつきましては,それは,つく場合もあればつかない場合もあるということであります。つかない場合でも,例えば逆にサーバ側に捜索差押えに行った場合というのは,基本的に,A課であろうがB課であろうが,記録媒体ごと差し押さえれば全部になりますし,ここで特段に広がっているわけではないのでありまして,いろいろな形,ここの例でいいますと,グループウェアサーバ,あるいはファイルサーバに限るよとか,メールサーバに限るよというような要素ですとか,被疑者のIDでのアクセスできる部分という,いろいろな要素で限定がかかるわけでありますし,それに加えて,そもそもアクセスできない部分というのはおよそ入っていませんので,無限定に広がっているという意味ではもとよりないということを御理解いただければと思います。
●無限定とは言いませんけれども,一体のものだという御説明をされるから,一体のものでないものがこのLANの場合には含まれているじゃないですかと。そこは説明が違ってくるのじゃないですか。やはり管理権限,アクセスをできるかどうかというところで判断されているわけだから,そこはもう一段別の説明が要るのじゃないですかということなんですが。
●例えば,ある会社の職員が被処分者として想定されていて,その職員が使っているパソコンからアクセスできるところで,その職員のIDによってアクセスできるものに限られていて,そのファイルサーバといえば,その特定の被処分者が自分のといいますか,手元のコンピュータで処理することになるデータを保存している場所になるわけですので,そういう意味で,手元のコンピュータの保存場所,そのコンピュータ自体にくっついているハードディスクといわば一体的に利用されているという状況にあることには変わりないものというふうに言えるのだと思います。
●捜索する場所の特定について,先ほどから議論が出ていますけれども,憲法が捜索する場所の特定を要求しているのは,これは,従来は捜索する場所というのは大概は空間的位置を示すことによって限定をされてきたわけですけれども,しかし,憲法が捜索する場所の特定を要求している趣旨は何かといえば,やはり正当な理由がないようなところについて無制限に捜索ということがなされてはプライバシーが制約されて困る,そういうものを限定しよう,正当な理由と申しますか,要するに押収すべき物が存在する蓋然性があるような場所に捜索を限定しようというところに真の意味があるはずだろうと思います。そういう趣旨との関係でいえば,空間的位置を明確に示さなければいけないということが必ずそこから導かれるかということは,これは一つ疑問とするといいますか,考えてみる余地がある点だろうと思います。
その上で,普通の例えば倉庫とかいったものの場合には,空間的位置が違うことによって押収目的物が存在する蓋然性があるかどうかという判断が,多くの場合は変わるのだろうと思います。そのこととの関係で,どこについて正当な理由が認められ,どこについては認められないかという判断も,恐らく個別化されてくるということになるかと思いますけれども,コンピュータの場合,それと一体としてどこか別のところに電磁的記録を保管するために使用されている場所がある場合に,電磁的記録というのは簡単に移動もできるわけですし,正にもともとの電子計算機を捜索するその正当な理由というのが,同じように,保管するために使用されていると認められる部分について認められるということは,これは大いにあるのだろうと思うのです。その場合に,正当な理由が認められる場所をそういう形できちんと限定できるということであれば,その保管に使用されている場所が果たして空間的位置としてどこかということが必ずしも特定されなくても,捜索すべき場所を特定するということの趣旨というのは害されてはいないというふうに言うこともできるのではないかと思います。
●ちょっと別のことをお尋ねするのですが。
検証との関係でありますけれども,恐らく,検証すべきものが電子計算機であるといったときに,その電子計算機の稼働状況であるとか,接続の有様というのも検証の中身に当然入ってくるだろうというふうに思うわけです。そのときに,接続の有様の中身として特定の一定のサーバなり何なりということの中の電磁的情報の利用の状況であるとか,さらに事によると電磁的情報の内容そのものということも認識の対象になり得るかなという気もするわけですけれども,それらの処分と,この第五の処分というのは違うものとして発想すると,こういうことになると思うのですね。そうすると,現行の検証とここの第五の処分というのは,どこがどう違ってくるのか,どこがどう広くなったり狭くなったりいろいろあり得るかと思うのですが,そこら辺のところの議論をちょっとお尋ねしたいと思います。
●今回,電磁的記録の特性といいますか,それを考慮いたしまして,電磁的記録の差押えを中心にいろいろと捜査手続の整備をやろうとしております。したがいまして,基本的に,この要綱が法案となって施行されるときには,電磁的記録の証拠収集の在り方というのは差押えが中心になるということになります。それは,あくまでも記録媒体あるいは場合によっては第三とか第五の形で電磁的記録を複写したりする処分になる,それも含めてでありますが,それが中心になりますが,なお今委員がおっしゃいましたようなコンピュータの稼働状況を明らかにする場合など,検証が必要になる部分はやはり残ってくると考えています。
例えば,差し押さえようとするコンピュータから,どこかの電子掲示板みたいなところにアクセスできるようになっていて,その被疑者がどういう情報を見られたとか,見ていたのかという,そういう状況を明らかにするときというのは,場合によっては,手元のコンピュータで処理すべき記録の保存場所として電子掲示板の記録領域も一体として使われているというような状況の場合には,第五の処分を使うことになりますが,単にどういうのが見られたのかというようなことを確かめる,そういう場合も含めて,検証でやる場面というのは幾つか残る,そういうことになろうかと思います。
●また戻ってしまって申し訳ないのですけれども,先ほどからの議論でまた同じことになるのですけれども,一つのシステムですとか,容易にどこにでも保管できるとか,極めて証拠隠滅が簡単だとか,そういう理由というのが果たして普通の有体物の場合と違うのかというのが,さっきから私は腑に落ちないのです。瞬時にしてできるという,電子計算機に電気通信回線で接続しているというシステムの場合には,瞬時にしていろいろ移動できるのだとか,瞬時にして何ができるのだというふうにおっしゃっていると,有体物の場合は瞬時にはできない,例えば証拠隠滅しようとすれば,それなりの時間がかかってしまう,あるいは物の管理をするとき,あちらからこちらに移すとかいうときも,ぱっとは移せないという意味では瞬時ではないということだけになるのかなという感じがすると,時間的に極めて短いということだけが電子回線でつながっていることの特色なのか。
そこのところが,そうではなくて,電子回線でつながっている場合には,こういう質的な特色があるのだという何かがあれば,私はそれはそれでこういうシステムで差押えをしたり,いろいろするということがだめだと言っているわけではないのですけれども,そういうことをするならそういうものの特色としてできるのだということをはっきりさせて,有体物の場合にはそれは及ばないと。ところが,先ほどから聞いていると,どうも憲法の解釈は場所は正当性でいいのだとか,いろいろなことを言われてしまうと,何となく今までの有体物の概念をもう少し広く見ているのかなというふうにとらえかねないものですから,その辺のことをちょっともう少し議論していただきたい。
35条は35条としてはっきりあるけれども,この電子計算機の場合は特別なんだというのか,35条の解釈で電子計算機のこれができるのだというふうに言っているのか,皆さんがどういう形なのかということをお聞きしたい。
●私は,この特色は実に電磁的記録であるというところにあるのだろうと思っております。
●今の点にかかわるわけですが,この憲法35条との関連も場所概念にかなりリンクするわけです。これは,場所というのは,物の存在形態が大きな条件になるわけで,有体物についてはどうしても場所が必要になるわけですが,今のコンピュータシステムの中での電磁的記録というのは,今言った意味での場所的条件を全く必要としないという意味で,質的な差があるというのは私はそのとおりだと思うのです。ですから,それに合うような形で捜索・差押えのやり方というのを考えるべきだというのは,このサイバー条約の注釈書の中にも出ているわけですから,それとの関係で,無理に従来の有体物そのものの類推というよりも,新たなプライバシーの保護とかそういった観点で,この要綱で出ている「電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にある」という部分をかなり明確な形で表現すれば,今言ったような不当に広がるという危惧というのはかなり消えるのではないかなというように思っております。
●ほかに,御意見とか御質問ございますか。
●私なども,場所の概念を広げようということを言っているのではなくて,○○委員が言われたのと同じことですが,35条で保障されていることの趣旨というか,その保障は守られているのだろうということなのです。むろん,対象が有体物じゃないものですから,形は違ってくるかもしれないですけれども,実質的な保障の趣旨は守られているということです。
○○委員は,憲法35条とは別であり,特別なのだということならば納得できると言われましたけれども,そんな立法は現行の憲法下でできるわけはなく,そちらの捉え方の方がよほどおかしいと思うのですね。憲法を変えれば話は別ですけれども。憲法35条の趣旨は満たされているということを私などはさっきから申し上げているわけで,それは,ご懸念のように,場所の方にはね返って,場所についてのこれまでの観念が緩やかになってしまうというようなものではないと思うのですよ。場所が異なる場合には,さっきから何人かの方がるる説明されているように,場所が違うことによって正当な理由の存否の判断も別になってくることが多いので,そういうときは別の令状でなければならないということには変わりはないと思うのです。先ほども申したように,特定性の問題と各別の令状という問題は分けて考えないといけないので,そこを混同しているから,ぐるぐる回りの議論になるのだろうと思うのです。
●場所的な問題につきましても,ここで問題になっておりますのは,当該記録の保管ということで,いわば物理的に支配しておるかどうかということなんですが,その物理的支配というのが有体物と明らかに異なっておりまして,手荷物とかそういう事柄ではなしに,回線を通じて電磁的に管理しておる,直接に管理しておると。したがって,管理されている対象物,物としての存在が一体どこにあるのか,管理しておられる方自身も気にしておられないというか,御存知ない場合も多々あるような,そういう特殊な世界における話として理解すべきではなかろうかと思っております。
有体物の場合にも,これが広がるとはちょっと……,普通の有体物と余りにも異質なものでありますし,ちょっとその御懸念はいかがかなという感じはいたしますが。
●先ほど,○○委員が特色の根本は要するに電磁的記録だということだと言われましたが,これはなかなか実体をうがった表現ではないかと思うのです。
憲法が制定されましてから既に五十数年,そのモデルとなったアメリカ合衆国憲法までさかのぼりますと,200年たっているわけで,その当時の条文を現在なお憲法として尊重しているわけですが,捜索という行為について考えましても,有体物に対する捜索はやはり警官隊が足音を立ててそこに入っていくというイメージでありますけれども,電磁的記録となりますと,そのような行動を全く伴わない,スイッチ一つの話であって,その点について,捜索すべき場所の特定という問題の持つ意味がおのずから変わってきているのではないか,そういうことが今回のような「電気通信回線を通じて」という法文の表れ方になってきている。
先ほどからいろいろな点で違いがあるという御発言,御主張があったわけですけれども,そこに一つつけ加えて,そのようなことを申したいと思います。
●ほかにいかがでしょうか。
●別の観点からよろしいでしょうか。
具体的な要件論でお尋ねしたいのですが,第五の一にございます「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況」,これは,裁判所が判断することになるわけでございますが,先ほど冒頭の○○幹事の御説明では,例えばリモートアクセスされる対象のサーバ上にある電子ファイルをダウンロードできる,つまり閲覧のみできる場合であっても,この場合に当たるかのようにもお聞きしたのですが,これまで「管理権」あるいは「管理」という言葉で議論されていたところからすると,単なる閲覧だけではなくて,それ自体を改変・更新できるような権限がないと,管理権とは言えないようにも思えるのですが,このあたり,どのように整理していらっしゃるのか,お尋ねしたいと思います。
●第五の処分でアクセスできる範囲といいますのは,あくまでも差し押さえるべきコンピュータで処理することとなる電磁的記録の保管場所,手元のコンピュータの記録媒体と一体的に利用されている場所ということでございますので,先ほどもちょっと申し上げましたが,電子掲示板の記録媒体があって,そこから記録をダウンロードできるというだけの場合というのは,手元のコンピュータの記録の保存場所という評価にはならないはずでありまして,したがって,ここの要件にも当たらないし,リモートの対象先とは基本的にはならないと考えております。ただ,電子掲示板であっても,電子メールと同一のような通信の手段としているような場合,そういう形態で利用されていると疎明できるような場合もあり得ると思いますが,基本的には,ダウンロードすることができるというだけのアクセス権限の場合には入らないというふうに考えております。
●よろしいでしょうか。
●誤解かもしれないのですが,お伺いしたいのですけれども。
この第五の場合は,コンピュータの場所と記録の場所が違う場合だと思うのですが,この場合には,「移転」とかいうことは考えなくていいということなんでしょうか。「複写」と書いてありますが。記録の移転というようなことはあるのでしょうか。
●基本的に「移転」は考えていないので,書き分けております。移転を認めることになりますと,リモート先の記録媒体の保管者の利益にも影響を与えるという問題もありますし,複写の限度でこの案は考えているということでございます。
●これも質問ですが,条約の19条の3項の書き方を見ると,「1又は2の規定に従ってアクセスしたコンピュータ・データ」云々ということで,要するにリモートの場合はそのアクセスの手段であって,実際に行う措置は共通のような書き方になっていますが,抑制的に立法されるというふうに理解すればよろしいわけですか。
●先ほども申し上げましたように,アクセス先の記録媒体の管理者のの利益の保護という観点もありますので,こういう限度で考えているということでございます。
●ほかにいかがでしょうか。
●既に第1回の会議でお聞きしたことで,重ねて確認的な質問でしかないのですけれども,本日の議事録にも載っておりますけれども,リモートの場所が日本にはないという点がちょっと気になっておりまして,確認したいのですが。
その捜査というのは,捜査の段階で分かっているというケースはどういうような場合なのかということが一つ。
それから,実際に接続して,今のようにダウンロードというか複写しようと思ったら外国だというケースはないのかというようなこと。
それから,もし外国であった場合にはどうなるか。これは,本部会の議題とは違うのでしょうけれども,その場合にはどういうふうに手続は進むことになるのか,そのあたりちょっと御説明いただけると助かります。
●まず,令状発付の段階で分かることがあるのかということでございますが,例えば,今日お配りさせていただきました記載例の電子メールの場合ですとか,リモートストレージ・サービスの場合,それから,携帯電話の場合も同じかもしれませんが,例えば電子メールの場合で申し上げますと,アカウントに対応するメールサーバのメールボックスという特定の仕方でありまして,ニフティのとか,あるいはAOLのとか,そういうことを特定しないで出せる場合もあり得るだろうと考えておりますので,この場合は,国内にあるものもあれば国外にあるものもあり,令状発付の段階では分からない形で令状が発付されることになるのだろうと思います。
それから,国外にある記録媒体に対して,このリモートの処分ができるのかということになりますと,それは,結局,外国の主権を侵害することになるのかどうかということでありますが,外国の主権侵害になるのかどうかという点につきまして,あるいはどの範囲であれば外国の主権侵害にならないのかということについては,まだ,国際的に見解が統一されているわけではないと。この条約でも,32条で,一定の場合について外国の承認なしにアクセスができる場合というのは定められておりますが,それ以外の場合については何とも定められていないということでございますので,捜査機関といたしましては,外国の主権侵害の問題が生じるおそれがある場合,つまり,アクセス先の記録媒体が外国にあり,条約の32条が認めている場合でもないときには,基本的にはその外国の同意を取り付けるなりすることが望ましい,それが捜査の執行方法として望ましいということになるのだと考えております。
あとは,現実の執行場面で,例えばメールサーバの場合でも,メールボックスのアドレスというのは差し押さえるべきコンピュータの記録から判明することになりますので,つまり,執行場面で判明することになります。その場合に,そことどういうルートでデータのやりとりをするかという,そのルートは確かめられる場合もありますので,そういうことを判断して,少なくとも外国にあることが明らかであることになったときは,先ほども申し上げましたように,この処分も控えるということにならざるを得ないというふうに考えております。
●追加の確認ですけれども。
そのルート確認のために幾つかのプロバイダを調べてみないと分からないというようなケースはあり得るのか,また,その場合には,そのプロバイダにそういった通信履歴を出させるというようなことに発展することになるのでしょうか。
●今申し上げましたのは,例えばメールサーバのメールボックスで申し上げますと,ある差し押さえるべきコンピュータでそのコンピュータに入っているメーラーからアクセスしているメールボックスにアクセスをして,そこにある電子メールをダウンロードしてくるという場合に,そのメールボックスがあるメールサーバがどこにあるかということだけが問題になっているのだという理解でございまして,中継ポイントは問題にならない,メールボックスが外国にあるかどうかということが問題になるだけだと考えております。
●今の質問とお答え,大変興味深かったのですが,今日配っていただいたこの注釈,これの192項で「自国の領域内」というのが重要だということははっきり−3項の方ですね,「他のコンピュータシステムが自国の領域内に存在しなければいけない」とはっきり書いてあって,その点を確認されたのだと思いますが,だとすると,現実にコンピュータを使っているユーザーから見ると,自分のプロバイダを海外のプロバイダに乗り換えてしまう,カードで決済すれば簡単な話だから。それとか,リモートストレージ・サービスも国内から海外にするというふうにすれば,取りあえずこの差押えからは逃れられるというふうになって,結局,そういう情報が国内法化と同時に一気にコンピュータ雑誌なんかに広がれば,国内のプロバイダ事業者は大打撃を受けるというようなことも,要するにビジネスが海外に逃げてしまうという,そういう効果を生み出しかねないようにも思うのですけれども,それはもう条約上仕方がないのだということなんでしょうか。
●もちろん,ネットワークは世界的なネットワークになっておりますので,外国にあるものに対する捜査というのが大きな問題になっていて,それは,国際的な場面でも議論がされているところでありますので,もし委員がおっしゃるような異常な事態が生じるのであれば,それを材料に,国際的な枠組みが容易にできるようになるということだと思います。
●もともと,令状によって特定の電子計算機が差し押さえるべきものとして特定された上でのことで,ですから,何らかの被疑事実と無関係に行われることではありませんし,そういう限られた電子計算機によって保管しておるといいますか,先ほど来申し上げているような状態にあると認められるものという,極めて例外的な話でございますので,その意味で,それをおもんぱかって,一般のユーザーの方が乗り換えられるというのは,ちょっと考えなくてもよろしいのじゃないかなというふうには思われますが。
●第五の三でございますが,ここには令状の記載内容として「電磁的記録を複写すべきものの範囲」というふうに書かれております。これは,読みようによっては非常に自然で問題ないようにも感じられますけれども,しかし,特に「範囲」という言葉が入って,また読みようによっては,この令状は捜査機関の権限の最大限度を示すだけであって,この範囲内で捜査機関は適宜裁量権を行使してやればいいというようにも読めそうな感じを受けるのですが,この「範囲」という言葉を入れることのメリットといいますか,そういうのを御質問したいと思います。
●本日,令状の記載例をお示しさせていただきましたが,必ずしもニフティのどこどこのメールアドレスの記録媒体というような形での特定までは必要がないであろうというふうに考えておりますので,それを表現する仕方としては,「範囲」という用語が一番ぴったり来るのかなと考えたところでございます。
●「その人が契約しているプロバイダのメールボックス」というような書き方でいいということですか。
●それが分かる場合もあろうかと思いますが,そういう令状の出し方では契約しているということをまず現場で確かめてということになりますので,そういう令状が出て,そういう形での執行というのもあり得るのかもしれませんが,記載例のように,パソコンのある場所に行ってメーラーを調べてという形になるのが一つの典型であると考えているところです。
●この記載例としては,ここにあるメーラーを開いて,それのアカウントで記録されているものを全部やってみられるというふうに決めておくと。
●裁判官が,その範囲が適切だと考えれば,そういう形になるということです。
●○○関係官の後にこんなことは恐縮ですけれども,一つお願いがあります。
第五,それから第三にすべてかかわることなんですけれども,真剣に検討した結果なんですが,一度是非御当局も御検討いただきたい。
この第三,第五を含めて,今ある刑訴法上の論点なり議論を条文化したという意味では積極的に評価できるところがあると思うのです。ただ,問題は,今,○○関係官の範囲の議論がありましたけれども,差し押さえるべき電磁的記録を現場でアナログと同じ程度に,例えばこれは何々帳簿,これは何々と,こういうふうに特定するというのは,実は中身が可視化できている場合はそれは同じように考えられますけれども,そうでない場合が相当考えられる。そうすると,分からない場合はどうするかというと,要するに関連するということでがさっと全部押さえてくる,こういうことが考えられて,それは認めざるを得ない。一定限度では。であるからして,押さえる範囲については現場の裁量が相当に広く認められているとしても,それを直ちに捜査機関に持ち込むのではなくて,裁判所あるいは別途保管させて,準抗告審を擬制するとか,あるいは裁判所が令状を出す段階で特定性を求めたことについて,執行された結果を裁判官が判断する,そこでチェックを経た後の特定結果だけを捜査機関に出す,そういうデザインというのはできないだろうかということを一度御検討いただきたいと思うのです。
●大分御意見を踏まえて御審議が進んだような感じがいたしますが,この第五につきましても,基本的にはこの要綱のような考え方で立案していくということでよろしゅうございましょうか。それでは,そういう観点から事務当局にお願いしたいと思います。
本日も,大変長時間にわたりまして熱心な御議論をいただきまして,ありがとうございました。今後ともよろしくお願いしたいと存じます。
それでは,本日の審議は以上にいたしたいと思いますが,次回以降の審議について決めさせていただきたいと思います。
次回は,6月23日,月曜日でございますが,午後1時から法務省第1会議室におきまして,内容的には,要綱(骨子)第六から第八までについて具体的に御議論いただきたいと存じます。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
今日は,長時間,どうもありがとうございました。