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高木浩光@自宅の日記

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2007年11月09日

「違法性が怖くてイノベーションができるか」? 著作権法と電波法の場合

明日は情報ネットワーク法学会の大会ということで今夜は新潟に来ている。

「違法性が怖くてイノベーションができるか」と誰か言ったか知らないが、著作権をめぐる昨今の議論を聞いていると、そんな声が聞こえてくるような気がする。つまり、著作権法を厳格に守るだけの遵法精神を固持していたら、このインターネットがもたらした新しい時代に技術革新など生まれない。世界から取り残されてしまう。法律の方が変わるべきなんだ……と。これが一般化して、「法的にグレーな領域に挑戦していかないと新しいことはできないよ」という考え方をしている人がいるかもしれない。

著作権法に対してのそれはまあわからなくもない。さすがに、業務上過失致死傷のリスクを自覚してまでイノベーションを求めようとは誰もしないだろうが、著作権くらいまあいいじゃないかと。では、電波法59条はどうだろうか。

著作権法について「まあいいじゃないか」と思えてしまうのは、所詮、侵害が起きてもお金で解決して後戻りできる話と思えるからではないだろうか。だが、電波法59条の「秘密の保護」はどうだろう? そういうものだろうか?

電波法59条の規定は古すぎるのだろうか? 今の時代そしてこれからのユビキタス社会に合わせて、改正されるべきものなのだろうか? それとも普遍的なものだろうか。よくわからない。法律の専門家の先生方のご意見をいろいろ伺ってみたい。

PlaceEngineの落とし所について考えてみる

もし、自分の家のアクセスポイントがPlaceEngineに登録されるのを嫌う人が、現に登録されてしまっている事態に気づいたとき、PlaceEngineの運営会社に対して、登録を削除するよう、また、今後も永久に登録しないよう求めたら何が起きるだろうか。個別に対応してそれで終わりになるだろうか。それとも裁判沙汰になるだろうか。同じような要求が多数出始めるとどうなるだろうか。

電波法59条に違反するという判断になりそうなとき、利便性と将来性を重視して、法改正も視野に入れた落とし所を探すということになった場合、どういう線引きがあり得るだろうか。

いくつか考えられる対応と、その問題点について考えてみる。

(a) 「申し出のあったMACアドレスは削除し、今後も登録しないようにする」という対応

技術的にはすぐにでも対応可能。ただし、本人以外の手によって無差別に大量のアクセスポイントを削除するという妨害行為を防止できないかもしれない。

PlaceEngineを利用していない人(PlaceEngineの存在さえ知らない人を含む)に対して、そのような手段が用意されていることを周知しなくては問題は解決したといえず、十分な周知は困難と思われる。

新たなアクセスポイントを購入するごとに削除手続きをする必要があることについて納得しない者が、「私のものは登録するな」という主張で争ってきたら対応できない。

(b) 「SSIDステルス設定にしているアクセスポイントは、登録拒否の意思があるとみなして、登録しない仕組みとし、また、既に登録されているものは次回検出時に自動的に削除されるようにする」という対応

技術的には容易に可能。しかし、そのような仕様であることを周知しなくてはならない。PlaceEngineを利用していない人(PlaceEngineの存在さえ知らない人を含む)に対して周知しなくては問題は解決したといえない。

このようなルールが万人に受け入れられるものかどうか不明。

(c) 「暗号化設定されているアクセスポイントは登録せず、他は削除する」という対応

暗号化していないアクセスポイントは特定の相手方に対してのものではないとみなすことで、電波法59条の問題をクリアできるかもしれない。

しかし、これを採用すると登録アクセスポイント数が減ってしまい、位置の測定制度が低下する。

(d) 所有者の同意を得たアクセスポイントしか登録せず、他は削除する」という対応

法的には最も安全な対応。技術的にも、MACアドレスリストを提出してもらうことで対応可能。

実質的には公衆無線LANだけしか登録できなくなり、登録数はごくわずかとなってしまう。

AOSSの普及が進むとSSIDで検索されてしまう?

月曜の日記に対して、「何故「 MAC アドレス」に限定するのだろうか?(対象者の生活圏内で)ユニークな SSID ならば全て同じ問題が起こるのでは?」という声があった。

これについては後日書く。(朝になってしまった。寝ないと。)


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